全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―
変わる 地方市場の役割
流通形態の多様化が進む中、地方市場ではどのような動きがあるのか?
長野県の青果物卸の中心を担う、長野県連合青果株式会社(本社 同上田市)にお邪魔し、経営企画室唐木裕史室長にお話を伺った。
「これまで私たちは、地方市場として、スーパーさんに向けた市場取引を主としてやってきました。それは基本的に、その時期の産地の状況、気候などを考慮して価格を設定して行う取引です」と唐木さんは説明する。
しかし昨今、家族形態や働き方の変化によって中食や外食の割合が増加しており、スーパーを対象とした市場取引の取扱量が低下している状況だという。これにより同社でも、「コンビニやファミリーレストランなど、中食・外食企業との取引にも力を入れるように変わってきました」
しかしそうなると1つ問題がある。それは、中食や外食で提供される商品の値段は、産地の状況や気候に関わらず、年間通して一律で決まっている場合がほとんどだということだ。ファミリーレストランで提供される料理を思い浮かべてみてほしい。天候不順などで不作となり、野菜の値段が高騰しても、それを理由に料理の値段が変更されるというケースは少ない。
ならばどうするか。そこで同社が推進するようになったのは、「契約販売」という取引方法だ。
「まず1つめに、栽培前の契約の時点で価格を決めて取引する方法があります」。播種よりも前に、買い取りの値段を決めて取引する方法だ。週間契約、年間契約など、相手によって形態も様々だというが、考え方は同じで、豊作だろうと不作だろうと最初に決めた値段で取引するというやり方である。値段は、農家と販売先と、双方の話し合いで決める。
この取引方法では、天候等の要因によって、結果的に市場取引の相場よりも高値で買い取ることもあれば、安値になってしまうこともあるが、何よりも「安定性」というメリットがある。
それゆえ「特に若手農家の方は一部を契約販売し、それ以外を通常の取引で販売する『一部契約』という形を好みます。それだと、一部分は確実に収益を約束されているので、経営の見通しを立てやすくなります」と唐木さんは説明する。とりわけここ数年は天候不順が続くなど、不測の外部要因がある中で、安定した収益を見込めるというのは農家にとっても大きな魅力だろう。
「契約栽培」という取引方法について、「このやり方が、農家の農業経営の1つの軸になればいいなと思っています。農業は安定しない、というイメージもありますが、こうしたやり方をすることで、若手の就農にもつなげたい、というのが私たちの願いです」と力を込める。
契約栽培のメリットは安定性だけではない。通常の市場取引と違い、事前に売り先が決まっており、農産物がどのような形で販売されるかがわかるという点も大きな魅力だ。
「農家からしたら、自分の作ったものがどこのどんな商品になるかがわかるというのは、やりがいにもつながりますし、欠品しないようにと、安定生産する努力と勉強にもつながります。また販売先(中食・外食企業)にとっても、それがどこの農家で作られたものかという情報があるのは、提供時の付加価値にもつながり、そういった意味でも双方にメリットのあるやり方だと思います」
このほかにも、同社では、数量の契約、畑の契約(圃場の一定面積を契約して、販売先の都合にあわせて収穫等を行う)など多様な契約販売の形を作って、農家と取引先のマッチングを行っている。
「かつて、私たちのような卸売業者は、集めたものを競りで売る、という販売形態が主流でした。けれど今は、マーケットニーズを受けて〝営業〟する、という役割が必須になっています」。そう説明する唐木さんの言葉通り、同社では市場卸売事業以外にも、様々な事業を自発的に企画して展開している。
例えば、地元直売所と都市部スーパーをつなぐ提携販売。一昨年より始めたこの取り組みは、上田市内にある直売所「あさつゆ」で集めた農産物を輸送し、スーパーヤオコーの所沢北原店(埼玉県)に設けた産直コーナーの一角で販売するという事業だ。
