旅 vol,5  食と暮らしを探す

「ロマンチック」な町と山の神様が宿る村で探す「農」と「食」  in  山形県 金山町 & 鮭川村

(平成26.06.10 産直コペルvol.6)       文・柳澤 愛由


金山町の町並みにはかつてイザベラ・バードが歩いた時代を忍ばせる
金山町の町並みにはかつてイザベラ・バードが歩いた時代を忍ばせる
 金山町は、明治初期、イギリスの女性旅行家イザベラ・バードが東北・北海道を巡っていた際、この地を訪ね、手記を残したことで知られている。金山町の雰囲気が表現されたその文章は、今でもここで暮らす人々の誇りとして語り継がれているという。
 鮭川村は、その名の由来にもなった国内有数の清流「鮭川」が流れる豊かな自然が残る村だ。かつて、鮭の遡上が見られたという鮭川は、今でもアユやマスの釣り場としても知られている。8月2~3日、古く美しい街並みを今に残す山形県金山町と豊かな自然が残る鮭川村を訪ねた。



ピラミッド型の丘陵


 金山町に隣接する新庄市の新庄駅から、かつての羽州街道をバスで走りながら、金山町へ向かった。

 今朝新庄を出てから、険しい尾根を越えて、非常に美しい風変りな盆地に入った。ピラミッド形の丘陵が半円を描いており、その山項までピラミッド形の杉の林で覆われ、北方へ向う通行をすべて阻上しているように見えるので、ますます奇異の感を与えた。
(イサベラ・バード「日本奥地紀行」 高梨健吉訳より)


 イザベラ・バードが書き記した「ピラミッド型の丘陵」はここ金山町の象徴のような存在だ。
 「もうすぐ見えます」と案内され、車窓を眺めているとパッと視界が開け、目の前に台形の形をした3つの山が現れた。イザベラ・バードが旅した140年前と同じように広がっていたのは「金山三峰」と呼ばれる山々だ。その麓に金山の町は広がっている。


廃校の小学校で頂くそば料理



「谷口がっこそば」は昔の小学校を利用している
「谷口がっこそば」は昔の小学校を利用している
 金山小学校谷口分校が廃校となったのは1996年。その後、土日のみの手打ちそば屋「谷口がっこそば」としてオープン、料理を作るのは地元のお母さん達だ。ここでお昼ご飯を頂いた。小さな木造校舎、客席はかつての講堂だ。
 漬物、白和え、そば餃子、車麩の角煮風…等、金山の食材を極力使い、創意工夫された田舎料理の数々が運ばれてきた。
 オープンしてから17年目、今ではリピーターが付くほどの店となった。中でも「あげそば」は「そばがき」を油で揚げた一品で、外はカリッと、中からとろける様な食感で薫り高いそばが、ふわっと口の中に広がる。アツアツのうちに頂くと格別な味わい。
「谷口がっこそば」で頂いた揚げそば
「谷口がっこそば」で頂いた揚げそば


数万人が働いたかつての銀山


 昼食を済ますと、次は江戸時代の面影を探しに。最盛期であった慶安年間(1624~51年)には数万人が働いたとされる「谷口銀山」の廃坑へと向かった。約2000世帯が住み、遊郭も形成されたことがあるという銀山だが、現在、その面影はほとんど見られない。
 林の中を下りていくと、「新大切鋪」跡に辿り着く。緑に覆われた岩肌に、ぽっかりと暗い口を開けていた。
 地元の方の案内のもと、じめじめとした暗い、大人一人がようやく入れる幅のトンネルを乏しい明かりを頼りに進む。ふと、頭を上げればぶつけてしまうような狭い空間だ。内部にはツルハシで掘った細かい跡が残る。当時は松明の明かりを頼りにしていたという。江戸時代の人々の苦労と必死さが伝わってくるようだ。

