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特集 伝統工芸とそれを支える一次産業 その1ホウキモロコシ

かつては全国各地で作られていたほうき。なかでも、長野県・松本ほうきの歴史は江戸時代後期から約150年と古い。動物除けとして畑の周りに植えられていたホウキモロコシを使い、農家の副業として生産されていた。
 松本市では芳川野溝地区で発祥し、最盛期には松本市内で100戸以上が生産していたが、現存するほうき職人は片手で数えられるほどになってしまった。高度成長期に絨毯を使う家庭が増え、掃除機が普及し、原料となるホウキモロコシの生産者が減少したためだ。加えて、大量生産された外国産の商品がホームセンターで流通するようになり、松本ほうきは存続も危ぶまれた。
 しかし、「フローリングの家庭が増えたことで、7~8年前からまたオーダーが増えています」と話すのは米澤資修(もとなお)さん。オーダーから2年待たなければ手に入れられないという、松本ほうきを作る職人さんだ。早速、塩尻市にある「米澤ほうき工房」を訪ね、話を伺うことにした。


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ほうき職人が編み上げる一生もののほうき



 米澤資修さんはホウキモロコシの自家栽培を行い、松本ほうきを作り続けている「米澤ほうき工房」の3代目だ。父である2代目・勝義さん、母・純子さんと共に親子で伝統を守っている。手をかけて自家栽培したホウキモロコシを、1本1本丁寧に編み上げる松本ほうきは、みずみずしい緑色の、長く柔らかい穂が特長だ。

 ほうきを使う時にはサッサッと勢いよくゴミをかき集めるイメージがあるが、「米澤ほうき工房」のほうきは軽く撫でるだけで、細かなチリをしっかり集められる。ふわふわとした穂は、デリケートな畳やフローリングを傷つけることがない。掃除機を出し、コードを巻き取って収納する手間もかからない。建具にぶつけて傷つける心配もなければ、大きな音が出ることもない。気になったときにさっと掃ける気軽さがある。

 また、デザイン性が高く、隠して収納するのではなく、見せて置いておける点も好評だ。もちろん量販店で売られているようなものと比べれば多少値は張るが、数年で穂が抜け落ちてダメになってしまうそれらの商品と違い、ここで作るほうきは、適度にケアすれば何十年も使い続けられる。「一生もの」との呼び声も高く、オーダーから納品まで2年待ちの状態が数年続いている。



無農薬栽培だから草とりも間引きも手作業



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 初代(=資修さんの祖父)は、ホウキモロコシの栽培を近隣の農家に委託し、工房では加工と販売を専門に行っていた。しかし栽培を任せられる農家がいなくなり、十数年前から勝義さんが自ら栽培を始めた。
 だが、「本当は今だって分業したいくらい」なのだという。ホウキモロコシの栽培はとにかく手間がかかるのだ。
 5月に種まきし、7月下旬に収穫を行うまでの間、炎天下のなか手作業で間引きと草とりを繰り返す。育つと2メートルにもなるホウキモロコシは、根を張るのが早く、時期を逃すと間引きに手間がかかってしまう。草とりは、天敵となるアワノメイガという蛾の幼虫の繁殖を避けるためにも欠かせない。

 加えて、米澤ほうき工房では除草剤も一切使っていないという。ゆえに草とりも手作業で行っている。
 「お子さん連れのお客さんが、うちのほうきを買ってくれたりすると、やっぱり農薬は使いたくないと思ってしまうの。子どもって、結構ほうきを触りたがるから。『魔法のほうきだよ!』ってまたがったりして(笑)」と純子さんは話す。
 こうして迎えた7月下旬、茎の色と花びらの散り方というわずかな変化から、タイミングを見計らい、一斉に収穫し、脱穀、乾燥を行う。
 これらに加えて、ホウキモロコシの種は市販されていないため、自家採取して来年に備えるというのも重要な作業の1つだ。




「柔らかさ」と「緑色」を保つ順子さんの気配り



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 収穫したホウキモロコシは「ゴム長の裏が溶けそう」なほど暑い日に、工房前のアスファルトのスペースに並べて天日干しを行う。穂と穂が重ならないよう、1本ずつ並べていく…。この気の遠くなるような作業は、純子さんの担当だ。乾燥機を使い一気に乾燥させることもできるが、それだと仕上がりが硬くなりやすい。機械を使うと松本ほうき最大の特徴である柔らかさが失われてしまうのだ。柔らかさがなければ、折れてしまう。それではほうきが長持ちしない、というわけだ。

