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インタビュー 食品ロスの現状とこれから

愛知工業大学で食品ロスを研究する小林富雄教授(経済学部)に、日本における食品ロスの発生メカニズムや、その問題点について聞いた。

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小林教授(以下、「小」):まず定義についてですが、日本では「食品廃棄物」というと、食べられるもの(=可食部分)も食べられないもの(魚の骨やバナナの皮など)も全てひっくるめたものとされています。そしてその中の食べられる部分が「食品ロス」にあたります。

編集部(以下、「編」):食品ロスの発生量について教えてください。
 
小:食用仕向量8,294万トンの中で事業系の廃棄物が1,953万トンあり、その中で可食部分と考えられるものが、339万トンあります。一方、家庭系廃棄物は822万トンで、うち可食部分は282万トン。事業系と家庭系の両方を足した621万トンが、日本における年間食品ロス量になります。
 
編:この621万トンはどのような形で発生してしまうんでしょうか?

小:食品ロスの発生原理は大きく4つの種類に分けられます。1つ目が食べ残し、2つ目が過剰除去(食べられる部分まで過剰に取り除いて発生するロス)、3つ目が直接廃棄(単純に在庫管理で食べられるものを直接捨てること)、4つ目が流通減耗(流通段階で発生したトラブル等によるロス)です。
 この4つに対し、それぞれにいろんな対策が考えられるのですが、食品ロスを減らすためには、そもそも「食品仕向量」の多さをどうするかという話に、最終的には行き着くと考えられます。
 企業は大量製造、大量流通させる、消費者も広告に踊らされて安いものを大量に買う、そして余らせるというこの状況をどう考えるかが鍵になります。

編:食品を作るスタート段階に問題があるということですね。

小:はい。ただ、農業生産というのは、生産管理が難しい産業だと思います。工業製品のような計画立った流通システムを作るのが非常に難しいものですので、まず過剰に生産することがどうなのか、ということを慎重に議論する必要があると思っています。
 個人的には、露地栽培の農産物においては、ある程度余分に作っておかないと、様々な事情で食品が人々に供給されない、という事態になりかねないので、ある程度の過剰性はやむを得ないと思っています。

編:天候不順や害虫の発生、病気など、予防・予測が難しいですよね。

小:はい。それらの現場の事情を無視した「ゼロウェイスト(=廃棄物の発生をゼロにしようという意見)が叫ばれることも多いのですが、そういったものにはしっかり「現状を見て」と声を挙げていかなければと思っています。

編:ある程度のロスも、農業経営を考えるうえでは致し方ないということですね。

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小:はい。ただ、加工品を中心とする食料品の、量販店への大量出荷の問題。これには大きな無駄があると思っています。

編:量販店への出荷の状況について教えてください。

小:小売店側からの要望に応えるため、メーカー側は常に欠品が許されない状況にあります。欠品すると罰金や取引停止などのリスクがあるため、いつでも大量の在庫を抱えていなければなりません。これは明らかに過剰だと思います。出荷にも至らないような商品を無駄に生産することになってしまいますし、返品ロスも発生させてしまいます。

編:返品ロスについても詳しく教えてください。

小:食品流通において「3分の1ルール」というものがあり、これが要するに返品のルールになります。
 仮に、ある製品の製造から賞味期限まで6カ月間あるとします。その中で、製造から3分の1=2カ月が過ぎてしまうと、もうメーカー側は出荷ができなくなってしまうんです。なぜなら残存期間が短くなってしまうから。
 そして出荷できないとなった場合には廃棄されてしまうのが一般的です。ですので、作ってもそもそも出荷ができない、という段階がまずあります。

