都会で味わう田舎 vol.5     ほんとうにおいしいご飯が主役の店

和食土鍋ご飯『おこん』

(平成26年10月10日 産直コペルvol.8)
                          文・丸山 祐子

タイトルなし

 東京代々木上原の閑静な住宅地街の中に、土鍋のごはんをメインに据えたこだわりの和食店がある。通り過ぎてしまいそうな戸建ての中に、ひっそりと小さく「おこん」と書かれた看板が店に導いてくれる。そこは最近雑誌やテレビで取り上げられ話題になっている土鍋ご飯の店である。

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 日本人が毎日いただくご飯だからこそ、最上級に仕上げたい。農家さんが手間をかけて一生懸命丹精こめて作ったお米だからこそ、その努力を損なうことなく炊きあげたい。店主はそんな思いを込めて、6年前に和食土鍋ご飯「おこん」を開店した。
 他店では真似できない高度かつ丁寧な技術で精米されたお米を、少量で仕入れて、大事に土鍋で炊き上げて出す。
 和食料理は、最後にご飯が出て終わるというのが通常だが、「おこん」では、ご飯そのものがメインとなっているという都内でも珍しいお店だ。そこには「ご飯の本当の美味しさを伝えたい」と店主のこだわりが見える。
 店のオーナーと料理人を兼ねる小柳津大輔さん。「お米の目利き」でもあり「ご飯の炊き師」でもある氏にその取組みをうかがった。



店の佇まい



 最寄りの駅「代々木上原」から、左右に佇む住宅街の中を進むこと約7分。周囲には、飲食店はおろか店らしきものは見当たらない。静かな住宅地だ。
 小柳津さんは、以前は下北沢で「和の丸寅」という和食屋を経営していたが、2008年に移転して「おこん」を開いた。
 「呑んだついでにとか、たまたまの店として来店してほしくない、特別な場所と意識しておこんのご飯目当てに来ていただきたかった」という理由で、駅から離れたこの場所を選んだという頑固なこだわり。確かに事前に調べないとなかなかたどり着けない。最近では、遠方は広島、海外では香港や中国からのお客様が来店されたばかり。
 店内は、コンパクトな中にゆったりしたテーブル配置で無駄な装飾はなく、棚に飾られている土鍋がうっすらと照明に映し出されている。そんな落ち着いたスペースに、小柳津さんの和の心意気が伝わってくる。

お米は刈りたて、搗きたて、炊きたてを食べるのが一番



 品種改良や栽培技術改良の成果から日本中どこでも美味しいお米が生産される時代。ほどほどに美味しいご飯はいただけるものだし、あまりに日常過ぎて、ご飯の美味しさを探究することはあまりない。
 しかし、普段なにげなく食べてきた主食のご飯も、好みの美味しさを追求してみると、実に奥深い世界だ。品種や精米方法、ブレンドによって、味や香り・食感、適した調理法、合う料理なども様々で、こだわるほどにお米はその持ち味を最大限に活かせると小柳津さんは考えている。
 用途や季節に応じてそれらをうまく使い分ける「おこん」では、旬の素材を取り入れる以前に、精米と土鍋で勝負している店なのだ。

土鍋が3つ飾られているだけの店内。そのシンプルさが心地いい
土鍋が3つ飾られているだけの店内。そのシンプルさが心地いい
 小柳津さんがそこまで「ご飯」にこだわることができるのは、五つ星の米マイスター「亀太商店」の高度な精米技術とそれに対する強い信頼があってこそだという。
 亀太商店は、江戸時代から続いている東京錦糸町の老舗米店。多くの米店は、100〜200馬力で大量に精米して一度に量産できるようにしているが、実は馬力数が高いと作業は早くても、美味しさをそり落としてしまうのだと言う。「亀太さんでは、3馬力で2、3回に分けてやさしくお米に負担をかけずに少量の精米をします。アミュール層という薄皮1枚残すという高度な精米技術は、お米に向き合う心持ちから生まれた製法で米の本来の味がそこにある。面倒でもその製法で精米する亀太商店の心意気にも魅せられました」と小柳津さんは語った。今では、お米マイスターの亀太さんにコーディネートしていただきながら、「おこん」のお客さんを喜ばせている。
 「薄皮を残した米は、浸水時間も違うし、水の量や土鍋の炊き時間、むらし時間も若干違うが、それを満たした時、本当の極上米になる。それをぜひ、皆さんに知っていただきたいです」。


