特集 森林資源活用の現段階

薪ストーブの可能性を中心にして

(平成26年10月10日 産直コペルvol.8)
文・写真 奥田悠史・柳澤愛由

 日本は、国土の約7割が森林に覆われている世界有数の森林国だ。しかし、国産材の価格は、昭和50年代をピークに下落の一途を辿っている。(消費増税に伴う住宅の駆け込み需要などによる一時的な上昇を除く)
 国産材の価格や需要の低迷により、間伐や保育作業に掛かる費用が回収出来ず、森林の間伐遅れや放棄林が増加するといった問題が各地で起きている。こうした林業の衰退は、農林業が主産業であった、中山間地域の活力低下にも直接影響を与えている。
 そこで今号では、間伐材や用材として使えない木材の利活用の取り組みにスポットをあてた。
 長野県上伊那に本社を構える薪ストーブの販売・施工から薪の販売を行なっている株式会社ディーエルディーと同県内の森林組合で唯一ペレット製造プラントを持つ上伊那森林組合を訪ねた。



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株式会社ディーエルディー 長野県伊那市
薪の宅配サービスで間伐材に出口を作る


 

国内最大規模の薪ストーブ販売・施工会社「株式会社ディーエルディー」(本社=長野県伊那市)は、針葉樹間伐材の有効活用や薪のインフラ整備を目的に薪の宅配サービスを2007年から行なっており、日本各地から注目を集めている。
 宅配サービスの仕組みは、専用ラックを契約者宅に設置し、週1回程度、減っている分を補充してくれるというものだ。灯油の配達サービス同様に補充した量を伝票に記載し、置いていってくれるので、留守にしていても構わない。
 値段は1束相当240円(税別)、1立方メートル当たり1万2000円(基本料金別)。1世帯あたり年間(冬季)300~400束程必要になり、金額に換算するとおよそ7万5千円〜10万円程度が一般的。
 サービスエリアは、長野・山梨の全域と宮城県の仙台エリア。契約者は、毎年増え続け、1200軒を超えた。
 同サービスに使う薪は、ほぼ全て針葉樹の間伐材等を活用している。
 同サービスの立ち上げメンバーであるバイオエネルギー事業部の木平英一さんにお話をうかがった。


左 木平英一さん
左 木平英一さん




薪ストーブユーザーと地域の森林をつなぐ


「薪ストーブユーザーと日本の林業の間にあったミスマッチをなんとか解消できないかと考えたのが、薪の宅配事業でした」と木平英一(このひらえいいち)さんは話す。
 薪ストーブ愛好家の間では、「薪がなかなか手に入らない。薪は高い」と言われ続けていた。しかし一方で林業の現場に行けば、売り先がなくて針葉樹の間伐材が捨てられているという状況があった。
 利用する側(需要)と生産する側(供給)のミスマッチを埋める事が出来れば、地域の間伐材を活用出来ると、木平さんは考えた。
 しかし、薪ストーブ業界において、〝薪〟といえば、広葉樹をさす事が多く、その中でも特にナラが好まれていた。一方、針葉樹の薪は「油分が多く、火力が強すぎてストーブを傷める。火持ちがしない。すすが多い」と敬遠する人が多かった。
 「荒廃が目立つ針葉樹の人工林を活用しなくては意味がありません。
それに、針葉樹の薪を使ってもストーブを傷めるという事は、ありません。実際に自分で薪を作っている人は、針葉樹も広葉樹も関係なく薪として使っていましたから」と木平さんは話す。
 そこでDLDでは、問題ないことをしっかりとした実験結果によってすために、燃焼実験を繰り返した。その結果、樹種による違いはほとんどなく、問題はストーブの使い方だということがわかった。
 しかし、ユーザーに実験結果を説明しても、「購入するなら、広葉樹の方がいい」となかなか納得してもらえない。
 木平さんが、売り方を変える必要がある、と考え、発案したのが、薪の宅配サービスだった。広葉樹を使うか、針葉樹を使うか、という視点から発展し、必要な薪が必要なときに配達されるという利便性を商品にした。
 「針葉樹なんて」と言っていた人たちも、実際に使ってみると何の問題もないことに気がついた。「結局使わず嫌いなところがあったんだと思います。実際に使った事はないけれど、薪ストーブは、広葉樹という固定概念に捉われてしまっていただけなんですよ」と木平さんは笑う。
 「薪ストーブの本質は、近くの木を使う、という事だと思っています。ナラの薪が良いからと言って、わざわざ遠くから運んで来るのではなく、地元の木木をいかに使うか、という視点が重要です」。

