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世界農業遺産 静岡の茶草場農法

 お茶の生産量日本一を誇る、日本の茶どころ静岡県。栽培面積・収穫量の両方において全国の40%以上を占める。
 同県西部に位置する掛川市も、お茶どころとして有名な産地の1つだ。そんな掛川周辺地域の茶栽培において、古くから受け継がれてきたのが「茶草場(ちゃぐさば)農法」と呼ばれる独自の栽培技術である。2013年には、世界農業遺産にも認定されている。
 シリーズ第3弾となる今回は、「茶草葉農法」の価値・効果に迫ると共に、実際にそれを実践する農家に、その思いやお茶栽培の実情を聞いてみた。

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茶草場農法とは



 「茶草場農法とは、茶園の周囲に生えているススキなどの植物を刈って、それを圃場に敷きつめる伝統的な農法です」
 そう教えてくれたのは、静岡大学農学部教授の稲垣栄洋さん。実はこの方、茶草場農法の農業遺産認定を働きかけた立役者でもある。
 「茶草場」とは、茶園の周辺にある、ススキやササなどの草地を指す。周辺に生えるこれらの植物を、秋から冬にかけて刈り取り、干して乾燥させてから茶園の土の上に敷きつめるのが、茶草場農法のやり方だ。これをすることで土が柔らかくなったり、お茶の味や香りが良くなったりすると言われている。
 茶草場農法は、「いつからそれが行われているかわからないほど昔から、この地域で当たり前に伝承されてきた農法」だという。

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里山草地の維持



 「茶草場農法が農業遺産に認定されたポイントの1つとして『里山草地(そうち)の維持』が挙げられます」と稲垣さんは説明する。
 里山草地とは、ある程度人の手が入ることで維持管理されている草地環境のこと。かつてススキなどの植物は、牛の餌や茅葺き屋根、田畑の肥料に使われるなど、人々の生活とは切り離せないほど日常的に必要とされるものだった。
 「そのため、1880年代には、国土の約30%が里山草地でした。それが、生活スタイルの変化に伴い、そうした資源は放置されたり、宅地開発によってどんどん姿を消すようになりました」
 こうした中で、静岡県における里山草地は、営々と受け継がれてきた。茶草場農法を行うお茶農家の手によって守られてきたのだ。認定対象となった5市町村(掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根元町)で、実に1000ヘクタールの里山草地が維持されているという(茶園の面積は約3000ヘクタール)。



茶草場農号が育む生物多様性



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 「里山草地が茶園の周りに広がっていて、秋冬になれば茶園に草を入れるのは、ここに住む人にとって当たり前の光景です」と稲垣さん。
 「この里山草地があることで、ほかの地域では絶滅しつつある植物が、静岡には当たり前に生えていて、そうした生物の多様性も含めて、地元の人にとっては当たり前の光景なんです」
 里山草地があることで生まれる 〝生物多様性〟とは?稲垣さんは次のように教えてくれた。
 「年に1度、ススキを刈り取ることで、そこに光が差し、スミレが咲いたり、ツリガネニンジンが咲いたり、様々な植物が育つんです」
 地域で300種類もの〝草地性(草地に生息する性質)〟の植物が見られるほど、茶草場農法がこの地の自然にもたらす効果は大きい。聞けば、野生条件では絶滅が心配されるまでに全国的に減少している「秋の七草(ハギ、ススキ、クズ、カワラナデシコ、オミナエシ、フジバカマ、キキョウ)」が、この地域では自然に見られるのだという。  
 「全国でもほとんどなくなっている里山草地がこの地に残っているのは、お茶農家の人たちが一生懸命にお茶作りをしてきたから。ススキを刈り取って、乾かして、圃場に敷きつめるのは、全て手作業で、とても手間のかかることです。それでも『良いお茶作りのために』とその手間を惜しまずに農家が続けてきたことが、今の生物多様性につながっているんです」と、その素晴らしさを教えてくれた。



農業遺産がもたらしたもの



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 そんな茶草場農法が農業遺産に認定されたのは2013年のこと。この認定をきっかけに、茶草場農法実践農家を認定する新たな認定制度もスタートしたという。認定のポイントは、茶園に対し、どれだけの草地を持っているか(土地は農家の土地もしくは地域で共有の場合有り)。現在認定数は88件、実践者数は496戸だという。
 そして、こうした対外的な評価を受け、「農業遺産認定後、里山草地の面積は増えているんです」と稲垣さんはうれしそうに話す。
 前述したように、手間のかかる茶草場農法は、農家の負担も大きく、「もう続けられない」とする声も中にはあったという。それが、農法の価値が認められ評価されたことで、農家の誇りにもつながり、「継承していきたい」という流れが大きくなりつつあるという。  
 「茶園があることで、多様な植物と共に里山草地も維持されます。そしてそこは、農家のみならず地元の人にとっても、そりすべりをしたり、山菜採りをしたりと、昔から慣れ親しんだ場所でもあるんです」

 緑一面に輝くお茶畑を見ながら、静岡の茶農家が受け継いできた伝統の茶草場農法が地域にもたらす豊かさを思った。 



(産直コペルvol.26シリーズ「世界農業遺産」より)

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