「今、都市部の元気な60代の方などが上田市まで買い物に来て長野県産のものを買ってくれているけれど、それが5年後10年後になった時、継続できるかはわからないですよね。その人たちが、自分の足でここまで買いに来るのが難しくなった時、それが終わってしまうのはもったいない」と唐木さん。「それならば、こちらから都市部へ持って行けばいい。産地よりも都市部の方がどうしたって口数が多いですしね」と、同事業に込める思いを話してくれた。
連合青果でもともと受け持っていたヤオコーへの通常定期便に、同事業の農産物を乗せることで、輸送費を安く抑え、安定した輸送経路を確保。これにより、ヤオコー側は「産直コーナーで信州産商品を扱える」、あさつゆは「販路拡大ができる」、双方にメリットのある事業だ。
このほかにも、「昨年5月からは、長野県JA信州うえだと(株)エブリイと共に『チーム襷プロジェクト』をスタートしました」
これは、上田市の生産者が作った野菜を、 JA信州うえだから、連合青果へつなぎ、スーパーマーケット事業を中核とする株式会社エブリイ(本社 広島県福山市)へと届けるプロジェクトだ。
エブリイホーミイホールディングスでは、スーパー以外にも、外食部門や宅配など、「食に関する多様な販売チャネル」を持っている。そのため、スーパーでは販売できないものでも、同社が持つ外食部門で使用することができる。これを活かし、同プロジェクトにおいては、通常の選果基準よりも易しい、独自の選果基準を設けて、これまでロスになっていた規格外の農産物も含めて仕入れを行っているという。より多くの農産物の出荷が可能となり、その分生産者の収入アップにもつながるというわけだ。
さらに、「このプロジェクトによって『信州うえだ産』の野菜がブランドになることも、狙いの1つです」と唐木さん。エブリイが拠点を持つ広島県や岡山県ではこれまでほとんど流通していなかった上田産の農産物を大々的に売り出して、「信州うえだ」ブランドを作ることも意図した取り組みだ。
唐木さんによると、同プロジェクトに関わるメンバー間で、「トークノート」というSNSを利用しており、畑の状況や売り場の様子など、日頃から発信し合って、「チーム力」を高めているとのこと。携帯電話からトーク画面を見せていただくと、畑で作物を収穫した様子や、店頭の写真など、それぞれの立場から頻繁に発信しており、連携する意識の高さが伺えた。
「『チーム襷』という名前には、3者がそれぞれに、同じ夢を抱いて、同じ方向へと進む、という意味が込められています」と、唐木さんが微笑む。
また、種苗メーカーと協力した、こんな取り組みも。
「今、消費者ニーズが高いのは彩り野菜です。その中でも、特に赤い色のものは今後ますます需要が上がると思います。それを踏まえて、紫白菜やビーツなど、彩りに優れた野菜の作りこみに力を入れています」
今後、消費者ニーズが高まるであろう品種について、生産者の開拓と指導をトキタ種苗が担当し、連合青果では、出来た農産物の販路の開拓から流通までをカバーする連携体制をとっている。
出てきたものを市場でただ販売するだけでなく、市場ニーズの高いものの産地を探す、あるいは産地を作る〝商社〟のような役割を率先してこなす。
長野県連合青果では、地方市場ならではの、産地との距離の近さを生かして、筆者がこれまで「地方市場」に持っていたイメージよりもずっと幅広い様々な取り組みを行っていた。
「私たちの仕事は、川上にいる農家の思いや苦労を、川下(消費者)へお伝えすること」と唐木さん。「(農産物を)安く買いたいという販売先と、高く売りたいという農家の思いが合致することは基本的にはないので、確かな目を持って、両者の言い分を聞き分けながら、互いが良い関係性を築けるような〝調整役〟であることを日頃から目指しています」
地方市場だからこそできる、産地密着の取り組みで、農家と販売先をしっかりとつなぎながら、地域農業を守る役割を担っていた。
