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安曇野に生きた先人たちの思い受け継ぐ〝浅川さんちの米づくり”

北アルプスに抱かれた長野県安曇野市堀金地区で、米を主体に、小麦、メロン、イチゴなどを栽培する株式会社あづみのうか浅川。その代表取締役が、浅川拓郎さん(36)だ。浅川家の先祖をたどると、約400年前の江戸時代にまで遡ることができるという。浅川さんで14代目だ。
 代々続く農家の家であるということはもちろん、時代時代の農業政策の変遷にも大きな影響を受けてきたことだろう。今回、特集に合わせ「農家を訪ねて」でも、代々の米農家の家に生まれた浅川さんに、自身が実践している農業について話を聞いた。

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安曇野の田を守り伝える



 浅川拓郎さんが家業の農業を継いだのは、2006年。大学を卒業して、2年ほどいくつかの先進的な農業法人などで研修したあと、地元安曇野の地で就農した。
 「過去の人たちの思いは決して忘れちゃいけないと、農業をやっていて強く思います」
 土地を拓き、水を引き、守り伝えられてきた安曇野の美しい風景と土地への誇りが、浅川さんの農業の原点でもある。だからこそ、人と自然が共存する持続可能な農業を目指し、米ぬかなど有機質肥料を使った特別栽培や、一部無農薬での栽培にも取り組んでいる。
 「農業は持続可能なものでないといけないと思っています。昔はこの地域にもホタルが飛んでいたんですけど、今ではあまり見なくなってしまいました。この地域にいるホタルはヘイケボタルっていって、人がいるからできる里山のような環境で育つんです。そんな環境を取り戻していけたらと思っています」
 安曇野には先人達から受け継いできた農業遺産が数多く残る。特に、安曇野の稲作を語る時に欠かすことのできない存在が「堰(せぎ)」だ。代表的なのが「拾ヶ堰(じっかせぎ)」で、扇状地で農業用水に恵まれなかった安曇野の地で稲作を行うため、江戸時代に引かれた市内で最も大規模な農業用水路だ。約15キロメートルの長さがあり、現在でも安曇野地域の稲作の要となっている。かつて、この工事にはのべ6万人以上が動員され、たった3カ月の短期間で完成させたという。念願だった米作りにこの土地の人々がどれほどの思いを込めたのか、想像に難くない。

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自然との共生と安定経営の両立



 環境への配慮だけではない。持続可能な農業経営を行うため、浅川さんはさまざまな取り組みにチャレンジしている。
 もともと浅川さんの父親は農協出荷を中心としてきたそうだ。しかし浅川さんが就農してからは、農協出荷だけでなく、近隣の農産物直売所、百貨店、インターネットなど販売チャネルを大幅に増やしてきた。また、「浅川さんちのお米」という共通イメージのブランドロゴを作り、若い感性でのブランド化を進めた。
 「消費者が安心して食べられるものを作っていこう」と、コシヒカリだけでなく、長野県が開発した米の新品種「風さやか」や、「ひとごこち」「もちひかり」などさまざまな品種の栽培にも取り組んでいる。
 6次産業化も米の消費拡大を目指して取り組んだもののひとつ。「浅川さんちのお米」を100%使った、おかきや玄米茶のほか、最近では、「玄米粉のパンケーキミックス」といった商品を開発した。子育て世代の女性社員からのアイデアを取り入れて作った製品だという。「女性のアイデア力はすごいと思います」と浅川さん。にんじんやほうれん草などの野菜の粉末を入れた、バリエーションに富んだものも作っている。野菜嫌いの子どもたちにも食べてもらいたいという。

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伝統を受け継いで


  
 「就農して最初の2、3年は父とけんかばかりしていましたね(笑)。口を利かない時期もありました」と浅川さんは就農当時のことを振り返る。
 小さな頃から父親の姿を見て育ち、農家になるのが夢だった。しかし就農当初はお互いのやり方の違いを巡って衝突することも多かったそうだ。それでも、代々続けてきた質の高い米を作る技術は父親から受け継いだ。例えば、苗は通常畝幅30センチメートル間隔で植え込むところを、少し長めに33センチメートルの間隔をとる。日当たりと風通しをよくすることで、稲の生長が促され、おいしいお米ができるのだそうだ。代々浅川家で続けてきたこだわりのひとつだという。
 就農2年目の2008年、「浅川さんちのお米」が米・食味分析鑑定コンクールで特別優秀賞を受賞した。実はこの年、春に父親が入院し、浅川さんが現場を任された年でもあったそうだ。父親から助言をもらいながら勉強した結果の受賞。2人の力で取った受賞だと思ったという。大きな自信にもつながった。さらに2011年からは5年連続でモンドセレクション金賞、 iTQi最高位三ツ星ダブル受賞にも輝いた。

