特集 せいわの里 田舎のおもてなし

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 三重県多気郡多気町(旧勢和村)の田んぼのど真ん中に農家レストラン、直売所、手造り加工所、体験施設の複合施設「せいわの里まめや」がある。
 地元の旬の野菜と豆をふんだんに使った農村料理バイキングは人気が高く、県内外を問わず遠方からも多くの人が訪れている。

 多気町は、松阪市と伊勢市に囲まれた中山間地域だ。まわりに大きな観光地があるわけではなく、多くの人はこの「まめや」を目的に訪れている。
 加工所は、豆腐加工、味噌加工、漬け物加工、菓子加工の4つの部門があり、それぞれ作った物は「まめや」の料理や直売所、近隣のスーパー、地域の学校給食など幅広く使われており、地元の農産物や大豆の情報発信の場を担っている。


田舎料理でおもてなし 農村料理バイキング



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 せいわの里まめやの農村料理バイキングで使われている食材は、殆どが地元産だ。
 「調味料以外の99%は地域のものを使っています」と有限会社せいわの里代表の北川静子さんは話す。
 バイキングに並ぶのは、派手さはない、昔ながらの農村料理ばかりだ。おからサラダや筑前煮、自家製の豆腐、自前のお味噌で作ったみそ汁、デザートには、おからドーナツやぜんざいが並んでいる。
 地元のものにこだわった農村料理を食べに、遠方からたくさんの人が訪れ、開店前から行列を作っているのだ。
 「私たちは、シェフとは違いますから、農村料理しか作れません。それでも、地元の材料を使って、丁寧に作った物は、美味しいんだと気付きました」と北川さんは笑う。

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 まめやの料理の殆どが地元産で賄えるわけは、メニューに野菜を合わせるのではなく、野菜に合わせてメニューを作っているからだという。
 前日や当日の朝に農家が持ってきたものでメニューを決める。メニューも野菜がなくなったら即座に切り替えているのだ。人参がなくなったから、あの料理が出来ない、ではない。
 「人参がなくなったよ」という声が聞こえたら、「じゃあ、さっき○○さんが持ってきてくれた新ショウガがあるから、それを甘酢漬けにしよう」という具合だ。
 「いかに地元のものを使うか」という視点が重要だ。

 

大豆への強いこだわり



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 加工所で使う大豆や野菜ももちろん全て地元産だ。
 大豆は、フクユタカという地大豆を使用している。地域の営農組合と協力して、毎年安定した量を作ってもらっており、生産から流通、消費までを網羅した地産地消の形が出来上がっている。
 このフクユタカを使い、丁寧に作り上げる豆腐はまめやの人気商品だ。
 豆腐を大量生産する場合、ボイラーで100度近い蒸気をかけ、5分程で加熱するのが一般的なやり方だ。

 これに対して、まめやでは、煮釜で50分程度じっくりと煮込みながら大豆の旨味を引き出すという昔ながらの製法にこだわり続けている。一釜で50丁しか作れないため、毎日4回この作業を繰り返す。
 「こうすることで、大豆のコクを引き出す事が出来るんですよ。時間も生産量も非効率やけど、農村の技術を守っていくためにもこの作り方を続けていきたい」と力強く話す。

 豆へのこだわりはこれだけではない。土作りにも大豆を活用しているのだ。
 豆腐づくりの過程でできるおからを有効活用し、「おから堆肥」を製造し、生産者や地元農家に使用してもらっている。安心・安全な「豆が育てる野菜」として売り出している。あくまでも村の食文化の象徴である大豆にこだわり続けている。


農村文化の継承、自慢の味発信の場へ



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 まめやを開設するきっかけとなったのは、「このままでは村の伝統や知恵などがなくなってしまうという危機感」だったと北川さんは振り返る。
 北川さんが旧勢和村役場に勤務していた頃、地元JAに食味計が導入された。面白半分で、地元のコメを調べると、魚沼産の最高級のコメを上回る数値がでた。

 「普段何気なく食べていたお米がそんなに美味しい物だったのか、と驚きました」という。そして、こんなにおいしいお米があるなら、味噌と漬け物を作って、農村の三種の神器として特産品にしようと考えた。味噌と漬け物を作るボランティアグループを結成し、活動をスタートさせた。味を知ってもらおうと町のイベントなどに出店し、PRを続けていた。しかし、「美味しいわね、普段はどこで売っているの」と聞かれても、答えられないという日々を過ごしていた。こんなにも美味しい物があるのに、それを広める事が出来ないという葛藤を抱えて、10年程が過ぎた。

 メンバーに広がりはなく、みんな10年歳を重ね、若手は入ってきていなかった。
 「村の伝統料理や農産物を活かした加工技術といった昔から引き継がれてきた技と知恵は、お年寄りによってかろうじて保たれている状況だった」。このまま10年、20年経ってしまったら地域の大事なものが失われてしまう。しかし「今なら間に合う」と北川さんは考えたのだ。
 自分たちが作った物を食べてもらえる場所を作ろう。そして農村文化を伝承、後継者の育成、地域の活性化を目標に拠点づくりが始まった。


苦手が自分たちの壁に



 拠点づくりのために、住民に一口5万円で出資を募った。出資者35名、1050万円が集まった。
 「みんなが捻出してくれた大事なお金。決してムダには出来ない、と決意を強くしましたね」と話す。  それだけでは足りないため、JAに借り入れと県へ補助金の申請を行なった。しかし、最大の壁はここにあったのだ。何度書類を書いても、書き直しを求められた。
 「自分たちは、普通のおばちゃんやおじちゃんの集まり。事業計画書なんて作った事がないので、本当に苦労しましたね」と語る。
 提出しては突き返される、の繰り返し。それでもめげずに皆で話合いを重ねた。朝が明けたり、眠らずに仕事に行く事も何度かあったという。

