全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

農福連携が拓く 農村集落の継続可能性

 山口県萩市大字下小川、島根県との県境にほど近いのどかな田園地帯に、社会福祉法人E・G・F(Easy Going Farm)の本拠がある。この福祉法人は、萩市を中心に益田市、阿武町の3市町に合計7つの事業所やグループホームを展開する。全体で55人のスタッフに支えられて、58人の知的障害・精神障害の方が利用されている。

 2008年の開設・就労継続支援B型事業所「のんきな農場」のスタート以来、一貫して農業に取組んでおり、その質と規模が抜きんでていることが、最大の特徴である。近年は6次産業化や遊休農地対策にも積極的に関わるなど、新たな挑戦も進めている。
 高齢化する中山間地の農村集落で、福祉事業所は何が実現でき、双方はどういう関係性を構築することができるのか?施設長の渡邉宥照さんにお話を聞いた。

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高品質で事業性の高い農業・農業関連事業



まずは、 E・G・Fが取組む農業や農業関連事業の概要から見ることにしよう。
 同法人の農場は「のんきな農場」(=Easy Going Farm)と命名され、萩市江崎、萩市下小川、阿武町福田上の事業所に併設している。現在、イチゴハウスが6棟、イチゴの育苗ハウスも1棟。メロン等のハウスが18棟。ホウレン草など野菜のハウスが23棟。水稲が約1町歩、露地野菜が3町歩。クリ畑が2町歩…所有の農場もあれば、近く農家から土地を借り受けたもの、更には農家から委託を受けた受託作業も行っている。
 これらの農地で、障害を持つ利用者が、スタッフに支えられながら素晴らしい農産物を生み出しているのだ。
 代表的なものは「有機栽培イチゴ」。微生物や酵素を使った完全有機栽培で、収穫量は通常の3分の1だが、大きさや味はピカイチ。33グラム以上の厳選されたイチゴはギフトBOXに詰められて販売される。広島三越の店頭で、1箱12粒5000円で販売されたこともある。各サイズで値段も売り方も違い、毎年品不足になる人気商品だ。

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 次はメロン。品種はこの地域特産のアムスメロンとアールスメロン(赤肉系・青肉系)。一株を2本立てにし、一個どりを徹底。重みで枝が折れないように実を1個ずつヒモで吊るす「空中栽培」で育てている。糖度14度以上の玉のみギフトBOXで販売。アムスメロン2玉セット(2L)が2500円。アールメロン2玉(赤肉系・青肉系)セットが5000円。これもすぐ売り切れる人気商品だ。一度栽培に使用したハウスの土は、次の作付けまで6カ月休ませる。
 この他、近年、力を入れている桃太郎トマトや、有機栽培する山口県特産のクリ品種「岸根(がんね)」、有機栽培米(コシヒカリ・もち米)、ホウレン草、玉ネギ、トウモロコシ、サツマイモ、キャベツ、エゴマ…どれも、評判の出来栄えだそうだ。
 これだけの品目をそろえ、質と規模を誇る農業を進めているのがE・G・Fなのである。もちろん受託作業も、高齢化する地域の農家にはとても好評だという。



「のんきな加工所」も充実運営



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 生鮮の果実や野菜だけではない。どんなに丹精を込めて栽培しても、規格外品や傷物が出るのは必定。これを「ゼロ・エミッション(排出ゼロ)」の精神で、様々なものに加工して出荷・販売してもいる。
 江崎加工所では、主にイチゴやメロンを使った和菓子、洋菓子、ジャムなどを作る。「のんきな農場」で採れた果物をふんだんに使い、食品添加物や保存料などを極力使わずに作り、差別化を図っている。長年の技術の蓄積で、まさにプロ級の腕前の人もいる。
 小川加工所では、主に、農産物の一次原料加工と惣菜製造を行う。ここでは知的、精神の障害を持った方12人が働くが、季節ごとに違う農産物の扱い方を学んだり、事業所として培ってきた技術を継承したり、地域に昔から伝わる方法や知恵を受け継いで、これを弁当・惣菜づくりに活かしたりしている。こうして、利用者の生きる力を育てているという。




6次産業化の取組みと農福連携



 これまで見てきただけでも十分に目を見張るものだが、さらに驚くべきことに、 E・G・Fは、萩市に接する阿武町の事業所で、地域の農事組合法人「福の里」(132町歩の水田)や、阿武町と連携して、「6次産業化」事業に取組んでいるのだ。
 いうまでもなく「6次産業化」とは、一次産業、二次産業、三次産業を組み合わせて、農業生産から加工・販売までを一体化した新たな地域産業を生み出す取組みのこと。