木にあわせて薪を作っていく
木にあわせて薪を作っていく
木材の出口を作り出す
 木平さんが針葉樹の活用にこだわったのは、「間伐遅れや、放棄林の増加といった日本の林業が抱える問題を解決するには、木材の出口(売り先)を作る事が大切」だと考えているからだ。木材の出口を作り、若者が林業で生活していけるような仕組みを作っていかなければ、林業の後継者不足を解決することは出来ない。
 林業の収入のほとんどは、用材(建築材など)の販売だ。しかし、用材として使える木を育てるには、長い年月と下草刈りや枝打ち、間伐など様々な手入れが必要になる。最終的に木を伐採するまでには、数十年〜長いものでは百年単位の時間がかかる。
 このため林業者にとって、主伐(林業で伐期に達した成熟木を切る)までに収入を得るためにも間伐材の利用は大きな課題になっている。
 「間伐材や用材として利用出来ない木材を金に変えていくことが重要です。伊那の山にもカラマツやアカマツの間伐材がその場で捨てられてしまっています。十分な対価さえ支払われれば、その木を活用することが出来るのです」。

 DLDでは、林業家の手間と運搬コストを極力下げるように取り組んでいる。
 1つ目は、原木での買い取りだ。間伐材などを原木で買い取り、それを自社で薪割り、乾燥を行っている。こうすることで、林業家は原木をトラックに載せてストックヤードに運ぶだけでいい。
 2つ目は、ストックヤードの分散だ。同社は、長野県と山梨県に13カ所のストックヤードがあり、各地域ごとの林業家が、各ストックヤードに木材を搬入しているので、運搬コストの削減が可能になる。
 「間伐材を切り出して、トラックにのせて、そこから更に4時間も5時間もかけていたら、コストが合わない。ですが、山から1時間程の距離であれば、林業家への負担を減らせます」と木平さんは語る。

 現在、宅配サービスで提供している薪は、各地域の間伐材がほとんどだという。
 DLDの薪宅配サービスには、山で働いている人に適正な対価を支払って、森林や林業を取り巻く厳しい状況を少しでも改善する一助になれば、という願いも込められているのだ。

エネルギーとしての薪

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 薪の宅配は、森だけでなく、もちろん薪ストーブユーザーに対してもメリットが大きい取組みだ。
 薪ストーブの導入を諦める理由として「薪を保管しておくスペースが敷地内にない」、「薪割りが時間的にできない、体力的に無理」などがあげられることが多いが、同社のサービスはどちらの問題も解決する。
 貸しラックは横1.5メートル、高さ1.3メートル、奥行き0.5メートルと非常にコンパクト。庭や玄関ロータリなどに置いておけるサイズだ。このラックには、10日から2週間で使い切る30束相当の薪が入る。そしてDLDがラックを定期的に巡回しているため、薪が切れる心配がない。価格的にも、薪を束で買ってくるよりはかなり値段を抑えることが出来る。
 「薪は燃料なので普及のカギはやはり価格です」と木平さんは話す。便利さや価格の面で、電気やガス、灯油に負けないくらいの普通のエネルギーとして薪を普及させたいと考えているという。
 「通常、薪を束にするのは、持ち運びに便利で、単価を付けやすいから。「その手間とコストをやめれば、宅配でも十分に安くできました」。
 薪の調達が見通せない状態では、薪ストーブの普及は難しい。エネルギーは、インフラと機器が揃っていなければ、使えない。「例えば、石油ストーブは売っているが、石油が何処に売っているか分からなければ、普及しません。それと同じように、薪の流通の仕組みを作り、更にメンテナンス出来る場所をしっかりと増やしていく事が薪ストーブ普及には必要です」と木平さんは話す。
 薪の宅配サービスは、愛知県や岩手県などでも始まっており、針葉樹の薪の利用はどんどん進んでいきそうだ。それに伴い森林の整備が少しずつでも進んでいくと期待したい。


お問合せ
株式会社ディーエルディー
本社 〒396-0217 長野県伊那市高遠上山田2435
TEL 0265-94-6133 FAX 0265-94-5133
HP http://www.dld.co.jp








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