直売所が地域に暮らす人々を結びつける     かくまつとむ

いろいろな直売所を見てきたが、オリジナル・ソングがある直売所はじめてだ。その興味深い直売所は、島根県美郷町で毎週水曜日に開かれる『青空サロン市』である。
直売所の風景
直売所の風景
3つの婦人会が合同で運営しているもので、場所はお世辞にも通行量が多いとはいえない山の中の国道端。バス停に毛が生えた程度の、屋根と壁だけのつくりの木造建屋だ。
直売所と名乗っているものの、正味の売り場は3分の1ほどで、残りはテーブルとイスが置かれた休憩コーナーである。毎週、婦人会が交代で料理やお茶を持ち込み、ここでわいわいと歓談をする。
直売はどうやら「ついでにやっています」という感じ。出品者はそう多くないので品切れは早い。品物が余ったように見えても、おしゃべりが終わるころにはなぜか売り切れている。ある種の気配りだろう。

実験圃場。講師の先生が書いたわかりやすい楽しいコメントが高齢者のやる気に火をつける
実験圃場。講師の先生が書いたわかりやすい楽しいコメントが高齢者のやる気に火をつける
この青空サロン市ができたきっかけは、意外なことにイノシシによる農作物への被害だ。猟友会主体の銃による駆除では限界があると感じた美郷町は、住民主体の箱罠に駆除システムをシフトして成果を上げた。
駆除した夏のイノシシを肉として有効活用する組合も作ったが、獣害対策の基本は守りである。住民にその意識を浸透させるため、専門家を講師に、野生動物の習性や作物管理を学ぶ講座を連続的に行なってきた。 
学びを畑で実践すると、成果がはっきり出てきた。作物が襲われなくなったのだ。それが大きな自信になり、イノシシとの知恵比べに勝った野菜を売る場を作ってはどうか、という話が出てきたのである。

スタートしてみると、多くの人は野菜の売買もさることながら、ここで人と会っておしゃべりをすることを楽しむようになった。聞けば、昭和50年代まで地域には縫製工場があり、女性たちがおしゃべりをしながら楽しくミシンを踏んでいたのだという。その縫製工場が海外に移転すると、女性たちはばらばらにパートへ出るようになり、井戸端会議も消えてしまったのだという。
地域の横のつながりは希薄化し、同じ地区に住みながら情報が共有されないことも増えた。その隙をついたのがイノシシだった。

サルや猪からサツマイモを守る竹マルチ。放棄竹林対策にもなる。
サルや猪からサツマイモを守る竹マルチ。放棄竹林対策にもなる。
イノシシ対策について学ぶ場が、かつての結や縫製工場が持っていたようなコミュニティー機能を復活させ、青空サロン市としてよみがえったのである。以下は、当日聞かせてもらった青空サロン市の歌だ。

しあわせつくろう/しあわせつくろう/とびきり上等の/しあわせつくろう 野菜をつくろう/野菜をつくろう/とびきり美味しい/野菜をつくろう 御馳走つくろう/御馳走つくろう/みんながよろこぶ/ごちそうつくろう 仲間をつくろう/仲間をつくろう/笑顔でつながる/仲間をつくろう 古里つくろう/ふるさとつくろう/ステキに輝く/古里つくろう


どの直売所も本来担っていたであろう大事な役割を、あらためて教えられた気がする。

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実験圃場。講師の先生が書いたわかりやすく楽しいコメントが、高齢者のやる気に火をつける。
サルやイノシシからサツマイモ守る竹マルチ。放棄竹林対策にもなる。



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