編:まだ賞味期限が過ぎるまで時間があるのに、店頭に並ぶこともなく廃棄されてしまうんですね。

小:そうです。そして次の段階として、商品を出荷できて店頭に並んだとしても、そこで製造から3分の2の期間が過ぎてしまうと、もうお店からは回収されてしまいます。これが「返品ロス」です。店側からすると、製造から3分の2の期間が過ぎたらもう置いておかないのが一般的で、メーカーや、中間流通業者に返品してしまうんです。返品後にメーカー側でその商品を販売できれば良いのですが、売れる場も少ないため、廃棄になってしまう割合は非常に高いです。

編:賞味期限がまだ3分の1も残っているのにも関わらず、捨てられてしまうんですね。

小:はい。消費者がそこまで商品に新鮮さを望んでいるのかといえば必ずしもそうではないと思うのですが、消費者と売り手の圧倒的なコミュニケーション不足も、食品ロス問題の原因の1つだと思います。
 また返品ロスに際し、メーカー側は、作ったものをそのまま廃棄するだけでなく、1度出荷して、そこからわざわざ持って帰って捨てるという、輸送や労力的にもかなり無駄なことをやっています。これは日本特有の現象で、海外などでは、店側が1度買い取って、在庫リスクをある程度持つ、というのが一般的です。

編:日本ではなぜそうならないんでしょうか?

小:日本では特に小売の立場が強いためです。小売が製造を圧迫していることがすごく問題です。
 さらに3分の1という期間も、他国に比べてかなり厳しい設定です。アメリカでは2分の1の期間まで出荷できますし、フランスは3分の2、イギリスでは4分の3ですので、日本では特に厳しい状態ということがわかるかと思います。

編:3分の2の期間が残っているのに捨ててしまうというのは異常なことのようにも感じます。

小:なぜこんなに捨ててしまうか、については消費者サイドから考えなければならないでしょう。日本では店舗過剰ということもあり、店舗間の競争が激しく、品揃えが少しでも悪いと、お客さんに敬遠されてしまう、という状況があります。それゆえに「欠品」に対する対応が他国と比較してもとても過剰なんです。
 なぜそこまで欠品に厳しくなるのか?その要因として、「チラシ販売」が挙げられます。チラシ販売をするには、それまでに様々な準備が必要になります。広告を出す1カ月ほど前から商談準備して、写真を撮影し、チラシのレイアウトを組み、広告料金を払って、という結構な手間がかかっています。そこまでの手間をかけておいて、不測の事態で欠品が発生したらどうなるか?お客さんもチラシを楽しみにして来てもらうのに、そこで目当ての商品がなかったら、もう2度とお店に来てもらえなくなるかもしれない―。このような日本の販売システムが、欠品に対する過敏な企業行動を引き起こしていて、ここが実は、流通段階における食品ロス発生の根本的なところだと思っています。

編:なるほど。

小:なのでこの問題は、消費者が無邪気に他店よりも安い価格のものを選び、品揃えを重視して店を選ぶという行動の裏側に潜んでいる代償とも言えると思います。このことをもっと消費者に知ってもらい、生産者と消費者が近い関係性を持たないといけないと思います。

編:一般の消費者はそんな事情をほとんど知らずに買い物してしまっていますね。

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小:このようなシステムからある意味で解放されているのが「産直」なのではないかと僕は思っています。しかし、スーパーマーケットがあんなにも評価されている要因は、やはり「品揃え」だと思っていて、そういった面では「産直」は不利、という側面はあります。

編:その時期その地域にあるものだけ置くというのは産直の魅力でもありますが、それは品揃えとは相反する部分とも言えますね。

小:ただ、過当競争で儲からなくなってきているスーパーの中から、商品の「品揃え」ではなく「絞り込み」をすることで利益を挙げている店舗もぽつぽつと出てきています。

編:と、いうのは?

小:限られたスペースや限られたアイテム数の中で何を置くのかをしっかりと考えることによって、「ここにうちは特徴があるよ」という売り方をして、それを全部売り切る、というやり方をしているお店があります。

編:売り切ることで欠品になったとしても?

