視点を変えてアイデアをひねり出す 6次産業化の店作り

長崎県大村市おおむら夢ファームシュシュ

(平成26.4.10 産直コペルvol.5)

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長崎空港から車で15分。大村湾を一望する丘に広がる農業複合施設「おおむら夢ファームシュシュ」には、年間およそ49万人の人が訪れる。
 シュシュは、地場産の農産物や加工品を販売する直売所「新鮮組」を中心にアイス工房やパン工房、洋菓子工房、レストラン、体験教室、収穫体験施設が併設した施設だ。工房やレストランでは、地元の旬の食材をふんだんに使用し、地元農産物のおいしさをアピールしている。

 さらに、地域全体を巻き込んだグリーンツーリズムを行なっているのも大きな特徴。シュシュが窓口になり、地域の観光農園や農家民泊を楽しめる。
 工房やレストラン、直売所、そして地域が有機的に連携することで、都市と農村が交流する拠点施設の役割を担っている。


 

お客さんの視点で売り場を考える


 「ちょっとした工夫で直売所はまだまだ面白くなりますよ。出来ることから、取り組んでいくことが重要です」と代表取締役の山口成美さんは話す。

温かみのある手書きポップと写真が消費者の目を引く
温かみのある手書きポップと写真が消費者の目を引く
 新鮮組でまず目につくのは、農産物や加工品一つ一つに付けられたポップだ。スタッフ手書きのポップで、温かみがあり、どんな品種のものなのか、どんな食べ方が美味しいのか、誰が作っているのかなどが書かれており、ついつい手に取りたくなってしまう。
 「直売所のお客さんの7割は女性。直売所の売り場作り、商品作りは、女性の視点や〝お客さん〟だったら、という視点が重要ですよね」と山口さん。
 今あるものをそのまま販売していているだけでは、お客さん目線とは言えない。

シュシュの加工品にオリジナルラベルをつけて、オリジナルギフトを作ることができる。お祝返しや誕生日プレゼントとして人気
シュシュの加工品にオリジナルラベルをつけて、オリジナルギフトを作ることができる。お祝返しや誕生日プレゼントとして人気

例えば贈答用の農産物は、今でも一箱単位で販売しているところが多い。しかし、家族構成が変わっており、多くの人が核家族だ。みかん一箱やナシ一箱もらっても、食べきれない。 
 それならば、長崎和牛に大村産の梨で作ったタレのセットや地元の米や野菜が入ったカレー食材セットなど、〝ここらしさ〟を工夫すれば、「必ずその土地にあった商品は作れる」という。それが、地域のブランドを超えて、県としてのブランドになっていく。


農家が何度も持ってくる直売所


 全国の直売所では、出荷が1日に一回だけという生産者が8割を超えている。新鮮組では、多い人は一日に4回〜8回も出荷に訪れる。
 出荷回数を増やすために売上げのメール配信を導入している直売所は多い。しかし、「それが出荷に繋がっていなければ意味がありませんよね」と山口さんは話す。往復1時間もかかるようでは、何度も出荷するのは難しい。シュシュの生産者が直売所に何度も出荷しているのは、距離的な近さが大きく関係している。
 
「『ものがない』、と言う人が多いですが、周りを見渡すと直売所の周りにも空いている農地はたくさんあります。そこに何かを植える事が重要です。直売所の近くであれば、そこで作業をして、そのまま出荷することが出来ます。シュシュの生産者が何度も出荷してくれる最大の理由はそこにあると思っています」と山口さんは語る。
 生産者の顔が見える直売所とよく聞くが、生産者は朝出荷してそれで終わりという直売所は多い。それでは、生産者と消費者の接点があまりない。「写真を貼ってあります!というところもありますが、ほとんど創業時のもの。10年前の髪がフサフサの写真ばかりですよね。そうじゃなくて、生産者が実際に何度も足を運ぶことで、本当の意味での顔が見える直売所になっていきます」と話す。

