道の駅 四万十とおわ(高知県)

商品のドラマ性も発信する直売所づくり   かくまつとむ

<平成26.4.10 産直コペルvol.5)



イベント開催時などは、国道を通行する車両のじつに 5割以上が立ち寄るという道の駅四万十とおわ。
イベント開催時などは、国道を通行する車両のじつに 5割以上が立ち寄るという道の駅四万十とおわ。
   中山間地域や離島に住む人たちが背負う地理的ハンディは、都市部に住む者にとってなかなかわかりにくいものだが、ときどき、それを実感することがある。
 
 まずは移動に伴う時間と費用だ。先日、高知空港から県の西端にある柏島というところまで車で走った。「高速道路が延びたので便利になったよ」と地元の人はいうのだが、それでも3時間ほどかかった。
 空港利用者の少ない高知は、航空会社もどうにか拠点を維持しているような状態にある。札幌や福岡のようなハブ空港で見られる競争原理が働かず、安いチケットも少ない。
 高知空港から県西部までの3時間は、高速道路が空いているときに東京から車で走れば、仙台や新潟に着く時間に相当する。
 こうした条件不利地域では、みんなで知恵を絞って開発した商品を都会へ売り出そうとしても、交通費や滞在費が重くのしかかる。
 
効率よく営業をこなすためにある交流の場が、たとえば○○フェアや○○ショーのような場だ。
 もちろん、そうした場にも大きな出会いが待つ可能性はあるわけだが、ルーチン化してしまうと、フェアやショーに行くことだけが「営業活動」であることと思い込みやすい。
 
 いま、高知県の『道の駅四万十とおわ』の指定管理をしている株式会社四万十ドラマ社長の畦地履正さんは、かつてそうした出張営業の効率の悪さを盛んにぼやいていた。
 彼は高知の山奥から単身上京し、靴底をすり減らして企業を回る風呂敷営業も果敢にこなしてきた根っからの営業マンだ。清流四万十川の名に恥じない「自然であること」を大切にした地場産品の開発を主導。小さな単位の取引ではあるけれど、着実に都会へ売り出してきた。
 そうした努力とガッツを地元の人たちはよく見ていて、地域に道の駅が新設されることになったとき、運営者に指名したのだ。
 
 

四万十とおわは、上下線で一日1000台にも満たない山奥の国道傍にある。そこに道の駅ができることになったとき、地元の人たちは「誰も来ん」「すぐに潰れる」と噂しあったという。実際、コンサルタントに試算を依頼すると、毎年3000万円の赤字が出るといわれた。
 ところが、その四万十とおわは、今ではレジ通過者だけでも年間15万人になる、四国屈指の人気ステーションであり直売所である。
 オープンから3年ほどたったころ、畦地さんがしみじみと私に言ったことがある。
 「お客さんが向こうから訪ねてきてくれる直売施設のありがたさと強みが、しみじみわかったねえ」。
 
 たとえば新商品のモニター調査。
 売り場を持つ前は、時間とお金をかけて高知市内や東京へ売りたい商品を持っていき、試食やプレゼンテーションを繰り返していた。商品を扱ってくれる可能性がありそうな仲介業者の元も、限られた出張時間をやりくりしながら訪ねた。
 しかし、自分だけが動くこうした営業では、手ごたえの分母は知れている。また、試食の評価と商品力は必ずしも正比例のグラフを描かない。おいしいと感じることと、それを気に入って身銭を切って買ってくれること、あるいは取り扱ってくれることは違うのだ。消費行動には、統計学では分析できない複雑な心理や個々の事情が働いている。
 畦地さんは言った。
 「それが当たり前のマーケティングと思っておったんですが、自前で直売施設を持ってみて、なんや、こんなに効率のいいマーケティングの場があったのかと思いました」。
 
 たとえば、地場農産物を使った新しいアイスクリームを、道の駅の店頭で売り出す。地元のテレビや新聞にとってはニュースなので、何らかの形で取り上げられることが多い。
 まずわかることは、その新商品が持つ印象的訴求力である。ニュースをきっかけに、どれだけの人がわざわざ車を走らせて四万十川の奥までやってきてくれたか。その数字で商品自体が発するオーラのようなものを判断できる。つまりスター性だ。

