タネの話

ヴァンダナ・シヴァの「いのちの種を抱きしめて」

(平成26.6.10 vol.6)

 ふだんタネのことに関心をよせていると、目についた「種・種子・タネ」という文字に妙に敏感に反応してしまう。自分の関心ごとであれば、きっとみなさんも身に覚えがあることだろう。あるメーリングリストで「ヴァンダナ・シヴァの『いのちの種を抱きしめて』」という短編ドキュメンタリー映画が上映されると知り、気になって仕方なかった。しかし、先日、東京方面へ出張したのを機に観ることができたので、ここに紹介したい。

 タイトルにあるヴァンダナ・シヴァという人物については、ご存知の方も多いだろう。インドの女性思想家で、環境活動家としても知られている。とくに遺伝仕組み換え作物(GMO)にたいするモンサント社等への抗議活動は徹底していて、グローバル化の名のもとに行われている搾取行為、をバイオパイラシー(生物資源の盗賊行為)という言葉を使って強く非難している。
 本編は、そんな彼女の故郷にあるインド北部のナヴダーニャ農場を文化人類学社の辻信一さんが訪れ、彼女の語りを引き出している。農場の名前になっているナヴダーニャには「9つのタネ」という意味があるようで、この農場では、有機農業の研究と実践が行われているほか、イネやシコクビエ他、多くの作物の在来品種が保存・維持されており、ローカルジーンバンクの役割も果たしている。
予告編はwww.youtube.com/watch?v=NjO9if9kF6Qで観ることができる。
予告編はwww.youtube.com/watch?v=NjO9if9kF6Qで観ることができる。

 遺伝子組み換え作物についてはもちろん、グローバル化やTPPたいする彼女の思想が存分に語られる中、やはり気になったのは「タネ」のことだった。それは、ヒンドゥ語でタネを意味する「ビジャ」が、彼女の思想の中で非常に大きな意味を持つということであった。

「タネとは何か?」と問われ、彼女は、タネは「生命の源」であり、水や空気と同じコモンズ、すなわち誰の所属でもない共有資源であると答えた。だからこそ、一部の企業によって開発された遺伝子組み換え種子やハイブリッド種子が、化学肥料や農薬の依存度を高め、金のないインドの小規模農家を借金苦に陥れ、その結果として多くの自殺者を生み出す・・・、そんなことが絶対に許せないのだ。種子の選択や利用の自由を農家から奪い、昔からの在来品種がごく少数の改良品種に取って代わってゆく現状は、生物の多様性をなくすのみならず文化の多様性をも失うことにつながると彼女は嘆く。

 大地の母のような面立ちから強くはっきりと語られる彼女の言葉は、聴くものの心の奥底に届き、今の社会変化のありようの是非を再考させずにはいられなくする。自主上映が中心なので、この映画を鑑賞できる機会は限られているようだが、DVDも販売されているようなので、関心おあるひとは是非。



根本和洋さん
信州大学農学部助教
信州大学で植物遺伝育種学をテーマに研究を行っている。作物育種や遺伝資源、雑穀等が専門で、日本だけでなく、ブータンなど海外の遺伝資源の調査も行っている。


産直コペル申し込み

産直コペルのお申し込みはこちら! 年間6冊3240円(税・送料込み)です。

産直新聞

長野県版フリーペーパー! 直売所や道の駅で見かけたら手に取ってみてくださいね。

特別プロジェクト

信州の「環境にやさしい農業」実践直売所育成プロジェクト 推進中!

平谷村地域おこし協力隊facebook

人口480人。長野県で一番小さい平谷村で活動する地域おこし協力隊の活動記録