 E・G・Fが阿武事業所で行う事業は「カット野菜の製造」。障害者総合支援法による就労継続B型支援事業として定員30人・支援スタッフ8人で行っている。
 野菜の収穫から1次洗浄、2次洗浄と選別、徹底した衛生管理下でのカット、3次洗浄、さらにボイルと最終洗浄、脱水して計量・真空パック、金属探知機で検査―と、緻密な行程を着実に進めている。販売先の柱は、山口県学校給食会と阿武町はじめ近隣自治体の学校給食だ。
 生産目標はカットホウレン草が10トン、小松菜5トン、チンゲン菜5トン(いずれも年間)。他に、山口県特産のはなっこりー(中国野菜のサイシンとブロッコリーの交配種)のカット・ボイル3トンを全農直販から、りんごジャムの原材料のカット蒸3トンを学校給食会から受託している。
 野菜の栽培からカット・ボイル、更に販売・学校給食での利用というビジネスモデルは、6次産業化の最先端ともいえるものだ。これに、この社会福祉法人は取組んでいるのである。

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 ところで、6次産業化は、国の法の下では、従来、農家(あるいはその団体)が推進母体となり、「総合化事業計画」という6次産業化の計画を立て、それが農林水産大臣に認定されて初めて実施できるものだ。ところがE・G・Fは、「農家」ではなく「社会福祉法人」。特に農地法の決まり事の中では、もともと「総合化事業計画」の認定事業者にはなりえないのだ。
 「そこが一番大変だったんだよ。利用者にとっても、あの地域にとっても、そしておそらくは社会全体にとっても、うちが6次産業化でカット工場に取組むのは大きなメリットがある。そこを国に分かってもらうには大変なやり取りがあったんだよ」
 E・G・Fの事業を取り仕切る施設長の渡邉宥照さんは柔和な顔で、しかしとても力強い口調で話してくれた。

 農業生産・特に圃場の作業、様々な行程が入り混じるカット工場での作業、(そしてかつては)規格外としてはねられた野菜を無駄なく使用して販売する工夫―これらを主体的に進めることで利用者は様々なことを実地で学び、社会の中で生きていく力を得ることができる。また、様々な技術と知識が事業所に蓄積し、作業効率と生産性の引き上げにつながり、収益性が高まる。このことは利用者の工賃の引き上げにつながる。
 一方、農家の高齢化が進み、労働力不足・遊休農地の拡大に直面している地域の農家・農業法人には、まさに一緒に働いてくれる助っ人が現れるのであり、地域農業を継続的に守り続ける展望が開ける。
 「6次産業化と農福連携が、このままでは荒廃するしかない農地を守る。そこに障害者が社会の中で生きていく新しい形ができるはずなんですよ」
 こうした渡邉さんらの確信と熱意に燃えた執拗な説得行動によって、2014年10月、 E・G・Fは、社会福祉法人としては初めて6次産業化総合化事業計画の認定事業者になったのだそうだ。




「この世に無駄な人間はいない=農業に無駄はない」



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 「福祉の在り方を変えなければけないと思うようになってから40年。野稲泰二事務局長らとともにE・G・Fを設立し、障害者とともに農業に取組むようになって9年が経て、やっと少し形ができたかなとも思う。でも、まだまだ、全然、とも思うよね」
 目指すものは福祉事業の補助金依存からの脱却。「『働かざるもの食うべからず』という言葉があるけれど、障害者だって同じ。できないことを出来るように、ではなく、今できることを精一杯頑張って働こうということなんです。誰でも、どんな障害があっても、無駄な人は一人もいない。草を一本取るのも、石を一つ動かすのも貴重な労働だし、それで社会の役に立つことができる。仕事をさせられていると感じるのではなく、自らしているという自律的感覚で仕事を出来るようにすることが大切で、それには農業が一番向いていると思うんですよ」。渡邉さんの話は、人を吸い寄せるように魅了する。

 障害を持つ方が支援スタッフとともに取組む農業を少しでも高く評価されるように、栽培方法にこだわり、品質にこだわり、一円でも高く売れるようにスタイリッシュに仕立て上げて販売する。規格外のものも「ゼロ・エミッション」で高品質の加工品に形を変えて世に送り出す。このすべてのプロセスで、障害者と支援スタッフが正面から向き合い、知恵と技術を身に着け、自ら働く方法を体得していく。これが「福祉の本来の在り方」だというのだ。

 そしてこうした考えは、農家の高齢化が進み、中山間地の農業集落で労働力が減少し、集落そのものが消滅の危機を迎えている中で「6次産業化・農福連携こそがこの危機を打開できる。それを証明して見せることが障害者と、彼らとともに生きる地域の人々を勇気付ける」という考えへと発展し、現にその形を表しつつあるのである。
 福祉とは何か?農業とは何か?人が生きるとはどういうことなのか?―そんな原点を考えさせられたE・G・F訪問だった。

(産直コペルvol.24掲載「特集 農福連携」より)



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