目から鱗の魚の話Vol.5 「地物をただ並べて売る時代は、既に終わっている」

売所・道の駅はセカンドステージへ  中澤 さかな

(平成26.6.10 産直コペル vol.6)


生産者直売、今や当たり前


 各地の直売所を訪問すると、壁には出荷者の顔写真がズラリ、商品には出荷者名を表示したラベル、POPには「○○さんが作った完熟トマト」など、生産者直売による地物生鮮品のマーチャンダイジングが展開されています。
 道の駅や直売所が我が国に登場しはじめた頃は、この販売手法が非常に注目され、安心安全を求める消費者の関心も集めました。生産者直売をセールスポイントに直売所・道の駅ブームが始まるのです。あれから約20年、道の駅は全国に1,030か所、農産・水産物直売所は何と2万か所を軽く超える現在、「生産者直売による地物生鮮物の供給」は当たり前のこととなりました。かつて、道の駅・直売所といえばそれだけでお客様が押し寄せた時期があったのですが、それはもう過去の話で、この業界も「ユルイ」状態から、厳しい競争の時代に突入したと思います。

仕事柄、産地指導等で全国各地を旅していますが、地方ではマーケティング・マーチャンダイジング作業が真面目に行われていないように感じます。マーケティングとは「競争優位性の確保」、マーチャンダイジングは「競争優位性を体現する商品政策」と読み替えてください。別にマーケティングなどしなくても、直売所の建物を整備して、地物を並べて売っていれば、田舎ではそれなりに商売ができたのです。それだけ、商売の環境がユルかったのだと思います。 でも、現在はそうではありません。田舎といえども、都市部で行われているレベルのマーケティング作業を、しっかり・真面目に・じっくり・手を抜かず実践しないと勝ち組にはなれません。それだけ田舎でのビジネスも厳しくなってきたと認識すべきです。
全国各地を旅する仕事柄、時間を見つけて現地の直売所・道の駅には足を運ぶようにしていますが、中にはきちっとしたマーケティング・マーチャンダイジングが行われているお店に出会います。そのいくつかを紹介したいと思います。


直売所の個性・特徴を明確に構築する


 
 JF北灘お魚市 蓄養倉庫を活用した活魚コーナー
JF北灘お魚市 蓄養倉庫を活用した活魚コーナー
JF北灘お魚センター、徳島県の北部、瀬戸内海鳴門海域に面した北灘町にある漁協直営の小規模な水産物直売所です。水産物直売所なので、普通、地物鮮魚がずらっと並んでいるイメージがありますが、このお店では鮮魚ショーケースは幅120cmがたったの一台だけ。売り場のメインはFRP水槽が並ぶ活魚販売コーナーと漁港隣接荷捌き場にある活魚備蓄庫なのです。
貝類・エビ類の活かし完売
貝類・エビ類の活かし完売
水揚漁港隣接の立地を最大限活用して、量販スーパーなどには絶対マネのできない「活魚中心」の品揃えを実現しているのです。もちろん貝類やエビ類も水槽での活かし販売が中心。「活魚販売なら北灘直売所」ということで、競争優位性(=個性・特性)が明確に打ち出せているのです。この直売所には食堂も併設されています。そこの看板メニューが「鳴門ワカメ汁の朝定食250円」、大きなワカメ汁にアジとイワシの干物・小鉢・ご飯・香物のセットです。
 巨大わかめ汁朝定食 250円
巨大わかめ汁朝定食 250円
決して利益が出る価格設定ではありませんが、これが沿道を走るトラック運転手さんの評判になり、TV番組でも紹介され、次第に一般のお客様の知るところとなりました。これがお客様を吸引する、いわゆる「キラーコンテンツ」なのです。


