行動する直売所。それを率いる人々

全国農産物直売ネットワーク 森岡亜紀

<平成26.6.10 産直コペルvol.6)

何もない場所だから店を作った


 直売所ができるまで、その辺りは全くひと気がなく、立ち止まる車や人もいなかったという所は多い。そこに生産者が直売所を開設すると、早朝は行列ができ、休みは渋滞するほどの人気を博すようになった。
すると、その賑わいに目を付け、近くに新たな施設を作る動きが全国的に進んだ。直売所の隣に道の駅が建ったり、直売所に通じる道の途中に新店を開設したりは今も続いている。
その設置者は行政や農協であったり、商業者であったりだが、多くは地元の供給力や労働力を超えた器やサービスを構想し、この場を利用して成果を出せと、生産者に迫ってくる。
建った以上は相乗効果をあげる工夫をしている所が多いが、自らリスクを背負って店を立ち上げた先駆者達へのインパクトはどこも多大だ。

直売所「よかところ」(長崎県西海市)の店内。手作りの売り場は見通しも採光も良く、買い物がしやすい。
直売所「よかところ」(長崎県西海市)の店内。手作りの売り場は見通しも採光も良く、買い物がしやすい。

峠の真ん中に直売所をつくりたい


長崎県西海市の峠の真ん中に直売所「よかところ」を開設したのは平成6年。大村市の「シュシュ」の開設が平成8年なので、長崎県下でも早い時期の常設店だ。旧・西海町の生産者が組織を作り、120平方メートルの売り場も自ら建築・改修を重ねて今に至る。
「女性や高齢者が収入を得られる売り場が欲しかったのはもちろん、当時の峠は店もなく、夜も真っ暗だったので、通る人がほっとできる場所を作りたかった」というのが、今も組織を率いる鉢川光秋さん((株)よかところ 専務取締役)など開設者達の想いだ。
(株)よかところ 専務取締役・事務局長の鉢川 光秋さん。県内外の直売所の良きアドバイザーでもある。
(株)よかところ 専務取締役・事務局長の鉢川 光秋さん。県内外の直売所の良きアドバイザーでもある。

目的を絞り、安定経営を続ける


店は近隣住民や観光客にも支持され、人気を呼んだ。加工施設も飲食施設も持たないが、300名の会員、約40坪の売り場で年間2億の売上げを平成16年度から下げていない。みかんを中心とした果樹と野菜で売上の5割を占めるが、惣菜・菓子等加工品も人気で、売上の2割を超す。 
その後、近隣のオランダ村の閉鎖など観光ルートの変遷の憂き目にも合うが、他の商業・飲食施設の苦戦が続く中、「よかところ」は固定客をつかみ、経営は辛くも安定している

商品を配達し、高齢出荷者を表彰


顧客動向の変化にも素早く対応し、全国発送の他、千円以上の購入者には離島を除く市内全域に無料配達する。地元の学校や福祉施設など業務用配達もほぼ毎日職員が対応している。
会員の最高齢は90歳。高齢出荷者に敬意を表し、売上のあった80歳以上の会員を毎年表彰し、功労金を出してもいる。
平成16年には「よかところ」の真向いに「道の駅さいかい」が建設された。物販は土産物が中心だが一部は競合もする。何もなかったかつての峠は、今や交流拠点として賑わっている。


じゃがいも畑の真ん中にも直売所


 平成8年に「よかところ」を訪れて触発され、自分の地域にも直売所を作りたいと動いたのが、諫早市飯盛町で食生活改善推進員だった佐田登喜子さんだ。
 諫早は干拓で知られる大規模産地で、中でも飯盛地区はじゃがいも、カーネーションの大産地だ。見渡す限りのじゃがいも畑が丘陵に広がる、少量多品種生産が必要な直売活動とは対極にあるような産地だ。

じゃがいもコロッケに特化


農業者ではない佐田さんだが、地元の生産者をまとめ、国道251号のAコープ横に4坪の直売所「フレッシュ251」を平成10年に開設した。平成17年にはじゃがいも畑のど真ん中に2号店を開設。今や約180名の会員を抱え、店長として店を切り盛りする。2店舗とも自前の施設で、小さな改修を重ねて今に至る。

諫早市「フレッシュ251・2号店」の一角にあるコロッケコーナー。多い日には一日1,500個のコロッケが売れる。定番のコロッケは1個55円。
諫早市「フレッシュ251・2号店」の一角にあるコロッケコーナー。多い日には一日1,500個のコロッケが売れる。定番のコロッケは1個55円。

2号店で作る「じゃがいもコロッケ」は特に人気で、コロッケだけで年間1千万を販売すると言う。
「じゃがいも産地にこそ、じゃがいもが買えて、食べられて、休める場所を作りたかった」というのが佐田さんの想いだ。ここも飲食施設はないが、店頭に大きな庇をつけ、椅子・テーブルを配置し、客がコロッケや弁当を食べ、休憩できる空間にしている。
諫早市は合併で人口14万人の都市となり、今や市内に大小20カ所もの直売所がある。一般の量販店や流通業者も地場仕入れを進め、市民の買い物の選択肢も広がる中、丘陵の中にポツンと建つこの店を目指し、今も客は集まってくる。

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