(産直コペルvol.25特集「農産物流通」より)
長野県の青果物卸の中心を担う、長野県連合青果株式会社(本社 同上田市)にお邪魔し、経営企画室唐木裕史室長にお話を伺った。
外食・中食が増える中で
「これまで私たちは、地方市場として、スーパーさんに向けた市場取引を主としてやってきました。それは基本的に、その時期の産地の状況、気候などを考慮して価格を設定して行う取引です」と唐木さんは説明する。
しかし昨今、家族形態や働き方の変化によって中食や外食の割合が増加しており、スーパーを対象とした市場取引の取扱量が低下している状況だという。これにより同社でも、「コンビニやファミリーレストランなど、中食・外食企業との取引にも力を入れるように変わってきました」
しかしそうなると1つ問題がある。それは、中食や外食で提供される商品の値段は、産地の状況や気候に関わらず、年間通して一律で決まっている場合がほとんどだということだ。ファミリーレストランで提供される料理を思い浮かべてみてほしい。天候不順などで不作となり、野菜の値段が高騰しても、それを理由に料理の値段が変更されるというケースは少ない。
ならばどうするか。そこで同社が推進するようになったのは、「契約販売」という取引方法だ。
契約販売
「まず1つめに、栽培前の契約の時点で価格を決めて取引する方法があります」。播種よりも前に、買い取りの値段を決めて取引する方法だ。週間契約、年間契約など、相手によって形態も様々だというが、考え方は同じで、豊作だろうと不作だろうと最初に決めた値段で取引するというやり方である。値段は、農家と販売先と、双方の話し合いで決める。
この取引方法では、天候等の要因によって、結果的に市場取引の相場よりも高値で買い取ることもあれば、安値になってしまうこともあるが、何よりも「安定性」というメリットがある。
それゆえ「特に若手農家の方は一部を契約販売し、それ以外を通常の取引で販売する『一部契約』という形を好みます。それだと、一部分は確実に収益を約束されているので、経営の見通しを立てやすくなります」と唐木さんは説明する。とりわけここ数年は天候不順が続くなど、不測の外部要因がある中で、安定した収益を見込めるというのは農家にとっても大きな魅力だろう。
「契約栽培」という取引方法について、「このやり方が、農家の農業経営の1つの軸になればいいなと思っています。農業は安定しない、というイメージもありますが、こうしたやり方をすることで、若手の就農にもつなげたい、というのが私たちの願いです」と力を込める。
契約栽培のメリットは安定性だけではない。通常の市場取引と違い、事前に売り先が決まっており、農産物がどのような形で販売されるかがわかるという点も大きな魅力だ。
「農家からしたら、自分の作ったものがどこのどんな商品になるかがわかるというのは、やりがいにもつながりますし、欠品しないようにと、安定生産する努力と勉強にもつながります。また販売先(中食・外食企業)にとっても、それがどこの農家で作られたものかという情報があるのは、提供時の付加価値にもつながり、そういった意味でも双方にメリットのあるやり方だと思います」
このほかにも、同社では、数量の契約、畑の契約(圃場の一定面積を契約して、販売先の都合にあわせて収穫等を行う)など多様な契約販売の形を作って、農家と取引先のマッチングを行っている。
「競り」で販売の時代から営業の時代へ
「かつて、私たちのような卸売業者は、集めたものを競りで売る、という販売形態が主流でした。けれど今は、マーケットニーズを受けて〝営業〟する、という役割が必須になっています」。そう説明する唐木さんの言葉通り、同社では市場卸売事業以外にも、様々な事業を自発的に企画して展開している。
例えば、地元直売所と都市部スーパーをつなぐ提携販売。一昨年より始めたこの取り組みは、上田市内にある直売所「あさつゆ」で集めた農産物を輸送し、スーパーヤオコーの所沢北原店(埼玉県)に設けた産直コーナーの一角で販売するという事業だ。