 無理かもしれないというムードが広がる中、藁をも掴むおもいで、三重県産業支援センターに相談に向かった。そこで、商工会連合会を紹介してもらい、なんとか書類を書き上げた。
 結局、補助金が決まるまで2年間という時間がかかった。しかし、北川さんは「今になっては、それがよかった。必要な時間だった」と前向きに話す。苦手な部分ととことん向き合う事が出来たからこそ、今の「まめや」があるのだ。
 補助金の申請額は、合計1250万円。しかし、交付金は、1000万円に減額され、運転資金ゼロという状態からのスタートを余儀なくされた。 


建物は出来たが運営資金がなく



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 建物は建ったが備品などを買うお金がない。
 北川さん達が考え出したのは、自分たちの家に眠っている道具をかき集めてくることだった。
 食器からまな板、包丁等さまざまなものが集まった。「だから、まめやの食器はバラバラなんよ」と北川さんは笑う。

 おばあさん達は、昔お嫁に来たときに持ってきた着物をほどいて座布団を作ってくれた。
 おじいさん達は、竹でメニューたてやカゴを作った。店の顔になる看板ももちろん手作りだ。
 豆腐を作る機械もなく、困っていると、地元のお豆腐屋さんが、松阪市で廃業する豆腐屋を紹介してくれた。50年程使い込まれた年季の入った機械。

 油揚げを作るフライヤーは、50年分の油で真っ黒だった。この汚れを北川さんと有志で丁寧にこそぎとった。2月の寒い時期だった。北川さんはこの頃、まだ役場に務めており、平日の夜と休日に作業を行なった。4週間程掛かって、フライヤーを奇麗にした。「全体がステンレスの銀色になったときは嬉しかったよ」と語る。

 知恵と人の繋がりで、この危機を乗り越え、2005年4月17日にオープンした。
 1人の人間には2本の手と2本の足しかない。時間も24時間と有限だ。それでも、多くの人が特技や長所を持ち寄ることで、何倍・何十倍の仕事が出来るということが、北川さんの心に強く残っているという。


地域の価値を再発見



 「見過ごして通り過ぎてている中にたくさんの価値がたくさんある。足下を掘り起こしていくことで〝ここらしさ〟が見つかる」と北川さんは語る。
 まめやでは、子ども達からツクシやフキノトウを100円/100gで買い取る、という取り組みを行なっている。
 「子ども達の真っ白な頭のなかにふるさとの風景を焼き付けてもらいたい」という思いから始めた。
 子ども達は、春になると学校帰りや、休みの日にツクシやフキノトウを摘む様になった。

 しかし、ルールがある。それはツクシの袴の部分を取ることだ。子ども達は、ツクシを摘むのは得意でも、袴を取るという持久作業が苦手だ。そこで、活躍するのが、持久作業が得意なおじいちゃんやおばあちゃんだ。孫のためなら、と奮起して袴を取ってくれる。そこで、祖父母と孫が一緒になって作業が出来る。おじいちゃん達は袴をとりながら、孫に昔の話をしたり、孫の話を聞いたりとコミュニケーションが生まれる。
 「祖父母と孫の会話の中で、農村文化の継承に繋がってくれると嬉しいね」と笑顔で話す。

 この取り組みを始めて、数年が経った頃、1人のおじいさんがまめやを訪れて、こう話した。「孫がおじいちゃんも袴を取るのを手伝ってくれたからあげるね、と言ってお小遣いをくれたんですよ。本当にありがとう」。わざわざお店にお礼を言いに来たのだ。
 今では、ツクシやフキノトウだけでなく、様々な野草を摘んでくる様になった。まさに、里山の価値を子ども達自身が再発見しているのだ。
 「おかげで、このツクシや野草が一番高い食材ですよ。それでも未来への投資ですね」と北川さんは笑う。


人が訪れると地域が変わる



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 町外や県外の人が多く訪れる様になると、地域に変化が訪れた。「ここは、ええとこやったんやなぁ」と考える人が増えてきた。
 まめやで提供しているのは、地元で普通に作られている家庭料理ばかりだ。「この料理が多くの人に喜ばれているということは、地元の家庭料理が肯定されたことになるんです」と北川さん。そのことは、作ったお母さん使われた農産物、育んだ田畑、料理法や保存といった知恵や技、すなわち地域の文化そのものが肯定されたことになる。
 北川さん達が農村文化の継承や農業振興を目指して行なってきた取り組みが、地域全体に広がっているのだ。

 地域にある資源の価値を認めてあげることが重要だ。
 大量生産や効率化の中で、いろんなものが省略されている。豆腐作りにしてもそうだ。
 ボイラを使って、蒸気でやれば5分で終わるものを、わざわざ煮釜で50分かけて豆のコクを引き出すという手間が、地域の知恵であり、資源ではないだろうか。
 地域に埋もれた資源を再発見し、スポットライトを当ててあげる事で輝くものはまだまだたくさんありそうだ。

せいわの里 まめや
住所:〒519-2211
三重県多気郡多気町丹生5643番地
TEL/FAX:0598-49-4300
営業時間:午前9時~午後5時
定休日:木曜日
農村料理バイキング(11:00〜14:00) 
大人(中学生以上)1,200円
子ども(4歳以上~小学生)600円
14:00〜16:00は、定食になります。
HP:http://www.ma.mctv.ne.jp/~mameya/

(平成25.12.11 産直コペルvol.3より)

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