ムラおこし百景  ~地域活性の「仕組み」研究~

安い値段を付けないほうがよい理由

(平成26.6.10 産直コペルvol.6)

 自分で値段をつけられるのが直売所の魅力とはいえ、実際はなかなか難しい。以下の話は、千葉県内のある人気直売所を取材したとき聞いたエピソードだ。商品をひとつでも多く売るため、出品者の間で値付けを安くする風潮が広まった。「あの直売所の品物は安い!」と評判が立ち、客足が増え、店も出品者も、選択は間違いなかったと士気をあげた。
 ところが次第に問題が起こった。客筋が荒れてきたのだ。安心安全な農産物を守るための姿勢や味をよくする努力、都市近郊の農業の社会的役割といった、農家が直売所を通じて主張したいことには関心がなく、値段の安さにしか反応しない消費者が集まり始めたのである。端的に言えば、スーパーの特売日に目玉商品を求め渡り歩くような人たちだ。
買い物へ来る客が醸し出す雰囲気も店のカラーを左右する。食品の価値を安さだけでジャッジする客が増えるにつれ、クレームや不当な要求も多くなった。殺伐としたムードが店内に漂い、直売所の理念や考え方に賛同を示してくれた開業当初の客が来なくなってしまった。
値下げで変容してしまった店の評価を、また元に戻す作業がいかに大変かという話だった。

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 先日お会いした山下一穂さんという高知県の有機農家は、自分が育てる野菜の味に絶対的な自信を持っている。7、8年前からスーパーの産直コーナーに野菜を並べ、相場の2倍の値段を表示してきた。

ぜんぜん売れなかったそうだが、2年ほど前から加速度的に売れ始め、今では生産が追い付かないほどの人気だとか。なぜか。山下さんは言う。
「お客さんは売り場へ来るたび、自分には縁のない野菜だと横目で見ています。でも、心の中では隣の野菜の値段の2倍もする根拠はなにかが気になって仕方がない。そしてある日、好奇心にかられて買うんですよ」
そこからは山下野菜の商品力だ。「この味なら高くても納得」という感覚で消費のリミッターが外れると、たちまちファンになり、しかもクチコミで発信してくれる。
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有機野菜の購入者というと、環境問題や健康問題に関心が高い層、あるいは裕福な層と思われがちだが、山下さんの野菜をスーパーの産直コーナーで買う人は「ところで、有機ってなんですか」というレベルの、ごく普通の消費者だそうだ。

安くなければ買わない人が多いのは事実。だが、高くても理由がわかれば買ってくれる人は確実にいる。直売所は、やはり後者のような人たちとつながるシステムと信じたい。


プロフィール
かくまつとむさん
情報工房「緑蔭風車」代表
フリーランスの記者
兼企画構成者

自然誌や熟年生活誌などのライフスタイル雑誌、農業誌などを中心に取材活動を続ける。さまざまな「考えて書く仕事」を手がけている。「地域活性」「一次産業」「教育」「文化継承」「持続可能な社会」をテーマに据え、取材型の分析法を用いて自然・農・人・社会をつなぐ活動を続ける。


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