変化に柔軟に対応することで生き残る



 浅川さんの父親は、現在77歳。苗をまだ手で植えていた時代から、食料増産の時代、減反政策の時代を経て、現在も現役で農業を続けている。農業そのものの変化と国の農業政策の変遷を直に体験してきた人だ。そして2018年、国は減反政策の転換を決めている。
 「父が『国の制度はころころ変わって大変だ』と言っていたこともありました。でも過去は過去で最善を尽くしてきたのだろうし、振り返っても仕方がないと思っています。でも補助金の存在が販売力の乏しい農家を作ってきた側面もあるのは確か。だから今度は、環境の変化に合わせて柔軟に変わっていける人しか生き残っていけない時代なのだと思っています」
 ただ浅川さん自身も「減反政策が変わることに対して危機感が全く無いわけではない」と言う。しかし「頼ってばかりではいられないし、前向きに考えています」と笑顔を見せた。現在、あづみのうか浅川が管理する農地面積は、米20ヘクタール、小麦8ヘクタール、メロン15アール、夏秋イチゴ15アール。小麦やメロンは、減反政策を受けて栽培を始めたものだ。メロンの栽培は、アールスメロンを主に始めてから既に40年あまりが経つ。小麦の一部は無農薬で栽培。業務用にも引き合いがあり、需要は少なくない。米と共に、既に同社の農業経営を支える品目に成長している。政策転換を受けたとしても、すぐに小麦を米に転換するようなことは考えていない。これも、国の農業政策の変化に対応しながら、売り先を開拓してきた結果だ。米に関しては、先述した通り、需要に合わせさまざまな品種を栽培し、6次産業化にもチャレンジしている。今後は需要を見極め、状況次第では増産も視野に入れていきたいという。
 「最終的な目的は減反にしても何にしても、『いかに農地を守るか』ということだと思う。これまで、小規模でも『農地を守る』ことを使命にして農業をしてきた人もたくさんいると思います。だからもし減反政策の転換でそれが難しくなるなら、農作業の受託とか、自分たちだからできるサポートをさせてもらえればと思っています」
 2015年には米の乾燥、もみすり、精米、貯蔵を行うライスセンターを完成させた。周辺農家の憩いの場、地域農業のサポート拠点としても機能していけるよう、建設したそうだ。今後の地域農業の成長にも貢献できるような事業の形を模索している。

農業版「カイゼン」を導入



 年々、栽培面積を増やし続け、事業も成長を続けているという同社。現在、役員のほか、正社員3名と季節パート13名を雇用している。社員が増える中、より良い労働環境の構築を目指した取り組みにも力を入れている。2018年にはJGAP認証(※1)を取得した。さらに、2017年からは、長野県が進めている農業版「カイゼン(※2)」普及のためのモデル農場としても活動している。年間スケジュールを立て、 スタッフ自らPDCAのサイクルをまわし、問題が起きれば改善をする。製造業では当たり前となっているノウハウを農業にも活かし、作業の見える化、情報の共有など、快適で明快な労働環境を作るために試行錯誤で取り組んでいる。
 「〝あづみのうか浅川〟という名前を付けたのも、安曇野を代表するような農家の1つになれればという思いからなんです。農家を目指す人にとって、さまざまなスタイルの中の1つのモデルになれたらいいですね」と、目標も語ってくれた。

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安曇野に残るエコなかまど
=「ぬかくど」復活プロジェクト


 
 もうひとつ、浅川さんが最近取り組んでいることがある。
 「『ぬかくど』ってご存知ですか? 米作りが盛んな安曇野とか、新潟県などで60年くらい前は盛んに使われていた道具なんですけど……」。そう言って見せてくれたのは、だるま型のストーブのような形をした古い小型のかまど。もみ殻を燃料にしてご飯を炊く道具で、かまどの中に決められた分量のもみ殻を入れ、火を付け、釜をその上に置き放っておくだけでご飯が炊き上がる。まさに循環型のエコなかまどだ。戦後、安曇野を初めとした稲作が盛んな農村に一大旋風を巻き起こしたそうだが、時代の変化の中で今ではすっかり姿を消してしまった。浅川さんは、この地域財産を活用するため、ぬかくどで炊いたご飯を食べるイベントを企画するなど、さまざまな活動を行っている。〝先人達の思いを忘れないでいたい〟という浅川さんの思いは、こうした活動にも表れている。
 連綿と受け継がれてきた田畑の周りには、農業が築いてきたその土地の文化や暮らし、美しい風景が必ずある。
〝食物如帰(くうものかえるがごとし)〟
 浅川さんが農業をする上で掲げているスローガンだ。安曇野で作った農産物を食べることで、自分の故郷に帰ったような、もしくは安曇野を自分の故郷だと思ってもらえるような、そんな安心感を味わってもらいたいという思いが込められている。「安曇野が大好きで。娘にも安曇野にちなんだ名前を付けちゃいました」。そう言って笑う浅川さんの姿からは、時代が変わっても、政策が変わっても、農地を守り伝えるために何ができるのか、そんな原点に立ち返る大切さを教えてもらった気がした。

(産直コペルvol.29 特集 米「農家を訪ねて」より)
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