「今、都市部の元気な60代の方などが上田市まで買い物に来て長野県産のものを買ってくれているけれど、それが5年後10年後になった時、継続できるかはわからないですよね。その人たちが、自分の足でここまで買いに来るのが難しくなった時、それが終わってしまうのはもったいない」と唐木さん。「それならば、こちらから都市部へ持って行けばいい。産地よりも都市部の方がどうしたって口数が多いですしね」と、同事業に込める思いを話してくれた。
連合青果でもともと受け持っていたヤオコーへの通常定期便に、同事業の農産物を乗せることで、輸送費を安く抑え、安定した輸送経路を確保。これにより、ヤオコー側は「産直コーナーで信州産商品を扱える」、あさつゆは「販路拡大ができる」、双方にメリットのある事業だ。
チーム襷プロジェクト
このほかにも、「昨年5月からは、長野県JA信州うえだと(株)エブリイと共に『チーム襷プロジェクト』をスタートしました」
これは、上田市の生産者が作った野菜を、 JA信州うえだから、連合青果へつなぎ、スーパーマーケット事業を中核とする株式会社エブリイ(本社 広島県福山市)へと届けるプロジェクトだ。
エブリイホーミイホールディングスでは、スーパー以外にも、外食部門や宅配など、「食に関する多様な販売チャネル」を持っている。そのため、スーパーでは販売できないものでも、同社が持つ外食部門で使用することができる。これを活かし、同プロジェクトにおいては、通常の選果基準よりも易しい、独自の選果基準を設けて、これまでロスになっていた規格外の農産物も含めて仕入れを行っているという。より多くの農産物の出荷が可能となり、その分生産者の収入アップにもつながるというわけだ。
さらに、「このプロジェクトによって『信州うえだ産』の野菜がブランドになることも、狙いの1つです」と唐木さん。エブリイが拠点を持つ広島県や岡山県ではこれまでほとんど流通していなかった上田産の農産物を大々的に売り出して、「信州うえだ」ブランドを作ることも意図した取り組みだ。
唐木さんによると、同プロジェクトに関わるメンバー間で、「トークノート」というSNSを利用しており、畑の状況や売り場の様子など、日頃から発信し合って、「チーム力」を高めているとのこと。携帯電話からトーク画面を見せていただくと、畑で作物を収穫した様子や、店頭の写真など、それぞれの立場から頻繁に発信しており、連携する意識の高さが伺えた。
「『チーム襷』という名前には、3者がそれぞれに、同じ夢を抱いて、同じ方向へと進む、という意味が込められています」と、唐木さんが微笑む。
産地を〝作る〟ところから
また、種苗メーカーと協力した、こんな取り組みも。
「今、消費者ニーズが高いのは彩り野菜です。その中でも、特に赤い色のものは今後ますます需要が上がると思います。それを踏まえて、紫白菜やビーツなど、彩りに優れた野菜の作りこみに力を入れています」
今後、消費者ニーズが高まるであろう品種について、生産者の開拓と指導をトキタ種苗が担当し、連合青果では、出来た農産物の販路の開拓から流通までをカバーする連携体制をとっている。
出てきたものを市場でただ販売するだけでなく、市場ニーズの高いものの産地を探す、あるいは産地を作る〝商社〟のような役割を率先してこなす。
長野県連合青果では、地方市場ならではの、産地との距離の近さを生かして、筆者がこれまで「地方市場」に持っていたイメージよりもずっと幅広い様々な取り組みを行っていた。
調整役として
「私たちの仕事は、川上にいる農家の思いや苦労を、川下(消費者)へお伝えすること」と唐木さん。「(農産物を)安く買いたいという販売先と、高く売りたいという農家の思いが合致することは基本的にはないので、確かな目を持って、両者の言い分を聞き分けながら、互いが良い関係性を築けるような〝調整役〟であることを日頃から目指しています」
地方市場だからこそできる、産地密着の取り組みで、農家と販売先をしっかりとつなぎながら、地域農業を守る役割を担っていた。
(産直コペルvol.25特集「農産物流通」より)