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土から育てる vol.10 特別企画     ベトナムの土づくりを訪ねて

土づくりのシリーズ第10弾は、海を越えて、遠くベトナムの大農業企業=HUY LONG ANH社を訪ねた。
 農業に携わって40年になるというヴォー・クァン・フィ会長と、その息子のヴォー・クァン・トゥアン社長のもとに約250人が働く、ベトナムで最大級の農業企業。栽培面積は1000haに及ぶ。FOHLA(Fruits of HUY LONG ANH:ロンアン省のフィ農園のフルーツの略)をブランド名にして、有機栽培バナナを日本に輸出しようとしている。 
 この会社から、有機肥料づくり・土づくりの指導を依頼されたNPO法人「土と人の健康つくり隊」の伊藤勝彦理事長とともに、ベトナムの農業事情・土づくりや有機栽培の状況を視察に赴いた。土づくりに関心のある全国各地のスーパーや農家・関係者16人が同行した。その模様を報告する。        【文・毛賀澤明宏】

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世界に広がる自然的土づくり・有機栽培の視点



 バナナは農産物直売所運営において度々議論の対象になる果物だ。本誌「産直コペル」は直売事業関係の読者が多いことから、まずこの点に触れておかなければならないだろう。
 バナナは客のニーズは高いが、国内の生産量が極めて少ないため、販売するとなれば輸入品を市場や商社経由で仕入れなければならない。それは果たして「地産地消」を標榜する農産物直売事業に相応しいことか?どうか?―これが論点となるわけだ。
 だが、今回の視察を通じて、日本で農産物直売事業に関わる人々は、「地産地消」を地理的限定性の狭い枠で捉えるのではなく、もっと別の視点、「地域環境との共生」「持続可能な循環型地域農業」というような視点からも捉えるべきではないかとの思いを強くした。

 土づくり、そして限りなく有機・無農薬にシフトしたサスティナブルな環境保全型農業を進めるという視点・視角は、今や国際的な広がりを持つ。そして、そのようにして作られた農作物は、人の健康と地球環境の保全を求める世界中の消費者に求められている。
 そういう中で、化学農薬や化学肥料に頼らない健全な土壌づくりを進め、安全で安心な農産物を育てる、そしてそれをフェアに流通・販売する―「地産地消」を語る際に、そういう視点をより明確にするべきではないのだろうか? こういう視点を持たないと、日本農業はいよいよ立ち行かなくなる。そういう時代がいよいよ到来したと思うのである。



日本のバナナ輸入と産地国等の状況



 以上のように考えたのは、何よりも、発酵有機質堆肥を使った土づくりに対するこだわりと熱意は、国が違っても、その地の農業を発展させようとする人々には共通するものだと強く感じたからである。
 そのことを述べる前に、バナナを取り巻く日本と世界の状況について概観しておこう。

 日本ではバナナと言えばフィリピン産がイメージされるが、それはフィリピン産の日本市場の寡占率が95%(2014年)と高いためで、生産量から言えば1位がインド、2位が中国、3位がフィリピンで、次にブラジル、エクアドルなどが続く。
 今回訪問したベトナムの生産量は約150万トンで世界10位以下、しかも自国内消費が約80%あり、輸出されている量は30万トン程度と少ない。
 フィリピンは生産量も多く、日本との古くからの関係も深いこともあって、前述したように日本に輸入されるバナナの95%を占めるが、エルニーニョ現象による台風被害での凶作、同じく台風に起因する土壌汚染、そして成長著しいアジア諸国の需要拡大で、供給量の低下と価格の高騰が著しい。

 特に、急速な経済発展をする中国の国内消費量・輸入量の増加が激しく(3年前に比べて3倍)、フィリピン産バナナも中国に向かっているのだそうだ。
 日本のバナナの総輸入量は、2009年の125万トンから2014年の95万トンに落ち込んでおり、その内の95%を占めるフィリピン産(2014年)は前述のような事情で増加が望めない。しかし、先にも述べたように、日本ではバナナの消費者ニーズは高く、おいしく安全な、米食物メジャーに支配されない新たな産地が探されているのだという。

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 このように、ベトナムが日本への新たなバナナ輸出国として手を上げる条件が整いつつあるわけだ。(視察ツアーに参加した(有)VIENT=本社・東京都=の資料を参照)



