(平成26.2.10)
食品や家電、車など、あらゆる商品・製品がものすごい勢いで次々と開発される現代だが、新しいものとはいっても、1、2年もすればその多くは消え、次のものに置き換えられてしまう。私たちはそんなサイクルの早い消費社会に生きている。いっぽうで息のながい老舗の定番商品、看板商品もある。しかし、それらだって世のなかの関心が薄れ、市場が小さくなれば存続は難しくなるだろう。
このように考えると、地域に今なお残る地域在来作物品種や伝統野菜と呼ばれる地域野菜のおかれている状況がいかに厳しいものであるかが容易に想像できると思う。
昔からある「変わらないもの」を「変えずに」使い続け、次の世代へつなげていくことは、厳密にいえばもう無理なのかもしれない。 物の流通がゆっくりしていた時代、地方野菜は、おもに農家によって小規模に必要な分だけ栽培され、地域の食文化に根ざした方法で加工されるなどして自給的に消費されてきた。しかし、今の時代、地方野菜の維持存続に関わるアクター(関係者)は、生産者である農家だけにとどまらない。消費者はもちろんのこと、自治体関係者、農業試験場や大学の研究者、生産物を調理・加工して提供する人など多岐にわたる。多くのアクターの協働作業があってはじめてその目的は達成される。
そのなかでも、地域野菜の魅力を伝える人々の役割の重要性を昨年末に訪れた
奈良県の農家レストラン「清澄の里・粟」での体験から強く感じるようになった。
奈良県では、伝統野菜を「大和野菜」と呼んでいる。県のホームページをのぞくと「戦前から奈良県内で生産が確認されている品目」で、「地域の歴史・文化を受け継いだ独特の栽培方法により『味、香り、形態、来歴』などに特徴を持つもの」とある。代表的なものに、’大和まな(真菜)’や’祝だいこん’などがある。その奈良県の伝統野菜の魅力を様々なかたちで伝えているのが、先のレストランを運営する三浦雅之さんだ。
昨年11月に「情熱大陸」という番組でも取り上げられたのでご存知の方も多いかと思う。三浦さんは、1998年から、まだ当時なじみ薄かった「大和野菜」の調査研究を独自に開始し、忘れられていた伝統野菜をいくつも、発掘しては、光をあててきた。「農家レストラン」と「コミュニティービジネス」という手法を通じ、食文化の伝承を実践していく三浦さんの姿に多くの人が共感している。ただそれは、三浦さんの伝統野菜に向き合う真摯な態度と情熱が
レストランは、ミシュランガイドで星を獲得するほどで、現在は「予約の取れない店」として有名になっているようだ。
根本和洋さん 信州大学農学研究院助教
信州大学で植物遺伝育種学をテーマに研究を行なっている。
作物育種や遺伝資源、雑穀などが専門で、日本だけでなく、
ブータンなど海外の遺伝資源の調査も行なっている。