「自創自給」の生活




栗田さんが営む「暮らし考房」
栗田さんが営む「暮らし考房」
 次に向かった先は「暮らし考房」。ここで「自創自給」の生活を営む、栗田和則さんは、自力で建設したというログハウスで、山村の豊かな暮らしを創造発信しようと様々な活動を行っている。
 「山村は貧しいというイメージがある。そこでどのような暮らしをしていくか、考えることが重要」だと語る栗田さん。山里の哲学を学ぶ「山里フォーラム」やメープルを特産品にしようと「楓の里づくり」を始めたのも、そういった思いから。因みに「イタヤカエデ」のことをこの地域では「二月泣きイタヤ」と呼ぶことがあるという。林業が盛んな金山町では昔から「イタヤカエデの涙(樹液)は甘いもの」と伝わっていた。この取り組みには、そうした金山の文化も背景にあるそうだ。
 その他「メープルビール」や樹液を搾ったままの「メープルサップ」といった商品も。そのメープルサップを少し味見させてもらった。まるで水の様に透明でさらさらとしている。しかし、飲むとほのかに甘く、すっと爽やかなメープルの香りが口の中に漂う。樹液(メープルサップ)を約1/50にまで煮詰めると、ようやくメープルシロップが出来上がる。山里そのものを活かす方法を創造しながら進む栗田さんの暮らしを垣間見ることが出来た。
 

「ロマンチックな雰囲気の町である」 (イサベラ・バード「日本奥地紀行」高梨健吉訳より)


 イザベラ・バードが旅した明治時代の日本、特に東北地方は未開の地とされていた。イザベラ・バードが歩いただろう町をしばらく散策しながら、そうした時代のイギリス人女性が金山町を「ロマンチック」と称した理由は何だったのだろうかと思いを馳せてみる。
 金山杉を使った切妻屋根や漆喰を塗った白壁が特徴の金山住宅は、金山町の気候風土に合った暮らしを作り出す。こうした町並みと山里に「ロマンチックな雰囲気」を感じたのだろうか。景観条例を敷き、町並みの保全に力を入れている金山町は、彼女が歩いた町の面影を残している。
 昔からの資源、暮らしを大事にするからこそ、この地に根付く暮らしは豊かなのかもしれない。


山際シェフの朝食


料理を担当した山際シェフ
料理を担当した山際シェフ
 次の日、金山町は小雨の降る真夏にしては涼しげな朝を迎えていた。朝食は山際食彩工房(会津若松市)の山際博美シェフが担当し、金山町の食材を使った新たな発想の料理を作って貰うことになっていた。
 ニラの栽培が盛んな金山産のニラとトマトを使った「ニラとトマトのイタリアン風そうめん」や、金山町のたたき料理からヒントを得た「キュウリのたたき 胡麻油風味」、「ナスの梅肉和え」など金山町の素材を使った趣向を凝らした料理の数々が並んでいた。
春キャベツのアイス
春キャベツのアイス
 中でも、新作のアイスクリーム3種は、実は金山町の特産品開発のために試作されたものでもあった。
 まず1つ目は、紫キャベツ。薄い紫色がきれいなアイスクリームだ。食べると想像以上にキャベツの風味。しかし、その風味が濃厚なアイスに絶妙に合うのだから不思議だ。
2つ目は、ホワイトコーン。生でも食べられるというほど甘いトウモロコシの甘さを引きたてながら、その風味を残したアイスクリームが出来上がった。
 3つ目は最も衝撃的な素材、何と「まむし」を使ったアイスクリーム。前日に見学した「暮らし考房」のメープルシロップも使用したという。恐る恐る食べてみると、メープルの風味と濃厚なミルクが美味しい一品……しかし、まむしの味があまり出なかったと山際シェフは少し悔しげだ。まむしは粉末にして使用したという。他では見ないアイスクリーム。今後に期待がかかる。
金山町での山際シェフの朝食
金山町での山際シェフの朝食
 朝食会場では素材を提供した生産者の方々にも料理を食べて頂いた。紫キャベツやホワイトコーンのアイスクリームは生産者の方々と同町議会議員の方々がそれぞれ発案したものだからだ。
 「農業に取り組む若いグループもいる。このアイスを皮切りに、よりいろいろな新しい製品が出来てくれば」と参加した町議会議員の方々も期待を寄せていた。まだまだ試作段階ではあるが、今回の旅の中から何かしらヒントを得られたようだ。
 金山町の旅はこれで締めくくり。次は鮭川村へと向かった。


