農業経済 vol.6 半商品経済とは何か

        東京農工大学大学院  野見山敏雄

(平成26.6.10 産直コペルvol.6)


 私のプロフィールにある「半商品経済」について説明しよう。半商品とはその取引において社会的な関係性を重視し,生産者の個性が残っているため,市場取引を超えた交換形態が相応しいものとして定義する。この研究は科学研究費補助金を受けて2009~2011年度に行った共同研究である。

 研究の背景としては,経済のグローバリゼーションが進展する中で,先進国,途上国を問わず,商品経済を貫徹することなく自給的経済を残している事象を散見できる。具体的には,互助や贈与,相互扶助,提携という人と人との関係を重視した取引である。これらは,必ずしも貨幣を媒介することなく,またすべての価値(労働投入量)を実現しないでもかまわないという,「もう一つ別の生産・流通方式」と言えるものである。

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 渡植彦太郎(1899~1990年)はこれを「半商品」という概念で整理し,世に問うた経済学者である。渡植は市場で売買されているが生産者も消費者も商品を超えた使用価値を見いだし,そういう商品を指す言葉として「半商品」という言葉を使っている。
 一方,内山節(1950年~)は,渡植の一番の理解者であり,自著に渡植の「半商品」をたびたび紹介している。そして,「半商品」には有用性の共有と商品価値を超えた追加的な価値がどこかに生まれていなければならないと,渡植の理論をより普遍化し現代への適用条件を述べている。

 私たち研究グループは,渡植や内山が唱えている「半商品」の概念をそのまま援用するのではなく,彼らの「半商品」の概念を十分に吟味した後,現代的な「生消共生」という概念への昇華を目指した。
 研究成果の一部を紹介しよう。半商品経済の視点からCSA(地域支援型農業)の特徴と国内での展開の可能性を検討した結果,有機農産物の取引関係とその関係性における食の自給,安全を確認できる生活の在り方を希求する自給農場的なCSA は半商品経済関係を現していること。そして,半商品概念は単なる「ものの取引」に終わらず,生産者と消費者が互いの暮らしを成り立たせようとする次段階的な概念として位置付けられるのである。
 また,産直の共同購入者の類型化分析では,産直野菜の商品性とは,「栄養を提供し,おいしい味覚があり,安全性が高い」ことに対する評価であること。そして,それらには生産,流通,販売を安定的に支えるために必要な半商品性が付加されていると考えらる。

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 このように,産直商品や農産物直売所をめぐる取引やCSAの関係性分析に半商品経済という概念は有効と思われる。ただ,残されている課題は多いことも事実であり,今後も研究を継続したいと考えている。なお,これまでの研究成果は,「半商品科研」で検索すると,研究成果のページにヒットするので閲覧してほしい。

野見山敏雄さん
東京農工大学大学院農学研究院教授
東京農工大学で教鞭をとっており、最近の研究テーマは、半商品経済を組み込んだ農林産物の生産と流通に関する総合的研究である。主な著書には、産直商品の使用価値と流通機構(日本経済評論社)や食料・農業市場研究の到達点と展望(筑波書房,共著)など多数。2012年11月より地産地消優良活動表彰審査委員会・委員を務めている



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