特集その2 森林資源活用の現段階

木質エネルギーを手軽に。「ペレット」という選択肢

(平成26年10月10日 産直コペルvol.8)

 本誌の特集の趣旨である木質資源活用の現段階を探るのに、「ペレット」という存在も忘れてはならない。
 地域にある木質資源の有効活用という観点から、かねてからペレットは各地で普及が進められてきた。
 長野県内の森林組合で唯一、ペレットの製造プラントをもつ上伊那森林組合の森敏彦さんに、その概要を聞いた。

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ペレットを導入するということ


 ペレットとは、製材工場などで出る端材や間伐材を粉砕し、固めて成形し、燃料としたものだ。もともと、価格変動の大きい化石燃料に替わるバイオマスエネルギーとして期待され、北欧を中心に製造が開始された。その後、化石燃料の価格下落により一時期は影をひそめていたが、環境問題への意識の高まりと、循環型社会実現のためのバイオマスエネルギー利用の促進という大きな社会の流れが起こり、再び「ペレット」普及への動きが加速してきた。
 また、地域における森林資源の有効活用という点からもペレットは注目された。
 上伊那森林組合で、ペレットの製造を開始したのは、平成16年から。上伊那森林組合が管轄する上伊那地域の森林は、針葉樹が約75%を占めている。そのほとんどが建築材料やパルプ材として利用されてきた。しかし、こうした用途だけでは、相場に翻弄される上、需要にもブレがある。そのため、「地域資源活用の間口を広げる」ことを目指して着手されたのが、燃料として恒常的な需要が見込めるペレットの製造だったという。
 昨年1年間で製造されたペレットの量は1935t。この約2倍の木材を必要とするため、年間で約4000tの木材が利用されたことになる。10年間で累計2万トンを超える木材が利用されてきた。
 現在、同組合のプラントはほぼ年間を通じて稼働し、需要を賄っている。木材利用の間口を広げ、林業従事者への所得向上という役割の一端も担ってきた存在だといえるだろう。


ペレットという選択肢


 利用する側からのペレットの利点として、燃料としては比較的軽く、補給の際も燃料タンクに入れ、着火させるだけであり、女性や高齢者でも扱い易い手軽さがある。薪の製造や扱いの難しい高齢者が、ペレットストーブを導入した例もあるという。また、ペレットは燃焼の際の灰の量が、薪と比べると比較的少ないため、処理が楽というメリットもある。
 価格の面でも、灯油などと比べると、ペレットは割安の傾向にある。ペレットの価格は1キログラム45円(当組合税別小売価格)。灯油1リットルと同じ熱量を出すには、その2倍の量が必要になるが、灯油が1リットル約107円(2014年9月22日時点の価格から算出)であることを考えると割安といえる。
 しかし、製造工程が多段階にわたるため、薪などと比べれば、若干コスト高になる傾向にある。
 ただし、幅広い層に「木質エネルギー」に触れて貰うためにも大事な役割を担っているのがペレットだ。

ペレットの今後


 現在、ペレットストーブは、公共施設や企業も加えると上伊那地域だけで360台余が使われている。
 ストーブの他に、現在普及が進められているのが、「ペレットボイラー」だ。給湯用、床暖房用、農業用にも利用されており、現在、上伊那地域を中心として、把握しているだけで長野県内では14台が稼働している。
 今後農業用の温風ボイラーなどの利用も進め、年間を通じての利用を進めることが課題だという。もともと、地域の木材利用を進め、林業従事者への所得を向上させる目的もあった。
 「需要が高まれば、木材の受け入れ価格をあげていくこともできる。製造工程の見直しも今後の課題」と森さんは思いを語った。
上伊那森林組合 ℡0265-72-3232 ペレットの購入は各支所で取り扱っています。
上伊那森林組合 ℡0265-72-3232 ペレットの購入は各支所で取り扱っています。



日本の森林が抱える問題点とこれから



信州大学農学部森林政策学研究室 三木敦朗助教に聞く
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信州大学農学部森林政策学研究室の三木助教に、日本の森林が抱える問題について、価格・需要の低迷、間伐材の有効活用という点に焦点を当てて話を聞いた。



