〈平成25.12.10 vol.3)
このところ農業の六次化がいろいろなところで耳に入ってきます。 「農作物を生産してそれを加工し販売まで繋げる!」これが農業の六次化のコンセプトですが、なかなか難しいことですね。
農家の方々、特に専業農家にはまずそんな暇と時間がないでしょう。また、販路もJAを通じて確保しているのでわざわざ加工品を作ることもありませんし、加工の技術もなかったわけですからクオリティーも上がりません。
今まではそんなことをしなくてもよかったのかもしれませんが農業も多様化が進んできています。いろいろな取り組みが今後の農業経営を支えることになっていくように思います。
私のところでもいくつか六次化に向けての取り組みをしています。
前回もお伝えしましたが、農場ではいろいろな農作物を栽培しレストランやホテルに納めています。
珍しい野菜やカラフルな野菜もかなりあり、これからの時期は人参、大根、カリフラワーなどの出荷が始まります。ところが農作物は全部が出荷対象の品質にはなりません。形がいびつだったり、割れている物、あるいは虫食いのものもかなり出てきます。
今までは圃場廃棄で済ませてきましたが、これも加工次第で素晴らしい商品に変わっていきます。
通常は100g程度の人参も、割れるくらいの大きさになると500gにもなっています。皮を剝いて割れた部分を取り除けば十分に加工対象になります。
金時人参のように真っ赤な人参と金美人参のような黄色の人参、そして普通の人参を組み合わせるだけでオリジナルの商品が出来あがります。小さなジャガイモも市場では屑扱いですが、丸のまま瓶詰することによりその価値を何倍にも跳ね上げることが出来ます。
まず、人目を引く商品つくりをすることが売れる農産加工のポイントかもしれません。捨てる物が商品に変わる!あるいは今まで商品価値の低かった物に手を加えることで付加価値がつく!これが六次化の大切なポイントでしょう。
「うちはイチゴ農家だからイチゴジャムを作ります。」これも立派な加工ですが、イチゴジャムだけではどこにもある商品になってしまいます。売場にいろいろなジャムが並んでいるように、農家の農産加工も多様化して行かなければ結果がついてきません。イチゴジャムだけでなくいろいろな農作物でジャムに挑戦するべきではないでしょうか。カボチャのジャム、サツマイモのジャム…楽しいと思います。
農産加工には食品加工する上で最低必要な知識や設備が必要になってきます。
地域によって条件が異なりますので保健所などに聞いていくことも大切ですが、いろいろなセミナーや勉強会にも参加していくといいと思います。
国の補助も六次化に向けて整備されてきましたが、加工品の販路もないうちに設備投資などは禁物です。自分の出来る範囲で試行錯誤が成功の秘訣のような気がします。
私のところの取り組みを少しご紹介いたしましょう。
私の農場があるのは香川県高松市、このあたりの一般的な農家の耕作面積は50aとかなり小規模です。これでは農業を経営の柱にするのは大変です。米だと40万円程度にしかならないでしょう。そんな条件を克服する目的で農場では少量多品目の野菜を一年中栽培し、毎日出荷しています。その野菜を中心に使った加工品も作っています。
オリーブもその一つです。瀬戸内海気候は地中海性気候と似ているということで昔からオリーブが栽培されています。香川にはオリーブを看板に挙げる会社がいくつもありますが、そのほとんどはスペイン産の物を仕入れ販売しているのが実態です。(スペイン産と表示されています)これでは商品を買われたお客様ががっかりしてしまいます。
おそらくオリーブオイルの品質においてはスペインやイタリアの物には追い付かないし、歴史や料理といった部分でも到底足元にも及びません。
それではと思い、私のところではオリーブの新漬けや別の商品開発をしています。新漬けは若いオリーブをアク抜きし塩水につけた物です。旬のオリーブを楽しんでいただく商品が人気を呼んでいます。オリーブもかなりの品種があるので品種によってはドライトマトと一緒にオリーブオイルに漬け込んだ物や、少し柔らかくなった完熟オリーブはペーストなどにも加工しています。
無駄にしたくない気持ちと新顔野菜の栽培が新しい商品を作るのではないでしょうか。きっと皆さんのところにもそんな農産物は山のようにあるのではないでしょうか。
ちょっとした発想と工夫、そしてやる気が六次化に向けての第一歩です。
まだまだ六次化に向けて大切なことがあります。それは販路の確保です。
次回はその販路開拓についてご紹介しようと思います。
中村敏樹さん
有限会社コスモファーム代表取締役
長野県上田市の水稲・養蚕農家に生まれ、香川県大学農学部卒業後、農産物生産指導、流通コーディネートなどを30年以上手がける。