(平成26.2.10)
6次産業の本来の姿
6次産業化は「生産者自らが生産・加工・販売・交流などを進め、新たな雇用や収益を生み出し、農林水産業の再生産につなげていく」活動だ。
3次産業者が主導し、その事業者の利益のみを目的とする事業や、足りない原料を外部から仕入れて商品量を増やすような事業は、6次産業の本来の姿ではない。
「国府白菜」と「国分人参」に着目
群馬県高崎市の真塩光枝さんが本格的に農業を始めたのは40歳を過ぎてからだと言う。旧群馬町の地元は「国府白菜」と「国分人参」の産地だ。だが、収益と収穫の手間も見合わず、作り手の減少が進んでいた。
「国府白菜」は柔らかくて甘く、市場でほかの白菜より2割程高い値がつくらしい。なぜか違う土地で作っても美味しくならないそうだ。
「国分人参」は60センチメートルもある長い人参で、大正期にフランスから当地に種が持ち込まれと言われている。甘く、香り高く、歯ごたえがある。その人参を作る農家が一軒になった時、真塩さんは自ら後継者に名乗り出た。
二大野菜を売りにした「国府野菜本舗」
「国府白菜」と「国分人参」を二大主役に、これらの加工品(漬物・惣菜・弁当等)や旬の野菜の直売所として平成15年に「国府野菜本舗」(売場約60平方メートル)を開設した。その3年前に真塩さんが「韓国に行ってキムチの勉強をしよう」と声を掛けて集まった加工研究会の女性達が核となっている。
平成16年には組織を農事組合法人化し、スタッフも正規雇用した。「加工の原材料費を農家に払い、人件費を払うと何も残らない」と言うが、真塩さん達の活動は確実に地域内に成果を生み出している。
料理を伝え、野菜の購入につなげる
店は住宅地内にあるため、遠方の客ではなく、地元の高齢者や主婦達が日常の買い物で立ち寄る。販売する商品のレシピも公開している所が特色だ。
同じ味を学びたいと、冬場のキムチ漬けや白菜漬け講習会は人気で、出張講座に呼ばれることも多い。
「漬物や料理を学んで、若い人も大きな白菜をもっと買ってくれるようになれば」という願いが込められている。農業生産だけでなく、野菜の美味しい食べ方を広げていく活動も、自分達に課せられた使命だとしている。
生産したものは無駄なく商品化
現在は、定年退職をした男性達に「国分人参」作って貰っているという。
「国府白菜」も最盛期の2割程の面積になったため、自分達が使う白菜は自ら作ろうとしている。
生産物は無駄なく商品化する。惣菜や弁当、白菜漬けやキムチ漬けは定番の人気商品だ。人参はジュース、ピクルス、ドレッシングに加工し、通年で旬の美味しさを味わえる。
25年度中には新たに加工場を作り、今後ジェラートなどの製造販売にも着手する計画だ。さらに、同じような産地の受託加工にも挑戦したいと真塩さんは先を見ている。
文学館に農家レストランを開設
「国府野菜本舗」本店では本格的な飲食提供をしていないが、平成22年に県立文学館に「農家れすとらん・菜花」をオープンした。本店で下ごしらえした惣菜を毎日車で運び、昼のランチを中心に旬野菜の食事を提供して人気だ。普段直売所に訪れるお客様とは異なる客層の意見は、メニュー開発などにおいて参考になると言う。
商工会も食のまちおこしに乗り出す
「国府野菜本舗」では、地域の方々を招く試食会も行う。地域の人が自分達の商品を食べ、理解して貰えば、行事での弁当や会合のオードブルとして注文してくれるようになると言う。
今では地元の高崎市群馬商工会も二大野菜を活用した食のまちお
こしに取り組む。これらを食べられる飲食店を紹介し、1月から2月の「国分人参」の旬には商工会加盟の7つの飲食店が人参をふんだんに取り入れた「野の彩弁当」を企画し、商工会でレシピを載せたチラシを作り宣伝している。
産地の身の丈にあった6次産業化
決して生産量や商品数、売上額は多くはないが、生産・加工・販売・飲食から食育まで自分達の目が届く範囲で一貫して手掛け、地道な努力で生産拡大やブランド化を進めてきた。飲食店等も巻き込み、地域全体に影響を与えている活動は6次産業化のお手本とも言える。