選りすぐりの大粒の栗で作った渋皮煮。この商品は、瓶の中をよく見せることに最大の価値があると考え、ラベルはあえて小さくしてある。6次産業化により一粒当たりの単価は原料出荷時の10倍以上に。
選りすぐりの大粒の栗で作った渋皮煮。この商品は、瓶の中をよく見せることに最大の価値があると考え、ラベルはあえて小さくしてある。6次産業化により一粒当たりの単価は原料出荷時の10倍以上に。
 次の利点は、買って食べた人の表情や感想が直接汲み取れるということである。無料のサンプルとして口にしたときと、食べてみたいと直接訪ね、お金を出して手に入れたときでは、人の心理構造は違う。
 行列の長さや、並んでいる人たちの年齢や性別、あるいは服装などから判断できることもたくさんある。テイクアウトの個数でも、最終的な評価を類推できる。
 売り場のなかったころは、こうした情報を得るだけでも大変な苦労をしていたのに、道の駅ができてからは、販売とマーケティングの両方が、地元に居ながらにしてできるようになったのだという。
 畦地さんが、「すぐに潰れる」という地域の噂やコンサルタントが示した絶望的数字をひっくり返し、道の駅の直販部門を黒字にできた背景にあるのは、こだわりだ。
 四国の中山間地では、都市部と違い一見客は多く見込めない。地元の住民を含め、何度でも利用してくれないことには売り上げは上がらない。
 直売施設を、遠くからでも行きたくなるようなお気に入りの場に育てるには、新鮮だとか、値ごろだとか、おいしいといった要素を超えた価値も必要だ。つまり、商品の背景にある素材や関わる人の物語、つまりドラマ性も発信していくことだ。
 
 畦地さんの口癖は、ローカル、ローテク、ローインパクト。この3原則から外れたことはやらない。たとえば四万十の清冽な水で作った豆腐とうたいながら、原料は輸入大豆だというようなことや、よその直売所でも売れているからという理由で、地元と縁もゆかりもない商品を並べることはここではご法度だ。
 「うちがこだわるのは、わざわざ行く価値があるかどうか。四万十とおわでしか買えないもの、ここへ行かないと味わえない雰囲気です。ふらっと立ち寄る道の駅ではなく、休日に、カーナビの目的地に設定してもらえる道の駅を目指してきました」。
 だから、目標は直売事業にとどまらない。合成樹脂製のレジ袋を減らす運動としてはじめた手折りの新聞バッグは、世界的にも評価され、意匠登録した作り方のハウツーが小さな経済を生むまでになった。

地元・高知新聞で作られた新聞バッグ。地元のお茶とのセットでよく売れる。各地で同様のバッグ作られているが、ここが元祖。
地元・高知新聞で作られた新聞バッグ。地元のお茶とのセットでよく売れる。各地で同様のバッグ作られているが、ここが元祖。
 かつて地場産業として手堅い利益をもたらしながら、今では衰退著しいお茶と栗の栽培。道の駅を核にした6次産業化で、Iターンの若者と一緒にそのテコ入れに取り組む。
 清流四万十川という自然資源を生かした交流事業や、四国各県の同業者と連携して、田舎ならではの面白いことをやろうという〝アライアンス化〟なども仕掛ける。

 道の駅四万十とおわの活況を見て感じるのは、畦地さんが言うように「お客さんのほうが、わざわざ足を運んで来てくれる」田舎の直売所の利点を、どれだけの人がチャンスと感じているだろうか、ということである。
 直売所に関わる人自身が「田舎の店なんてこんなものでいいだろう」とか「そのうち潰れてしまうのでは」とひそかに思っているようでは、私たち直売所ファンにも何も響いてこないし、すぐ見抜かれてしまう。

建物には地元材をふんだんに使うなど、ローインパクトやローカルであることにこだわる。コンテナもプラスチックではなく木だ。
建物には地元材をふんだんに使うなど、ローインパクトやローカルであることにこだわる。コンテナもプラスチックではなく木だ。
 
 売れ筋や売り方の分析ももちろん大切だが、休日にカーナビで行先を設定するときのようなわくわくした気分の本質、つまり日本人の余暇心理についても、直売所はもっと研究をしたほうがよいのではないか。








かくまつとむさん
情報工房「緑蔭風車」代表フリーランスの記者兼企画構成者
自然誌や熟年生活誌などのライフスタイル雑誌、農業誌などを中心に取材活動を続ける。さまざまな「考えて書く仕事」を手がけている。「地域活性」「一次産業」「教育」「文化継承」「持続可能な社会」をテーマに据え、取材型の分析法を用いて自然・農・人・社会をつなぐ活動を続ける。





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