村おこし百景:三方一両得の発送でピンチをチャンスに変える

“焼き畑商業”に呑まれない生き方 かくまつとむ

平成25.12.10 産直コペルvol.3

 「ピンチはチャンス」という言葉がある。だれが言いだしたのかは知らないが名言だと思う。どんな選択や判断にもミスはある。間違いに気づいたまま放置すれば危機に陥るが、原因に遡って改善すればイノベーション(創造)が生まれる。
 モノづくりもサービスも、そして政治をはじめとするさまざまな社会制度も、数多くの失敗や課題に揉まれることで形をなしてきた。
 地方における悩みも、必ずしもマイナスではない。むしろ挑戦への好機だ。そんな事例が沖縄県にある。

 伊是名島は、沖縄県北東部にある周囲17キロメートル、人口1600人弱の離島だ。台風銀座の沖縄では戦後、サンゴや自然石を配した伝統的な垣根を壊し、家全体をコンクリート化する建築が広まった。総コンクリート化は猛毒のハブによる咬傷事故も防ぐとして歓迎された。結果として沖縄伝統の様式を持つ屋並みは消え、ハワイやサイパンと変わらない箱のような家ばかりになっていく。
 ハブが生息しない伊是名島では、金のかかる建て替えをあえて望む人が少なかったため、昔ながらの木造の家と、サンゴやフクギ(常緑樹)の垣根が残されたという。柱や梁などの構造材にチャーギーと呼ばれる丈夫な木が使われてきたことも、独特の屋並みが長く残った背景だ。

 ・住んでいるうちは長持ちすえうが、無人状態が続くと急速に老朽化していく
・住んでいるうちは長持ちすえうが、無人状態が続くと急速に老朽化していく
 だが、高齢過疎化の時代を迎え、島では空き家が目立つようになってきた。その頃に持ちあがった構想が「観光立村」だ。聞こえはよいが、要は一周遅れのバブル。外部資本の力で島全体を大規模海浜リゾートにしようというものだ。この選択に危機感を覚えたのが、伊是名島に惚れ込み本土から移住、ダイビングショップを開いていた納戸義彦さんだ。
 納戸さんは、伝統的な○○浜と言う地名を△△ビーチと呼び変えて宿泊者以外の立ち入りを禁じ、浜で釣りや貝採りを楽しんでいた地元の人を排除するような観光を「焼き畑商業」と呼ぶ。焼き畑商業とは、もともとは地方の個人商店を潰していったスーパーマーケットのような手法を批判する言葉だそうだが、持続性に欠ける収奪型のビジネスモデルという点では、リゾート開発も同じだ。
 批判をすることは簡単。だが島にとってメリットのある対案を示さなければ押し切られる。そこで納戸さんは、島の風というNPO法人を結成し、外部資本に頼らず幸せに暮らせる方法を議論する場を作った。
 そこで生まれたのが、島おこしではなく「島のこし」という考え。同時に出てきたアイデアが、廃屋となった島伝統の古民家をリフォームして宿泊施設に活用するという方法だった。
 原資は経済産業省の環境コミュニティ事業と、財団法人地域活性化センターのチャレンジ・コミュニティカレッジ事業。これらの助成に手を上げて採択されると、まず建築や歴史の専門家を招いて島の家屋構造や社会的価値について学んだ。
 そこでわかったのは、庶民の家なので構造が比較的簡単で、リフォームにあたってはそれほど専門的な大工技術が必要ではないこと。
 次に1軒の空き家の持ち主と交渉して、実技の勉強会を行なった。生徒は地元の若者たちだ。伊是名島には近年大工がおらず、家の改築や補修を頼むには本島から業者を呼ばなければならなかった。農業や漁業、建設業に従事している島の若者に基本的な大工技術を身につけてもらえれば、ちょっとした修繕も気安く頼めるし、若者の副業にもなる。

・リフォーム後、1棟貸しの宿泊施設に生まれ変わった古民家
・リフォーム後、1棟貸しの宿泊施設に生まれ変わった古民家
 学びの場としてリフォームされた家を見た持ち主は、涙を流さんばかりに喜んだ。さらに納戸さんたちは10年間の賃貸契約を持ち主と結ぶ。
 借り上げた家は2泊以上の長期滞在を前提に1棟貸しする。沖縄観光のリピート率は今や7割に達しており、来訪者はありきたりのもてなしでは満足しなくなっている。そういった沖縄フリークたちが、この一棟貸しの古民家に飛びついた。
 自炊設備もあるが、希望すれば島の主婦が地域の家庭料理を有料でケータリングし、一緒にゆんたく(おしゃべり)を楽しめる仕組みもつくった。庭の草取りや掃除、シーツの洗濯も地域の人に依頼し、少しでもお金が回る方式を取り入れた。
 計算では、宿泊稼働率が35%を超えれば毎月1万円の家賃を所有者に払っても収支が合う。家は持ち主が希望すれば10年後に返還される。もともと島のよさを守る「島のこし事業」なので、それはそれでよいのだ。
 実際には、一度島を離れると戻る人は少ないという。その場合はさらに契約を延長して月2万円を払う。島に残した家が荒れ果てていくことに負い目を感じている人は少なくないが、その悩みが解決され、しかも家賃収入まで生まれるわけである。
 この〝三方一両得〟のアイデアでよみがえった古民家は現在3棟。今や伊是名島観光の旗艦施設的な存在であり、旅人からも本物の沖縄時間が味わえるとして評価が高い。
 古民家再生の手ごたえを受けて設立されたのがLLC(非営利株式会社)島の元気研究所だ。NPO、農協、漁協が出資する法人で、課題解決をビジネス化する三方一両得の手法を基本に、特産品開発や教育事業にも取り組んでいこうという社会性の強い株式会社である。
 さる8月には、規格外を理由に活用されないままの島の米で使った麺カフェ『太陽食堂』をオープン。資源の有効活用と、製麺や接客など新しい雇用を生み出しつつある。勢いを駆って、島内外へいつでもどこでも、この新しい味を届ける厨房付きキッチンカーも作った。
 関わる人の誰もに小さなメリットが生まれる三方一両得のような考えは、どの直売所でも理念の骨格になっているはず。皆さんが直売所を作ろうと立ちあがった時の思いの熱さは、今も同じだろうか。



プロフィール
かくまつとむさん
情報工房「緑蔭風車」代表
フリーランスの記者
兼企画構成者

自然誌や熟年生活誌などのライフスタイル雑誌、農業誌などを中心に取材活動を続ける。さまざまな「考えて書く仕事」を手がけている。「地域活性」「一次産業」「教育」「文化継承」「持続可能な社会」をテーマに据え、取材型の分析法を用いて自然・農・人・社会をつなぐ活動を続ける。



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