豊かな自然残る鮭川村へ


 まず向かったのは通称「トトロの木」と呼ばれる樹齢約1000年という大杉が生える場所。この「曲川の大杉」は、芯が2本あることから、夫婦杉、縁結びの杉と呼ばれていた。傍らに山神の祠が設けられ、かつて神木として拝められてきた歴史を物語る。
曲川の大杉の内側は神秘胃的な雰囲気が漂っていた
曲川の大杉の内側は神秘胃的な雰囲気が漂っていた

産地だからこその圃場見学


 続いて鮭川村の食材を探す旅、農業が盛んな鮭川村の産地だからこそ見られる圃場を巡る。
 減農薬のトマトの圃場を巡った後、向かったのは「食用ほおづき」の圃場だ。
鮭川で産地化を進める食用ほおづき
鮭川で産地化を進める食用ほおづき
 食用ほおづきの産地化に取り組んで5年。ただでさえ珍しく、なかなかお目にかかれない存在だが、鮭川村のほおづきの特徴はその粒の大きさにある。直径3センチメートルほどの大きさのあるほおづきは、何度も試行錯誤を繰り返し、栽培方法、品種の選別を行いようやくたどり着いた成果だという。
 食感はトマトのような、しかし独特の甘みと香りがあるほおづき、現在は青果のほか、ジャムや地元菓子店と協力してマカロンなどの加工品として売り出している。


なめこ栽培を見学


 キノコ類の栽培が盛んな鮭川村では、特になめこの栽培が全国屈指。平成13年創業の(株)オークファームでは、年間1100~1200tを東北だけでなく関東方面などへ向け、出荷を行っている。機械化を進め、コストを極力減らし工場内で大量のなめこ栽培を行っており、適度に温度湿度管理がなされた空間は、どこか厳かで、キノコの神秘的な側面を表しているようにすら感じる。
 このなめこが昼食の素材のひとつとなる。

「きのこ尽くし」!山際シェフの昼食 in 鮭川村


鮭川村で山際シェフが作るきのこづくしの昼食
鮭川村で山際シェフが作るきのこづくしの昼食
 食材を巡りながら、いよいよ昼食へ。山際シェフが鮭川村で作ったのは、きのこ尽くしのメニューだという。
 「きのこの粕漬け」「かんむり茸と舞茸の白和え」「なめこのピリ辛佃煮」「豚肉のしゃぶしゃぶとなめこジュレ」「鮭川きのこけんちん汁」、なんと「なめこ羊かん」など、数々のきのこ料理が並ぶ。
 中でも「鮭川きのこ味噌丼」は、ご当地どんぶりとしての可能性も見出せると、生産者の佐藤さん(61)も笑顔だ。きのこの旨味と味噌の甘辛さがご飯に良く合い、食が進む。
 山形県でも、東日本大震災の後、特にキノコは風評被害にあった。「地道だけれども少しずつ」と、生産者の方々は話す。


金山町と鮭川村 地方からの様々な発信


 今回の旅で巡った金山町と鮭川村は、隣接しながらもそれぞれ違った歴史と特徴を持っている。それぞれの地域でそれぞれ地元を思いながら暮らしを営んできたからこそ、どちらの地域も今に残る魅力があるのだろう。そして、食の裏側、生産の現場を見ることで、生産者自身の思いを知り、そしてその地域の新たな可能性を感じさせる旅となった。


※これは(一財)都市農山漁村交流活性化機構が主催し、2013年8月2~3日に開催された「食材探しの旅&市町村長と語る旅 in 金山町&鮭川村」のレポートを改変、再録したものです。同機構ウェブサイト内「食と農の絆」でも閲覧できます。


産直コペル申し込み

産直コペルのお申し込みはこちら! 年間6冊3240円(税・送料込み)です。

産直新聞

長野県版フリーペーパー! 直売所や道の駅で見かけたら手に取ってみてくださいね。

特別プロジェクト

信州の「環境にやさしい農業」実践直売所育成プロジェクト 推進中!

平谷村地域おこし協力隊facebook

人口480人。長野県で一番小さい平谷村で活動する地域おこし協力隊の活動記録