メインディッシュの「おこんご飯」



 季節や料理に応じて取り寄せるお米も変わる。1週間に使用するだけの米を精米してもらっている。年間を通して100種類ほどの品種を仕入れているそうだ。新米の季節が外れた冬~夏などはどうしているのか聞いてみた。「岐阜県産の「ハツシモ」という米は、収穫時期が最も遅く11月末。大粒で中飴色を呈し、光沢も良い。このような米を選択したり、味が濃くて粘りのある特徴を持ったお米を厳選しています」。

取材中に炊いていただいた秋の土鍋ごはん。お米は、昭和天皇穀物献上農家青木功樹氏こしひかりてん
取材中に炊いていただいた秋の土鍋ごはん。お米は、昭和天皇穀物献上農家青木功樹氏こしひかりてん
 メインは、土鍋で炊く「季節の旬を取り入れた炊き込みご飯」。土鍋はお客様が来てから火を入れるが、浸水が必要なため、すべて予約制にしている。
 まずは、白米を試食することからお料理は始まる。たいていのお客さんは、まずその出し方に驚き、次にその美味しさにもびっくりするそうだ。「おいしい!何が違うの?」という問いに、「土鍋に答えがある」と小柳津さんは説明

「土鍋のご飯は日本文化」過去から技術を逆導入して真似ているだけ


 「はじめチョロチョロなかパッパ、赤子泣いても蓋とるな」。 これは、かまど炊きごはんの火加減の極意である。薪が燃え始めた時の弱い火から徐々に火力を強め、そのままじっくりと炊き上げていく昔ながらの美味しいご飯。薪がガスに代わった現在では、土鍋こそこの極意を再現できる最適な調理器具だと小柳津さんは強調する。耐火性の粘土で作られた土鍋は、熱しにくく冷めにくいのが特徴。強火にかけてもすぐに鍋は熱せられず「はじめチョロチョロ」が再現される。熱せられた後は、土鍋全体がむらなく加熱され、熱は、長く維持される。これが「なかパッパ」。
 火を止めてからの蒸らしも、冷めにくい土鍋は、じわじわと時間をかけて、不要な水分を飛ばし、お米の糊化を促して、美味しいご飯の出来上がりとなる。
店主の小柳津大介さん
店主の小柳津大介さん
 「説明するより、実践してみるとずっと簡単です」と、小柳津さんは語った。取材中に、「作って味を味わっていただくのが一番ですから、今から作りましょう」と入荷したての「昭和天皇穀物献上農家の青木功樹氏こしひかり」を2つの小ぶりの土鍋に入れて調理を始めた。そして一つは白米用、もう一つは、栗とタラバ蟹ときのこの味ごはん用として、通常の手順で炊いて見せてくれた。
 ここに来れば、ご飯への認識が変わり、日々の炊飯を改めようかと感じる人も多いと思う。「過去の技術を逆導入して、真似ているだけです」と小柳津さんは言う。確かに、意外に手順は簡単で驚いた。
 「冷めてもおいしいご飯こそ本当においしいご飯です」と小柳津さんは、お客さんにお持ち帰りできるように多めに炊き、お土産を持たせているという。そんな小柳津さんに炊き師としての誇りと温かみを感じた。
 土鍋ご飯は究極のスローフーズなのだ。

和食「おこん」
〒151-0066 東京都渋谷区西原2-48-2
TEL 03-3469-500




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