WORLD REPORT in BRAZIL 

有機農業で、人生豊かに ニッケイ新聞記者 堀江剛史

(平成26.4.10 産直コペルvol.5)

 日本の直売事情、農業事情を複眼的に視るためには、他国の状況を知ることが重要だ。本号よりブラジル在住のニッケイ新聞記者、堀江剛史さんのブラジル農業レポート掲載する。堀江さんは当編集部スタッフの知人。

コーヒー、蜂蜜、穀類などの商品も人気だ
コーヒー、蜂蜜、穀類などの商品も人気だ

◆10年の成長率300% 民の憩いの場で直

販市

 自給率ほぼ100%を誇る農業大国ブラジル。近年、健康志向の人々の増加に伴い、有機食品が注目を浴びるようになった。国内最大の都市サンパウロ市の公園で20年以上開かれる『フェイラ・オルガニカ』(有機農産市)では、野菜・果物はもちろんパン、ジャム、乳製品、卵、蜂蜜にいたるまで豊富な食品が揃う。過去10年間の有機食品市場の成長率は、なんと300%。今年は政府も80億レアルの投資を決めるなど、急成長が見込まれている。
 同フェイラを主催する有機農業協会(AAO、1989年設立)に現状を聞いた。

今日は何があるかな?」。ゆっくりと楽しみながら品定めをする婦人
今日は何があるかな?」。ゆっくりと楽しみながら品定めをする婦人
 「元気の秘訣は、毎日食べている有機食品よ!」。毎週買い物にやってくるという87歳の女性客は、カートを片手に溌剌とした様子で品定め。子連れ夫婦から高齢者まで、のどかに買い物を楽しんでいる。常連客の笑顔に、販売者たちの顔もほころぶ。
 有機農業協会のマルシオ・スタンジアーニ渉外担当
有機農業協会のマルシオ・スタンジアーニ渉外担当
 市場は生産者と消費者の出会いの場でもあり、有機食品の普及と消費者の意識向上を目指し、1991年に始まった。
 同協会のマルシオ・スタンジアーニ渉外担当(55)によれば、「初めはわずか6家族の生産者だったが、現在約100家族が産地直販をしている」と話す。
生産者会員は300を超える。
 有機バナナなどを売る村上ファビオさん(30、三世)は、「認定を取得には2年、費用も1万レアルかかる。天然水を使わないといけないし、毎年再審査があるから厳しいよ」と話しながらも表情は誇らしそう。

 「ほら、味が全然違うでしょう」と差し出したバナナは、サイズこそ小さいが、一口で風味の豊かが実感されるものだ。

◆1989年に協会設立日系人が牽引する市場


 1989年に誕生したAAOは、ブラジルで最も古い有機食品の協会だ。農業技師の続木善夫さん(83、愛媛)が中心となり、ブラジル全土から集まった研究者や医者、農業技師、生産者ら50人が立ち上げた。
 続木さんは53年にブラジルに移住、日系農協の営農指導者として活動、農薬会社を設立した。農薬の有害性を熟知していることから野菜や果物を食べない生活を続けたことで体調を崩したことをきっかけに、無農薬での栽培法の研究をはじめ、普及を図った。
 市に初回から参加する堀田ジョージさん(59、三世)は、「90年には日系農家が協会を作ったが、オーガニックという言葉すら認知度が低かった当時、『無農薬なんて無理』と誰も信用せず、つぶれてしまった」と振り返る。

 「自信を持って勧められるよ」と笑顔で話す村上ファビオさん(左
「自信を持って勧められるよ」と笑顔で話す村上ファビオさん(左
 他にも「ビオジナミコ」(Biodinamkco)というドイツ発祥の方法などもあり、いずれも無農薬栽培による健康的な生活という志を共にしていた。それら各種名称は法律発布後、「オルガニコ」に統一された。

  「どんなものでも農薬を使わずに作れる」と堀田さんは断言する。体調を崩し、当初は自身のためにと父が始めた有機農業を受け継ぎ、年間で50種類に及ぶ野菜作りに精を出す。
 「有機食品は単なる健康食品ではなく、人間関係や人生を豊かにするもの。これからも心を正しく持ち、有機農業を通して人々を幸せにしたい」。そう力強く笑顔で語った。

◆拡大する国内消費と輸出07年に有機食品法施行


 有機食品市場の年間販売額は2010年に3億5千万レアルに達し、前年比で40%の成長を遂げた。砂糖、大豆、コーヒー、果物類などは国外にも輸出されており、こちらも輸出額は1億レアル以上だ。

 また、ブラジル・スーパーマーケット協会の調べによれば、国内90%以上の家庭が何らかの有機食品を置いており、サイト上で実施されたアンケートでは回答者の74%が「もっと安ければ買いたい」、20%が「近くに有機フェイラがあれば買いたい」と回答するなど、国民の関心は高い。
 そんな高まりを受けて、ようやく「有機食品」を定める法律が2003年(Lei 10831)に制定され、4年後に施行された。人体や環境に悪影響を与える化学肥料、農薬、遺伝子組み換えを使用しないことを基本とし、様々な規制が課せられる。
 有機認定機関で認められた食品だけが「オルガニコ」と銘打つことができ、スーパー等で販売する場合は国内唯一の有機マークが付与される。



プロフィール
堀江 剛史さん(ほりえ よしふみ)
1975年広島県生まれ。南米各地で、日本語教師、飲食店などを経て2002年からニッケイ新聞(本社・サンパウロ)記者。
08年「日伯友好の礎 大武和三郎」で海外日系新聞協会大賞




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