全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

冬の楽しみは仲間とのイノシシ狩り

 農閑期とはいえ、冬場だって農家は暇ではない。とりわけ中山間地に住んでいれば、家でじっとはしていられない。脂ののったイノシシを捕まえ、狩りをした仲間と共に、豪快に味わうのが最高の楽しみだ。
 岐阜県南東部に位置する中津川市に住む酒井富造さん(71)は、春から秋には農業を営み、冬になると狩猟に精を出す。酒井さんのご自宅に到着し、案内され向かった先には、さかさまに釣られた大きなイノシシが1頭。3日前に仕留めたという獲物は、後ろ足にワイヤーがくくられ、フォークリフトで見事に釣り上げられている。推定3歳、80キログラム相当の雄イノシシだ。
 狩猟仲間の佐々木鉄夫さん、原恒雄さん、そして中津川市猟友会会長の中川征児さんも集まってのイノシシ解体ショーを拝見しながら、冬の醍醐味である狩猟について話をうかがった。

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中津川での狩猟



 酒井さんの所属する「中津川市猟友会」には232名の会員がいる(2018年1月時点)。最近は女性会員も加入した。その中でも20代の頃から狩猟経験を持つ酒井さんは、ベテラン猟師の一人だ。
 一年のうち、狩猟が始まるのは4月で、この時期には主に鳥獣害駆除を目的にイノシシ等を捕獲している。ただ、10月以降のいわゆるジビエシーズンは別格だ。脂ののったイノシシを獲ろうと、酒井さんをはじめハンターたちには一層の熱が入る。
 現在、中津川近辺ではくくり罠が主流となっている(ただし寒さが厳しくなると、地面が凍みて、仕掛けるワナが稼働しなくなるため、使うことができない)。銃のみで狩猟を行う人もいるが事故も多く、今はだいぶ減っているそうだ。
 イノシシ1匹でも田畑に入れば、動き回って大きな被害をもたらす。市内の農家には農地を電柵で囲う人も少なくないが、中には突進するツワモノのイノシシもいる。そのため、猟友会のメンバーには捕獲してほしいとの要請も多いという。



猟は協同で



 「ワナで獲るもんで、そのワナを毎日見に行かなきゃならん。10カ所くらい仕掛けてあるから、そこに獲物がかかるのを待っとるっちゅう」
 ワナにかかるのはイノシシやシカ。獲物がかかっていれば、皆で寄り集まって、と殺から解体までを行う。撃つのは頭部。身のほうを撃ってしまうと食べられなくなってしまうからだ。
 「銃を構えて、イノシシが後ろに下がるときが一番怖い。突進しようとしている合図だから」と、思い出しながらおっかなびっくり話してくれたのは原さん。時にはワイヤーが切れてしまうこともある。80キログラムに体当たりされたらひとたまりもない。
 銃で仕留めた後、内臓を取り出して、血抜きをし、川の水で冷却する。山でイノシシを移動させるのは大変な作業だ。仲間に応援を要請し、協同して行うことで素早い処理ができる。そのおかげで美味しいシシ肉を味わうことができるのだ。


イノシシの習性を利用して



 くくり罠の仕掛け方について聞いてみると、ワナは餌場に仕掛けるのかと思いきや、そうではないようだ。通り道の林に仕掛けるのだという。
 「イノシシは毎日同じところを通る。だからその足跡を見て、仕掛ける。人間はよ、白線が引いてないとまっすぐ歩けないけど、こいつらは何もなくても、決まった道をまっすぐ歩けるの。それだから、匂いが頼りになる。前の日に自分の歩いた匂いがあるもんでな」
 手際よく皮をはぎながらも、狩猟の話は止まらない。たくさんのイノシシを捕まえ、その度にさばいては腕を磨いてきたのだろう。
 「よく餌場にワナを仕掛ける奴がいるけど、それじゃイノシシはかからん。エサを探すときは鼻を使うから。(仕掛けに)鼻を近づけられたら人間の匂いがするから。ワナがばれて、逃げられちゃう」
 長年の経験から、仕掛けについて人一倍詳しい酒井さん。お話を聞いているうちに狩猟に興味が湧いてくる。お仲間の佐々木さんも酒井さんの影響を受けたうちのお一人のようだ。「俺なんかこのひと(酒井さん)の影響で、72歳になってからワナ(免許)を取得して。勉強中でさ」と、笑って話す。



