地産地消と学校給食

東京農工大学大学院  野見山敏雄

(平成24.1.10 産直コペルvol.3)


 10月上旬に地産地消優良活動表彰の現地調査のため兵庫県宍粟市(しそうし)学校給食センターに行った。地元産食材を使用した学校給食は全国的に広がっているが、宍粟市学校給食センターは別格だった。簡単に概要を紹介しよう。
 宍粟市は宍粟郡山崎町、一宮町、波賀町、千種町が2005年4月1日に合併し誕生した。奈良時代の「播磨国風土記」に、7つの里をもって宍禾郡(しさはのこおり)として建郡された歴史と伝説のふるさとである。
 実は、宍粟市学校給食センターという給食センターはない。山崎学校給食センター(約2500食)、一宮波賀学校給食センター(約1200食)、ちくさ学校給食センター(約300食)を統合した条例上の組織名称である。
右が説明する田路さん
右が説明する田路さん
同センターの地産地消を推進するリーダーの1人が栄養教諭の田路永子さんである。田路さんは3つの学校給食センターを人事異動で一巡し、それぞれのセンターで地産地消の学校給食づくりを実践した立役者なのである。

 同センターの食育の柱として6つあげている。
(1)豊かな人間性を育む
(2)生活能力を高める
(3)食文化の継承
(4)健康に生きる知恵を学ぶ
(5)環境の大切さを知る
(6)食料自給力について考える
どれも、単なる食育の範疇を超えて、暮らしや地域農業までを考える深さをもっている

 そして、宍粟市の学校給食のこだわりとして次の6つをあげている。
(1)主食はご飯
(2)旬のものを使う
(3)安全・安心
(4)うす味
(5)栄養バランス
(6)手作りである
調査当日の給食
調査当日の給食
学校給食に卸していた製パン業者が廃業したことを契機として、完全米飯給食となった。毎月19日の食育の日は宍粟市産食材100%を使用した伝統的な日常食の献立である。この日の献立は、具入りのご飯と具たくさんの味噌汁の2品である。子どもたちはご飯をおにぎりにして食べる。児童・生徒のパン食への希望はないかと聞くと、田路さんは「パンは家庭で飽きるほど食べている。ご飯を食べさせるのが良い」ときっぱりと答えた。
 また、毎月9日はふるさと献立の日で、兵庫県産食材100%を使用した主食、主菜、副菜2品の理想的な和食のスタイルにしている。
 同センターの食材調達は地元農協や豆腐店、製粉所、畜産農家などの協力を得て、現在の調達ルートを確立している。給食で使用する味噌は給食センターの自家製である。廃れていたごまの栽培も復活させている。また、地元で捕れた猪肉や鹿肉を給食に使用している。これは地元の食肉店が建てたジビエ専門の解体施設を経由して出荷されている。この活動により、学校給食における地場産物の使用割合が2008年の49%から2012年には72%に増加した。

鹿肉を解体中
鹿肉を解体中

 このように、宍粟市の学校給食は地産地消にこだわったもので組み立てられているが、その成功要因は何だろう。田路さんの学校給食に対する理念とコーディネート力に寄与するものが大きいが、調理員さんや地元農家、食料品店などの協力があってこそだろう。このような地産地消の学校給食を食べる児童・生徒は幸せだなとつくづくと思う。きっと、健康な身体とともに郷土愛も育まれるのだろう。宍粟市学校給食センターは農林水産大臣賞(地域振興部門)を受賞した。「和食の基本は学校給食から」となれば良いな。

野見山敏雄さん
東京農工大学大学院農学研究院教授
東京農工大学で教鞭をとっており、最近の研究テーマは、半商品経済を組み込んだ農林産物の生産と流通に関する総合的研究である。主な著書には、産直商品の使用価値と流通機構(日本経済評論社)や食料・農業市場研究の到達点と展望(筑波書房,共著)など多数。2012年11月より地産地消優良活動表彰審査委員会・委員を務めている。




産直コペル申し込み

産直コペルのお申し込みはこちら! 年間6冊3240円(税・送料込み)です。

産直新聞

長野県版フリーペーパー! 直売所や道の駅で見かけたら手に取ってみてくださいね。

特別プロジェクト

信州の「環境にやさしい農業」実践直売所育成プロジェクト 推進中!

平谷村地域おこし協力隊facebook

人口480人。長野県で一番小さい平谷村で活動する地域おこし協力隊の活動記録