小:売り切った後に来た人にはまた来てもらうように仕向けるという戦略です。「過ぎたるは及ばざるが如し」というか、「腹八分目」というか、そういったことが逆に〝付加価値〟になってくる。そうやって発想を転換することができると思います。

編:商品のプレミアム感を出す、というイメージですね。

小:まさにそうです。そこで絶対的に大切なのは、商品の質を保証するということ。美味しいものを適正価格で売ること、その背景としてきちんと生産現場に関わる情報を伝えていくこと、これがとても大切だと思います。
 買えること、食べられることに「ありがたい」という感覚を取り戻すことは、今すぐにとは言いませんが、長期的なトレンドになっていくと思います。こうしたトレンドを見て感じるのは、一般のスーパーの品揃えに、消費者は飽きつつあるのではないかということ。

編:食べ物に限らず、物が溢れる時代にあって、物の有り難みをもっと味わいたい、という需要があるのは実感することがあります。

小:また、スーパーの廃棄ロスの問題で罪深いのが、「セルフ販売」という販売形態にあると思っています。置いてあるものを「勝手に持って行ってもらう」という売り方が主流ですよね。
 そこで何が起こるかというと、消費者は、奥に置いてある、賞味期限が1日でも長いものを引っ張り出して持っていく…こういう事態が頻発しています。これによって店側も賞味期限が1日でも長いものを置きたがる、そして製造の現場にそのしわ寄せがいくという連鎖が起こってしまっている。

編:恥ずかしながらそうした行為は自分にも覚えがあります。

小:日配品(乳製品や漬物、弁当など、冷蔵が必要で日持ちのしない商品)等に関しては、今、鮮度を求めるあまり、発注したその日に出荷を求めるという動きが増えています。この要望に応えられなかったら次から発注が来ないこともあるため、小売側の要求に応えるためにメーカー側が何をするかというと、常に大量の在庫を持とうとするんです。そうなるともちろんロスも増えますよね。じゃあそこでメーカーが何をするかといえば、品質を下げてコストを下げることでそれを補おうとする―美味しくないものが流通してしまう、という事態になりかねないですね。

編:消費者としても望んでいない事態を、無意識に作り出してしまっているんですね。

小:セルフ販売をいいことに大量に陳列して、売れ残りを捨て、美味しくないものでも安さをアピールして売ってしまう―ある意味、これが今の小売の現実だと思います。
 けれど、本当の商売というのは、売り手が買い手に「この商品はどういう理由でここへ来て、その背景にはどんなことがあったのか」を品質保証のために伝える、ということだと思います。食べ物は、毎日必要で買い物頻度が高く、消費者との間に本当の信頼関係を作らなければ良い品質のものは流通しません。消費者にも、こうした流通・食品廃棄の状況を伝え、適正な買い物をするための啓蒙活動が必要だと思っています。

編:こうした状況を受け、国では食品ロスに対しどのような政策がとられているのでしょうか?

小: 日本では、平成13年に食品リサイクル法が整備され、その後リサイクルに関してはある程度取り組みも進んでいました。しかし、その前段階の、製造・廃棄を〝抑制する〟ということについては、かなり後手に回っていました。それが、2013年に、「食品リサイクル制度のあり方に関する論点整理」という国の指針が発表され、そこで初めて「リデュース=発生を抑制しましょう」ということが積極的に言われたんです。
 2011年に国連から発表された、「世界の食料の3分の1が捨てられている」という報告書も、世界的にインパクトを与えた1件としてありました。

編:食品ロスという言葉自体が、ここ数年で普及が広まってきたようにも思います。

小:国際的に見ても、食品ロス削減に取り組む流れは強まっており、そうした中で日本としても、食育の推進や、食品ロス削減に関する取り組みを支援する動きが出てきています。
 食品ロスは、環境に関する問題というだけでなく、食文化そのものを作っていくことでもあると思います。今後様々な形で法を整え、各地域でも対策が進んでいくことを期待します。

編:小林先生、ありがとうございました!

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(産直コペルvol.26 「特集 食品ロス」より)

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