栽培技術もピカイチ



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 酒井さんが営んでいる農業についても触れておく。
 現役時代は、農業専門の高校で教員として働きながら、農業にも従事してきたという酒井さん。現在およそ3町歩の田んぼで米を栽培している。生産するのは「龍の瞳」という品種。この米は一般的に地元で生産される品種のおよそ3倍の価格で販売されている。種(契約農家のみに提供)の管理、独自の栽培マニュアルと検査・認定を行った米だけが「龍の瞳」として販売されるのだ。酒井さんは龍の瞳の生産組合長も務めており、ご自宅には大型の乾燥調製機が設置されていた。
 昨年ははるばる北海道まで米の品評会「米|1グランプリ」に参戦し、見事に入賞を果たしたという。その技術には定評がある。
 「このひとに米作らせたら、まぁ天下一品の米作りよるわ」と、お仲間の佐々木さんも誇らしげだ。
 この他、ネギも栽培する。こちらは家の前に「ネギ直売」の看板を立てるとすぐに売り切れてしまう人気ぶりだそうだ。
 「兼業農家だから、何でもやってきた。だもんで、冬場はこんなん(猟)やって遊んどる」と酒井さん。

   

解体作業も手際が肝心



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 この日の気温は2度、朝に舞っていた雪はやんだものの、風は強く、ここ一番の寒さ、という日であった。しかし、気温が低いのは解体するには好都合。少しでも暖かいとハエが寄ってきて、卵を産み付けてしまうのだとか。
 今シーズンも週に1匹のペースで獲物を解体しているという酒井さん。最も多い時には年間に100匹のイノシシを解体したこともあったというからその腕は確かだ。
 「皮のすぐ下の脂が美味しい。香ばしくって。だからこうやって、一回一回刃を入れて」と、皮を剥ぐ作業を丁寧に進めていく。
 作業中も終始和やかではあるが、仲間には厳しい指導も飛ばす。
 「遅い遅い、口ばっかり動かしてちゃあ、終わらんぞ」
 真剣な中にも冗談や笑いが絶えない。2時間程度で皮を剥ぐ作業が終わった。続いて、部位ごとに切り分けていく。まずは前足、そして三枚肉、背ロース…
 「肉に血が付いたら、すぐに赤く染まってしまう。食べるひとも食べる気にならんでしょう。だもんでスーパーに売っとる豚肉と変わらんような肉にするようにって言ってる」
 ただ解体するだけではない、食べる人のことを思って、美味しく食べてもらえるようにと、一切手を抜かない。肉をさばいては、血を拭く作業を手早く繰り返していく。
 こうして苦労して解体した肉は仲間や欲しいという人に分ける。牙はキーホルダーにする人もいるのだとか。



良質な肉は鉄板で焼くに限る



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 解体作業がひと段落すると、シシ肉を振る舞ってくれた。
 獲ったばかりのシシ肉は固くて美味しくないとのことで、既に食べ頃になった肩ロースのスライスを焼いて頂くことになった。
 まずは内脂(うちあぶら)と呼ばれる内臓のまわりの脂肪を鉄板の上で溶かして、そこにネギをたっぷりと並べる。こちらのネギも酒井さんが育てたもの。シシの油で焼かれたネギから、たまらなくいい香りがしてくる。そこに肩ロース肉を惜しみなく敷き詰めてゆく。
 「味付けは?」と聞くと、「塩コショウで十分!いいから食べてみい」と酒井さん。
 それでは遠慮なく、と頬張る。嚙みごたえはあるものの、しっかり嚙み切れる。旨味はあるが味がくどいわけではない。そしてこんがりと焼け、シシの脂を吸ったネギは噛むと芯から甘さが飛び出し、なんとも旨い。
 シシ肉を食べているうちに、話も弾む。会長の中川さんはご親戚がイノシシ産地として有名だった県内郡上市に住み、狩猟で生計を立てていたというから筋金入りだ。
 「今から40年前このへんにイノシシはいなかったから、撃つのはキジとか山鳥がほとんどだった」と、当時を懐かしむ中川会長。当時からしたら、これほど身近にイノシシが出るようになるとは思ってもみなかったという。
 この日は日中に伺ったため外で鉄板を囲んだが、仲間うちのときは夕方から囲炉裏に集まり、日が変わるまで宴が続くそう。楽しい仲間との会話が何よりも旨い肴になるのは間違いない。



(産直コペルvol.28  特集「農家の冬」より)
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