国産材の価格が下落しており、現在では外材とほとんど価格が変わらない程になっていますが、それでも国産材の自給率が3割未満しかないのは何故でしょうか――



三木先生(以下敬称略) まず、大きな要因として国産材が住宅メーカーなどの大量のロットに応えられない、ということが挙げられます。
海外には、大型の製材所があり、そこに大量の木材を集めるという仕組みが出来上がっていますので、大量のロットに対しても対応することが可能です。
しかし、日本の場合は地域ごとに製材所があり、一つ一つの製材所のキャパシティは大きくないのが現状です。そのため、大量の発注に応えることが出来ません。同じ量を国産材で賄おうとすると、いくつかの製材所から買い付ける必要があり、運搬コストや人件費、そしてなによりも手間が掛かってしまいます。これが、外材が好んで使われている要因の一つですね。

国産材が大量のロットに対応していくためには、日本にも大型の製材所を作らなければならないということでしょうか――



三木 大型製材所を作る、という方法論は、昔からよく語られています。しかし、私は懐疑的です。大量消費・大量生産という土俵に上がる事が、日本の林業界にとって本当に良いことか、を考える必要があります。
大量消費の土俵に一度乗ってしまえば、林業の規模拡大をし続けなければなりません。常に拡大し続けなければ、海外との競争の中で負けてしまうからです。しかし、日本の国土や森林の急峻な地形を考えると、大規模化には決して向いているとは言えません。
もちろん規模拡大に向いている地域もあるでしょうが、それはどちらかというと一部です。規模拡大し、効率化出来る地域はいいですがその他の地域では、林業が更に衰退してしまう、ということも考えられます。

それでは、日本の林業が生き残っていくには、大量生産ではなく、どのような方法をとっていくことが重要になりますか――



三木 地域の木材を地域で使う、ということをしっかりと行なう事が重要です。地域で使う木材を地域で生産するということは、一部の大都市を除けば可能な筈です。
住宅に関しても、日本中で同じ家を建てる必要はありません。大手住宅メーカーに発注することで、外材が使われたり、どこの木材が使われているか分からない、という状況になっています。ですが、地域の工務店などを選ぶことで、地元の木を使ってもらう事は可能です。
こうした考え方が広まっていく事で、国産材の需要を高める事は出来るのです。そのためには、消費者側の理解も必要ですが、工務店側の努力も重要です。大手と比較して選んだ結果、地元の工務店が選んでもらえる、という状況を作っていく事が必要でしょう。

消費者や工務店など木を使う側の理解を深めて、国産材を使っていくということが重要ということですね。林業の現場側に必要なものはどういったことでしょうか――



三木 もっと多様な森作りをすることが必要じゃないかと思っています。どういう森作りをするかをそれぞれの林家が考えていくことが重要です。
日本は、戦後の拡大造林政策によって、針葉樹の人工林が一気に拡大しました。当時は、針葉樹のスギやヒノキが植えられましたが、これからもその樹種を植え続けるのか、今一度考えなくてはいけません。
家具などに使うことを考えて、広葉樹を育てる林があってもいいと思います。木材以外の林産物を生産するための森づくりがあってもいい。林業が画一的なものではなく、色々なバリエーションを持っていくことが大事です。それも林家だけでなく、NPOや企業など、様々な人が森と関わっていかなければ、2500万haという広大な森林を上手く活用することは出来ないと思います。
そうした選択肢の中に、薪の生産やペレット、バイオマスエネルギーとしての活用を織り交ぜていく事で木の生産の形が多様化する。色んな森林の経営が出てくることが日本の森林を更に前に進めていくと私は考えています。
ありがとうございました―

三木 敦朗 信州大学農学部助教/博士(農学)
1978年、滋賀県生まれ。岐阜大学大学院(信州大学卒)を修了後、岩手大学学術研究員などを経て、2009年から現職。
研究内容は「現代資本主義と林業問題」などここに文字列



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