お客様に楽しんで買っていただく販売演出


もうひとつ、こちらは岡山県笠岡市の広大な干拓地にポツンと立地する道の駅/笠岡ベイファーム。国道2号線のサブバイパスに面していますが、通常クルマの通行はほとんど無く、市街地からも離れた厳しい立地です。目的地としてわざわざ来てもらえる直売所にしないとやっていけないということで、スタッフが知恵を絞って考えたのが「お魚詰め放題」企画。
 笠岡BF名物、鮮魚詰め放題販売
笠岡BF名物、鮮魚詰め放題販売
殻付きカキも詰め放題
殻付きカキも詰め放題
大きな特注ステンレス台の上に笠岡近海で獲れる魚介類を山盛りにし、お客様は一人1500円で、ビニール袋にお好みの魚介類を詰め放題できるという販売演出です。月一回程度のイベント時に実施しているのではなく、開業以来毎朝やっている定番企画というのも驚きです。「これはお得!」ということで評判が評判を呼び、全国放送でもたびたび紹介されるなど、この道の駅の大きな特色になっています。この企画以外にも楽しい販売演出がいろいろと工夫され、年間売上実績は想定目標の150%以上、今年5月発売のじゃらん関西中四国版で「道の駅大賞」を受賞するなど、厳しい立地のハンデキャップを知恵と工夫で跳ね返し、繁盛駅に堂々とランキングされています。


オリジナルアイテムでキラーコンテンツ構成


そして最後は道の駅/萩しーまーとのオリジナルアイテム戦術をご紹介します。簡単に言えば、ここでしか手に入らない商品アイテムを数多く売り場に仕込むことです。しっかり数えたことはありませんが、地元の食品加工メーカーが複数入店する当館では、それぞれが新たな素材や新たな加工法で絶えず新商品を投入していますので、300アイテムは下らないと思います。それらの中でも威光を放つのが「オイルルージュ」をはじめとする地魚のコンフィ製品群です。
ブルーオーシャン製品群(地魚のコンフィ)
ブルーオーシャン製品群(地魚のコンフィ)
当館が中心となった「萩の地魚もったいないプロジェクト」が開発したブルーオーシャン製品群(他に類似品の無い新たな分野の製品)で、売り場に並べると直ぐに完売してしまう程の売れ行き、全く製造が追いついていない状況で、現状は実質的に予約販売となっています。これら製品群は昨年12月、観光庁主催の全国コンテスト「世界にも通用する究極の土産9選」や農水省の「フードアクションニッポン」の優秀賞に選定、さらに今年5月、農水省「ディスカバー農山漁村の宝」にも認定されるなど、全国区でも注目を集める製品に育ちました。このように強力なオリジナル製品があると、お客様は遠方からわざわざその商品を目的に足を運んでいただけるのです。

売り切れ状態の販売棚
売り切れ状態の販売棚
全国各地にはまだまだご紹介したい優良事例がいっぱいありますが、やはり現場を訪問し、ご自分の眼で観て、そしてお話を聞いて確かめるのが一番です。ただぼんやりと施設見学されるのでなく、これまでご紹介したような三つの視点で観ていただくと良いと思います。

※当館では年間70組程度の行政・各種団体対象の視察研修を受け入れています。詳細は下記をご参照ください。
http://seamart.axis.or.jp/contents/toi/index.html


中澤さかなさん(本名:等さん)
1957年滋賀県生まれ。1980年株式会社リクルート入社、2000年4月、萩市に家族で移住、道の駅/萩しーまーとの駅長に着任。2007年総務省「地域力創造アドバイザー」、2008年内閣官房「地域活性化伝道師」、2011年農林水産省「6次産業化ボランタリープランナー」および「地産地消の仕事人」、2013年水産庁「お魚かたりべ」に認定され、全国各地の地域活性化(地域農水産資源の商材開発)に取り組む。論文に「紀州雑賀崎漁民の生活誌(1980)」、「地域活性化の小規模ビジネスモデル(2007)」、「多品種少量産地の特産魚種開発(2011)」など。著書として「萩沖の魚たち(春夏編)「同(秋冬編)」「宮本常一の見た萩」「萩往還を歩く」「萩の郷土料理・家庭料理」「道の駅/萩しーまーとが繁盛しているわけ」など。座右の銘は「三方よし」


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