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信州南箕輪村「ちょこっと農業塾」を終えて

 産直新聞社では、長野県南箕輪村からの委託を受け、2016年9月から2017年3月にかけて「ニューアグリチャレンジプロジェクト事業」(通称名「ちょこっと農業塾」主催:南箕輪村)の企画・運営を行った。東京、名古屋周辺の都市圏在住者を対象に、朝日新聞社東京本社・名古屋本社2つの会場において各5回の勉強会と2回の現地研修、および、個別に相談を受け付ける個別相談会の実施がその内容だ。
 当事業は、南箕輪村の課題である第1次産業従事者の増加を視野に入れ、農業を基軸とした移住定住促進が目的だ。現状で人口が増えているという村の特徴を活かした独自の地域振興を加速させることを目指した。
 取り組みの結果、東京で2人、名古屋で4人が、南箕輪村に移住もしくは2拠点居住の地を求めることを決めた、あるいは具体的検討に入ったという、大きな成果があがった。また、移住定住とまではいかなくとも、村内の農業体験プログラムへの参加を表明する人が、受講生の中から東京会場で16名、名古屋会場で10名も現れた。
 「ちょこっと農業塾」の実施内容を紹介しながら、その成果と意義について考えてみたい。

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南箕輪村の特徴とそれを踏まえた事業の目的



 事業の紹介の前に、まず、南箕輪村の特徴について説明しておく。同村は、平成27年国勢調査において、人口増加数、人口増加率ともに県内トップの村である。また、0歳~14歳までの年少人口が占める割合は16%、15歳~64歳までの生産年齢人口の割合は61・4%と、ともに県内で最も高く、逆に、65歳以上の老年人口の割合は、県内で最も低い22・5%、平均年齢は県内で最も若い43・3歳だ。このように、近年、長野県内の多くの市町村の人口が減少傾向に転じているなか、南箕輪村の人口増加は他にはない特徴的なことであるといえる。

 しかし、第1次産業の従事者は、近年減少傾向にあり、主な産業別就業者の年齢階級を見ると、農業、林業では、60歳以上が7割を占め、約4割が70歳以上と、極端な偏りがみられる。反面、産業者別就業者数では、製造業就業者が突出して多く、製造業が基幹産業となっていることが読み取れる(南箕輪村人口ビジョン 平成27年10月28日より)。

 繰り返しになるが、ちょこっと農業塾では、同村のこうした特徴を踏まえ、課題である第1次産業従事者の増加と、農業を基軸とした移住定住促進、そして、村の特徴を活かした地域振興の加速を目標とした。そのため本格的な就農だけでなく、兼業農家としての暮らしや2拠点居住、リタイア就農などの促進も視野に入れ、多様な地方での暮らしを想定して、各種の取り組みを行った。また、農業だけでなく、基幹産業である製造業の紹介も組み入れ、参加者の要望を把握しながら、南箕輪村の特徴を活かした地域振興のあり方を模索した。

 なお、農業塾への参加者を募るにあたり、広報・宣伝と参加者の取りまとめ、および会場提供は、全国紙である(株)朝日新聞社に委託した。この結果、定員30名のところ、予想を超えて東京会場で107名、名古屋会場で52名の申込みという大きな反響があった。また、全カリキュラムについて、伊那ケーブルテレビジョン(本社:伊那市)に委託し番組制作・映像制作を依頼し、広報用に使用すると共に、村内、近隣市町村向けに南箕輪村の取り組みを伝えることも目的とした。



村内の農家や大学教授を講師に迎え行った5回の勉強会



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 東京と名古屋会場で5回ずつ行った勉強会では、米作りから始まり、環境保全型農業、りんご栽培、マイナー作物の栽培、直売所出荷農家など、毎回異なるテーマのもと、村内の農家や、村内にある大学から教授を講師に迎えて農業塾を開催した。
 また、毎回講義後にはパネルディスカッションを行い、農業以外にも、村のこと、移住への不安材料など、様々な意見・質問を参加者から募り、それに回答することで、参加者の、農業・村への理解を深めてもらう時間とした。参加者らは、連続して参加することで互いに顔見知りになり、次第に打ち解けた様子で、講義は和気あいあいとしたムードの中進められた。