安売りしない工夫を考える


 農産物は、旬の時期が一番困る。豊作貧乏という言葉があるように、豊作のときは、値段が下がり、なかなか売り切れない。
 「ピーマンの時期ならピーマンばかり、出てくる。そうなると、安売り競争になってしまいます。それは避けなければいけません」。いつもなら3個100円で売っていたものを、余ってくると6個で100円という値付けになる。ひどいときになると10個で100円というものも出てくる。「ピーマンを毎日は食べないですよね。3日後、1週間後に鮮度の落ちたピーマンを食べる事になります。味も落ちてしまう。そうすると次もピーマンを買おうと思ってもらえませんよね」。
 安売りしない工夫を考えるのが直売所の役割という。
 シュシュでは、アイス工房やパン工房、レストラン、加工所と連携し、「農産物をいかに美味しく食べてもらうか」を考えている。
 レストランで味わって食べてもらう事で、農産物の美味しさを感じてもらう事ができれば、帰りがけに買っていってくれる。バイキングが調理例を示しているので、料理にも迷わない。

地元の食材をふんだんに使ったパン。人参を使った人参パンや芋パン、地元米粉を使った米粉パンなどが人気
地元の食材をふんだんに使ったパン。人参を使った人参パンや芋パン、地元米粉を使った米粉パンなどが人気
 パン工房やアイス工房、洋菓子工房でも、同様に地元の旬の食材をふんだんに使っている。
 「地元の農産物をいかに、使うかという視点が重要です」と山口さん。そのまま販売するのが難しい農産物や豊作のときのものはしっかりと加工することで、安定した価格で取引することが出来る。それが、農家のためになる。

有機的な連携の中で、農産物を販売する


 シュシュは、自社の加工所で様々な加工品を作っている。ジュースだけでも15種類以上。ジャムやポン酢、ドレッシング、焼肉のタレ、などもある。「生産者の思いが込められた農産物を有効活用し、農産物の消費拡大に繋がるようにと考えています」。
 近年、「若い人は果物の皮を剥かない」、「核家族化が進み、年配の方も2人暮らしになり果物の消費量が落ちている」という言葉を耳にする。「それなら、皮を剥いて提供することを考えなくちゃいけませんよね。加工して食べ易くする。美味しい農産物をどう生かすかを考えたら、自然とアイデアは出てくると思います」と山口さん。 

生産者のこだわりトマトで作った加工品「雅なトマトシシリアンルージュソース」
生産者のこだわりトマトで作った加工品「雅なトマトシシリアンルージュソース」
 シュシュの加工品は、ラベルやパッケージなども作り込んでいる。美味しい物を作り、それを売っていくためには見た目も考えないといけない。「見た目がよければお土産や贈答にも使いたくなります。特に若い人は、そうした感覚が強い。だから若い人の意見を取り入れていくことも重要ですよ」という。

体験で農業の喜びを伝える


 食べる喜びだけでなく、作る喜びや収穫する喜びも伝えている。
 手作り体験教室では、自分で摘み取ってきたイチゴを使ったいちご大福作りやウィンナー作り、ハンバーガー作りなどその数は10種類以上。親子連れだけでなく、若い女性が友達同士で参加したり、と幅広い世代の人が楽しめるように工夫している。 

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 手作り体験教室を担当している樋口美和さんは、「手作りの楽しさと、大村の農産物の美味しさを伝えられるような体験教室にしようと心がけています」と語る。
 観光農園は、シュシュが窓口になり、地域の観光農園への斡旋を行なっている。ぶどう狩りや梨狩りをしたい人は、シュシュに行き、各農園に行くという仕組みだ。農村全体で体験したり、風景を見たりして楽しむことができる。
 「地域で連携したほうが、大きな力になるし特徴も出せる」と山口さんは話す。

 観光農園もお客さん目線の農園作りが行なわれている。例えば、ぶどう畑なら地面の段差を利用して、子どもでも簡単に収穫できるようになっている。いちご畑では回転式ベンチ栽培を取り入れて、子どもや車いすの方でもちょうど胸の高さで収穫できる仕組みを作っている。
 お客さんが何を求めているか、お客さんだったらどうしたいか、それを常に考えた店作りと、地域づくりをしている。お客さん目線の店作りが多くの人をリピーターに変えている。

