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田んぼの話ー美田は誰がつくる?ー

梅雨の晴れ間、乗用五条除草機に乗って、畝間の草を撹拌しながら鋤き込んでいく。

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 いかに田植えを遅らせたとしても、仕上げの代かきから1カ月余りも経てば、ありとあらゆる雑草たちが、今年もまた賑やかだ。

 この時期、ふと、まわりを見渡せば、30町歩にわたって広がるこの河原の田んぼ地帯に、仕事している人が誰も見当たらない時がある。平日なんか本当に静かなもの。

 美しい田園風景は、そこで農業を営む人々が日々、手をかけてこそ育まれるもの…のはずであるが、実はそうでもない。農業の近代化以降、田んぼの除草について言えば、ジャンボ剤がお手軽に投げ込まれたり、田植えと同時に田植え機から落とされたりした、「除草剤」というオートマチックな技術に農家は頼らざるを得なくなってしまった。

 除草剤や殺虫剤の散布後に、田んぼの中で草が溶けるように枯れ、虫がしびれ、もだえる様子は、誰も知ることのない、静かな出来事。農薬をまいた農家本人も、また、朝夕に田んぼの脇を散歩して歩く人々も、その絶大なる効果と不思議な仕組みを当たり前としか思わない。
 除草さえうまくいけば、あとはほぼ、あぜの草刈りさえしていればいいのだ。(これが命懸けの重労働だったりもするのだけれど…)とにかく、見かけだけは美しく田園風景は保たれ、人影のあまりない、美しい瑞穂の国がなんとか受け継がれていく。

 6月は、除草作業のため、目一杯働きながらも、その仕事自体がたくさんの命を抹殺する時間の連続でもあるからか、気持ち塞ぐ季節でもある。草や虫たちの圧倒的な勢いや数と量、入り乱れる混沌とした世界に対して、まともに向き合わなくてはならず、身も心もけっこうしんどい日々だ。

 それでも一日の仕事を終えた夕暮れどき、窓越しに聞こえてくるのは、アマガエルの絶え間のない賑やかな声。私の転がした除草機の爪の回転や、誰かがまいた農薬の魔力からも生き延びた、何百、何千もの命。また、夜も更ければ何万もの赤トンボのヤゴたちが、静かに稲の葉によじ登ってきて、朝の光にその羽を伸ばす。

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 この青島の田んぼは本当に美田といえるか?実感を伴った、人の生活と農に根ざした活動の結果といえるか?

 除草剤を必要としない稲作りへのチャレンジは続く。



***著者プロフィール***
小川文昭さん(56歳)
大学時代、リサイクル農業の基礎について学び、平成元年、卒業と同時に新規就農。以来、徐々にその規模を拡大しながら一貫して有機栽培を続け、現在では約5haの農地を、奥さんと一緒に管理する。たくさんの命が複雑み絡み合う、「稲も、草も、虫も、人も元気な田んぼ」を理想とする。

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(産直コペルvol.25「田んぼのはなし」より)


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