【2日間×2回】を村で過ごした現地研修



 東京・名古屋で行った座学とは別に、参加者を南箕輪村へ招いて行う「現地研修」を11月と1月・2月に行った。
 首都圏で開催する座学だけでなく、実際に村を訪れて、様々な「体験」をすることで、村での暮らしを身近に感じてもらう場とした。山に囲まれた村の環境の中、現地に暮らす人々に野沢菜作りや味噌作りなどを教えられ、参加者の満足度も非常に高い研修だった。
 また、2日間一緒に行動することで、参加者同士、あるいは役場職員との距離も近くなり、それまでよりも一歩踏み込んだコミュニケーションが可能となった。

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村人が講師を務めたことによる意義



 本事業では、座学の講師、各種の取り組みを紹介するプレゼンテーター、収穫体験・加工体験・伝統文化体験等のインストラクターなどの発掘と育成を進め、受け入れ団体の体制づくりにおいてもその道すじを切り拓くことができた。これは農と食を軸にした観光資源の発掘・強化としての意味も持っている。
 ちょこっと農業塾の座学の講師としては、村内農家、農業団体、上伊那農業高校生、信州大学の教授陣などに話してもらい、村の特性をよく伝えることができた。特に、農業者が、積極的に壇上に立ち、自らの農業について語ったことが参加者の心に響いたと思われる。

 また、現地研修の受け入れに当たっても、加工団体「南箕輪村輪の会」や「大芝高原味工房の会」、大芝荘を運営する「南箕輪村開発公社」、「まっくん野菜家」「大泉まんどの会」「田畑まんどの会」などの尽力があり、受け入れ側のプログラム整備や受け入れ体制の強化も併せて実現できたことも、大きな意義であった。
 村のもう一つの個性を示す製造業の分野からも、会社訪問を受け入れてくれた大明化学工業(株)や(株)日本ピスコ、また味噌に関する講義をしてくれたハナマルキ(株)など、地元企業の力を引き出すことができたことも、大きな意味を持っている。
 ただし、本事業は参加費用のほとんどを公費で賄っている。今後、このカリキュラムをもとに継続可能な事業化を進めるには、資金調達や事業主体の育成等、まだまだ、多くのハードルあることは言うまでもない。

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全体を振り返って

 

 冒頭でも述べたが、このような取り組みを通して、南箕輪村に移住もしくは二拠点居住の地を求めることを決めた(あるいは本格検討段階に入った)6人の存在、そして、村内の農業体験プログラムへの参加を表明する人が、受講生の中から計26名も現れたという点が本事業の最大の成果だと言える。これは、農業を基軸としながらも、本格的な「就農」だけではなく、兼業での農業や2拠点居住といった暮らし方を提示したことによってハードルが下がり、地方での暮らし方を、それぞれの状況に応じて具体化できたためだと考えられる。「ちょこっと農業塾」のコンセプトゆえに生み出すことのできた大きな成果だろう。

 振り返ると、東京・名古屋に、「食・農・移住」に関心がある層を定期的に集める場所を開設できたことが成功のカギを握っていたように思う。同じ志向を持つ人々がグループとして居ることが、お互いの刺激になり、一緒に何かしようという気持ちになりやすく、村の人も含めた人のつながりづくりに重要なポイントになった。一度欠席しても、続けて出られる場所があり、そこに行けば、前回何をしたかを教えてくれるという関わりの場を作ることが信頼感の醸成には不可欠なのである。

 今後、本事業で得た様々な意見や参加者層の分析をもとに、具体的なターゲットを絞った上で、農業体験のカリキュラムや観光プログラムを構築していくことも、有効であると考えられる。
 例えば、案を挙げると、
 (1)2拠点居住や移住定住を
  目的としたお試し移住も兼ねた
  農業体験事業
 (2)CSA(地域支援型農業)の
  要素を取り入れた
  都市との交流プログラム
 (3)本格的就農を目的とした
  農業研修を兼ねた農業体験事業
 (4)病院や企業、団体向けの
  観光プログラム事業の構築
 などである。
 今後、本事業を特徴づける「兼業農家」「2拠点居住」といったキーワードで、移住定住事業を進めるためには、本格的就農だけではない地方での暮らしに関わる、より具体的な情報を収集提示することが不可欠である。本事業で得た都市圏在住者とのつながりを活かしつつ、さらに参加者の意見や参加者層を分析することで、南箕輪村がターゲットとすべき対象を絞り込み、独自の振興策を練っていくことが有効となるだろう。


(産直コペルvol.23掲載「プロジェクトレポート」より)


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