団塊世代の農業塾、収穫の喜び、加工の喜び


 家庭菜園を楽しみたい人向けに始まったのが体験農園「農業塾」。施設の近くの畑や田んぼを使って、ソバの種まきや収穫、サツマイモを植えての収穫などができる。
 参加者は50代〜70代。以前から作物を栽培してみたいと思っていたがなかなかきっかけがなく、この農業塾に入って庭で野菜の栽培を始めたという人たちも多い。
 また、近くの酒蔵と提携しサツマイモを使った芋焼酎も誕生した。「団塊の華」と「よっこいしょどっこらしょ」と名付けられ、シュシュでも販売している。
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 「収穫したときの感動や自分たちで作った芋で作った焼酎を飲む喜びは格別です。こうした農業の楽しさや面白さを伝えていくことが重要ですよね」と山口さんは笑う。

年中楽しめる地域へ


 おおむら夢ファームシュシュがある大村市北部福重地区は40年ほど前から梨やぶどうの産地として8月と9月の2カ月間だけフルーツ狩りの観光客でにぎわっていた。
 しかし、残りの季節は特に売りがない、という状態が続いていた。10月にお客さんが来ると、「1カ月早ければ、ぶどう狩りが出来たんですが…」と言う他なかった。
 一年を通して、大村に来る人が楽しめることは出来ないか、と考えた。一年中観光農園を出来れば良いが、1年、2年で出来る程簡単なことではない。
そこで、まずは農家が直接販売できる直売所「新鮮組」を平成8年8月に立ち上げた。ビニールハウスの直売所からのスタートだった。直売所が殆どなかった当時、新鮮でおいしい農産物が買えるということがたちまち噂になり、好評を得た。
 これがきっかけとなり、農産加工品施設「手作りジェラートシュシュ」が平成9年に、そして農業体験やレストラン、加工品の販売が一緒になった農業拠点施設「おおむら夢ファームシュシュ」が平成12年にオープンした。
 「これからの農業を担う世代に希望を与える場所にしたい、と考えていました」と山口さんは当時を振り返る。そのためには、農業を儲かる産業に変える必要がある。単に農産物を生産するだけじゃなく、付加価値を高める努力と知恵が必要だ。
 体験教室やアイス工房、収穫体験もそうした農業の付加価値化だ。
 野菜だけでなく、米や果物、お肉など何でもあった。それは逆に〝これ〟、といった強みがないということを意味した。しかし、「特にこれといったものがない、というのが今の強みになっているんです。弱みを強みに変える事は必ず出来るはずです」と山口さんは全国の直売所にエールを送る。

農業を夢のある産業に


 「直売所の目的は観光客数を増やすことではありません。農業を儲かる産業にかえることが重要です。儲けのために農家が犠牲になるようでは意味がありません。そして、それが大村市や長崎県、さらには日本の農家にとって、プラスになるような経営でなければ意味がないと思っています」と語る。
 軸足は、あくまで第一次産業としての農業にある。しかし、農業を活性化させるには、他の業界も巻き込んでいくことも必要がある。製造や加工といった二次産業にサービスの三次産業。それらを掛け合わせた六次産業化を進めることが重要だ。
 「農業関係者に聞けば、農業では食べられない、と言います。しかし、林業は後継者不足、水産業は燃料の高騰で漁にも出られない、畜産業もエサの高騰で大変。どの業種も自分たちが一番苦しいと思っています。だったら、皆で手を取り合っていくことが重要です。鍋も野菜だけ、お肉だけでは美味しくない、色んな物が入っているから美味しいんですよ」。
  「出来ない理由で言い訳をせずに自分たちにできることを考えるのが重要です。歳のせいにしたって、歳はとっていくだけですから」と山口さんは熱い気持ちを語ってくれた。

おおむら夢ファームシュシュ 山口成美代表取締役代表 1960 年、長崎県大村市生まれ。大村市農協で営農指導員などを務めた後、1996年8月、シュシュの前身となる農産物直売所を開始、2000年4月、農業拠点施設「おおむら夢ファーム シュシュ」オープン。03年、有限会社「シュシュ」に社名変更、代表取締役に就任。
おおむら夢ファームシュシュ 山口成美代表取締役代表 1960 年、長崎県大村市生まれ。大村市農協で営農指導員などを務めた後、1996年8月、シュシュの前身となる農産物直売所を開始、2000年4月、農業拠点施設「おおむら夢ファーム シュシュ」オープン。03年、有限会社「シュシュ」に社名変更、代表取締役に就任。

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