OHLAバナナが直面する問題



 こうした条件の下でHUY LONG ANH社は日本へのFOHLAバナナの輸出拡大に乗り出そうとしている。これまで同社は、主に中国・サウジアラビア・シンガポール・マレーシナなどにバナナを輸出してきたが、後で詳しく見るように自社製有機質発酵肥料を95%以上使用し(化学肥料は5%)、農薬の使用も極めて限定的な同社の栽培技術を認めてくれる市場として日本を選び、新たな挑戦に打って出ようとしているわけだ。
 同社はホーチミンから車で2時間のロンアン省ルックホエイにある第一農場に45 ha、同じく3時間のタイニン省チャンバンの第二農場に70 haの広大なバナナ園を有している。
 第一農場には年間12~13万頭を扱う輸入牛の肥育場もあり、そこで産出される牛糞を使った広大な堆肥製造場がある。第一農場での使用はもちろん、第二農場へもここから膨大な量の堆肥が運ばれている。
 この自社製堆肥の完成度を高めることが、日本への輸出を成功させるために、有機質発酵肥料を使用した安全でおいしいFOHLAバナナブランドを作ろうとしている同社の喫緊の課題だというわけなのだ。



ベトナム農業の振興のために



 ヴォー・クァン・フィ会長によれば、彼が本格的に農業に取組んだ40年前(ベトナム戦争終結直後のことだ!)から、ベトナム戦争での米軍による枯葉剤(ダイオキシン)の散布とその後の被害の継続があったにもかかわらず、ベトナムでは農薬や化学肥料は当たり前のように使用されており、農薬を洗い落とすための「野菜を洗う洗剤」までもが、今も売られている状況だという。

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 しかし、フィ会長はその中でも、地場のサトウキビと牛糞を使った発酵堆肥利用の農業が「農作物をおいしくし、ベトナム人を健康にし、ベトナムの自然を守る」と考え、一貫してこの堆肥づくりとそれを使った農法にこだわってきたのだそうだ。

 聞けばフィ会長は、ベトナム戦争で、欧米諸国に支援された当時の南ベトナム政府に抵抗する側におり、ベトナム社会主義共和国樹立後は、政府中枢とも深く交流があるのだという。ベトナム随一の大農場の経営者となってからも、ベトナムの「社会主義的市場経済」政策を実現する主体となって、主に農林水産業部門を現場で切り開いてきた指導者層の一人であるようだ。

 そういう人物であるからこそ―おそらく、キューバの「有機農業立国」なども範としつつ(これは推測)―、ベトナム農業の未来を切り開く気概をもって、土づくりと有機栽培農業に取組んできたのではないだろうか。
 そして、その取組みの新たな段階への飛躍として、有機栽培バナナの日本への輸出拡大と、そのための有機質肥料の質的向上に力を入れているのだと思われる。




日本の土づくりとの出会い




 そんなフィ会長のHUY LONG ANH社と、日本で有機質発酵肥料による土づくりを進めるNPO「土と人の健康つくり隊」の伊藤さんとの接点はどのようにして生まれたのだろうか?
 両者を仲介した(有)VIENTの石川秀克社長によれば、近年、天候不順などで病気が生じFOHLAバナナの味が落ちていたが、その打開のためとしてシンガポールから鶏糞の売り込みがあった。しかし、「どうせ鶏糞を使うなら質の良い日本の鶏糞を使おう」ということになり、関係筋を探ったところ、伊藤さんが提唱するバイオ酵素を使った鶏糞にたどり着いたのだという。
 そして、日本の信州で堆肥づくりの現場をめぐるツアー(略称「うんこツアー」)が行われていることを知って、日本で有機質発酵肥料づくりはどのように行われているかを実際に見てみようということになり、息子のヴォー・クァン・トゥアン社長自ら来日し、同ツアーに参加したのである。
 「とにかく、鶏糞が何も臭わない。終末処理場も臭くない。これは凄い技術だと思い、当社の堆肥製造プラントを見て指導してほしいと思ったのです」とトゥアン社長は話した。


(この続きをお読みになりたい方は産直コペルvol.21をお買い求めください。
                 「シリーズ「土から育てる 10」掲載)



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