WORLD REPORT in EUROPE VOL.2

有限会社キャリコ 小林正信

(平成25.12.10)

わたしは産直新聞社の大家で、キャリコという小さなIT会社を経営している。わたしの会社の2階が産直新聞の編集室という間柄だ。8月に独仏のオーディオ仲間を訪ねる旅をしたついでに、ちょっとだけ野菜などについて見聞きしたことを寄稿させていただく。ドイツの旅から、今回はフランスを訪れた。



アルザス・ワインロードを巡る



アンザス・ワインロードにある宿場街。歴史を感じさせる古い街並みなのに、暗くなく華やかだ
アンザス・ワインロードにある宿場街。歴史を感じさせる古い街並みなのに、暗くなく華やかだ

 翌日はクライン氏の愛車BMW製X3クリーン・ディーゼルに乗せてもらってストラスブール側から「アルザス・ワインロード」を通過し、ナンシー駅まで行ってフランスの誇る新幹線TGVに乗る予定で出かけた。ところが、「アルザス・ワインロード」を辿ることは予想外に困難で、途中で引き返すことになってしまった。なにしろ、宿場間の道路は塩尻のブドウ畑の間にある農作業用の道路と大差ない程度の細い道で、しょっちゅう交差点で曲がるのに標識がろくにない。おまけにフランスのカーナビは日本のより低性能で不親切なので、2つ目の宿場街に向かう途中で迷ったころには、「これは2~3日かけないと通過できない」と悟るに至った。クライン氏も近くのお気に入りの街を散発的に訪れるだけで、ルートをすべて辿ったことはないそうだ。こんな不親切な観光ルートは日本では考えられないが、訪れた街々は日曜日ということもあって観光客でごった返しており、「まあ、看板だらけの観光地よりもいいか」と思い直しながら美しい木造建築の間を散策した。
 道に迷ったあげく、夕方の1本しかないマルセイユ行きのTGVに乗り遅れそうで、名物料理の「シュークルート」を食べることもできずにストラスブール側へと戻ったので、アルザスの農業について書けないことをお詫びする。ぎりぎりで駅にたどり着いてTGVに乗り込むちょうどそのとき、駅前でお礼もそこそこに別れたクライン氏から「電車は大丈夫か?」という電話が入った。大慌てで乗ったTGVだが、なんだか判らないトラブルで遅れにおくれ、結局マルセイユに着いたのは翌日の未明になってしまった。


南フランスにて



 マルセイユではレンタカーのシトロエンC5を借り、プロバンスのドライブに出かけた。 
 フランスは田舎に行くと電車もバスもろくに無いのでレンタカーを借りるしかないのだが、「大都市マルセイユはパリより危険で運転が難しい」と聞いていたので、おっかなびっくり出発した。どうにか無事マルセイユの中心部を抜けて高速道路に乗ると、それからは快調に飛ばすことができた。クライン氏が「自動速度取り締まり機があるが○○○キロまでなら大丈夫」と言いながらグルーズコントロールに設定していた速度で走ると、すぐに目的のインターチェンジに着いた。マルセイユ側からプロバンスに入ると、コレンやゴルドといった味わいのある小さな村々がある。特にコレンはフランスにおける有機農業の先駆地として有名なので訪れてみたが、秋には全てが黄金色に染まるという村はひっそりとしていて、カラッとした石灰岩質のカルスト台地には、濃い紫の実を付けたブドウ畑がどこまでも広がるばかりであった。

プロバンスの南端にあるコレン村に広がるぶどう畑
プロバンスの南端にあるコレン村に広がるぶどう畑

陽気な農家と出会う



 帰りがけに野菜畑で作業をしている男性を見つけ、運転席から窓越しに声をかけると人なつっこそうに応じてくれたので、車を降りて話を聞くことにした。といっても、フランス語はさっぱり解らないので、名詞は英語、名詞以外はカタ言のドイツ語という悲惨な状況での取材となった。ドイツ国境に近いアルザスでは、だれもがフランス語だけでなくドイツ語も話せたが、プロバンスまでくるとドイツ語も「英語よりはまし」という程度にしか通じないので、取材内容が乏しくて不正確なことをご了承いただきたい。幸いにも「オーガニック」は英語と共通のようで通じたが、男性の名前は聞き取れなかった。フランス語の発音は本当に難しい。

太陽と水で育てたトマト



トマトを手にコレンの農作物について自慢する農家の男性
トマトを手にコレンの農作物について自慢する農家の男性
 男性はブドウ農家と推測され、はじめは言葉がうまく通じないのでニコニコするばかりだったが、農作物の自慢話になると熱が入り、「コレンの農作物は完全な有機栽培で、野菜は水と太陽だけで出来ている」と強調していた。まあ、牛糞などの有機肥料は使うのだろうが、家畜のエサもコレンの植物だから、元をたどれば水と太陽ということなのだろう。野菜はトマトが主なようだったが、自家消費用に数十種類の野菜やハーブを栽培していた。なんと、その中には日本では制限されているタバコまであり、「自分でシガレットにして吸うと最高だ」と満面の笑顔で話してくれた。男性が手に持っているのはトマトで、たっぷりのミントと一緒にプレゼントしてくれた。
 別の英語が話せるフランス人に聞いた話だが、フランスは今ベビーブームで、人口の減少に歯止めがかかっているという。子供のいる家庭が増えたことで食品の安全性への関心が強くなり、高価でも体に良い農作物が嗜好され、伝統的な小規模農業が見直される状況だそうだ。コレンにも若者が有機農業に魅せられてIターンしており、少子高齢化で国が傾きかけている日本から見れば、じつにうらやましい状況だ。

――次号に続きます

小林正信さん
有限会社キャリコ 代表取締役社長

1961年生まれ。
長野県駒ヶ根市出身。
つくばの某国立研究機関での研究生活の後、
地元で小さなIT会社を設立し、現在に至る。
専門分野はドイツのヴィンテージオーディオ。
計測自動制御学会などの会員。



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