 そこで早朝から並べ始め、夜露にあたらないよう夕方には回収。気温30度以上の日を選び2、3日続けて行う。日中もゲリラ豪雨、夕立がこないか目を光らせる。「少しでも雨にあたると、色が変わってしまうんです」
 収穫したホウキモロコシを熱湯に漬けて、黄色いほうきを作る地域も国内にはあるが、自然な緑色にこだわるのが松本ほうき。乾燥後も3カ月から半年かけて、暗室で乾燥させながら保管する。日に当たってしまうと、緑色が褪せてしまうからだ。
 乾燥させた穂は、1本1本、繊維の太さや生えている方向、コシなどを純子さんがチェックしながら、長ぼうき、中ぼうき、手ぼうき、荒神ぼうき…と種類ごとに選別する。この選別作業が肝心で、「選別しておかないと1日にほうきは1本しか作れない。予め選別しておけば3本作れる」のだという。

 穂はほうきを編む約4時間前に水につけて柔らかくしておき、編んだほうきは再び天日干しで乾燥させる。
ほうきにもよるが、長ぼうき1本に使われるホウキモロコシはおよそ100本。約800坪ある畑の一辺に値する。原料の生産から加工・販売を全て行う米澤ほうき工房では、1年で600本のほうきを製作するのが限界だ。



2代目・勝義さんがつくる昔ながらの竹ぼうき



 2代目・勝義さんはほうき制作の傍ら、昔と変わらず現在も行商に出ている。長野に隣接する8県が販売エリアだが、特に北陸地方は寺院が多いことから、竹ぼうきの需要が高い。天井の高い本堂の蜘蛛の巣を払うため、3メートル近くある長い竹ぼうきが年の瀬によく売れるという。
 「ホームセンターにも伸縮タイプのものはあるけど、アジャスター部分が不安定なんだって。竹ぼうきは節があるからね。丈夫なんだよ」
 勝義さんが作ったほうきが欲しいと、理髪店や美容院、精米所、木工所などから声がかかる。中には、「蜂を巣箱から払い落とすためのほうきが欲しい」、「五平餅のたれを塗るブラシがほしい」といった特別なオーダーも。「(掃除機で)吸う」よりも、「掃く」ことが適した場所というのは意外と多いのだ。
 ほうきの原料は昔に比べて高くなったが、古くから馴染んでいる行商先に対して、価格は高く設定できない。大量生産品が流通し始めた頃も、松本ほうきの伝統と家族を支え続けた勝義さんは、「もっとたくさん作らなきゃ」と口にする。
 しかし、資修さんは「もうそんな時代じゃない。どのみち、うちのやり方ではたくさん作れないのだから、時代とともにニーズに合わせて品質で勝負していかないと」と語る。
 互いに職人同士、時には意見を戦わせながら、それぞれ異なるタイプのほうき作りに励んでいる。



3代目・資修さんがつくる 現代版の松本ほうき



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 資修さんが3代目を継いだのは6年前。それまで長野の醸造所で営業職に就いていたが、あるとき、取引のあった東京の有名老舗百貨店から「雑誌で取り上げられていた松本ほうきを扱いたい。どこで買えるか知っていますか?」と問い合わせを受けた。父母が作り続けているほうきを求めている人がいる、と感じた瞬間だった。その後、両親の手伝いで参加したクラフトフェアで、意外な反応を目の当たりにした。松本ほうきを見た若い女性たちから「かわいい!」と声が上がったのだ。
 それまでもほうき作りを手伝ったことはあったが、「これで食っていく」という覚悟をしたのはこの頃。資修さんには3人の子どもがいるが、上の子は小学校に上がったばかりだった。
 「お父さんも私も『食えないから、やめろ』って言ったの。息子のお嫁さんにも、とめてよ~って…。でも意志が固くてね」
 両親の反対を押し切り、資修さんは、ほうき作りやホウキモロコシの栽培を学んだ。儲けのないイベントにもどんどん出かけて、お客さんと接する機会を持った。ユーザーの声を拾うためだ。

 赤い糸で編み、ピンクのビニールで巻くスタイルが松本ほうきの定番だったが、資修さんはカラーリングに着目。赤やブルー、ベージュなど日本製の麻糸を使ったラインナップを揃えた。柄には従来の竹ではなく、桜、クルミ、タモなどの木材を採用。しっとりと手に馴染み、住空間にも沿うデザインを提案した。他にも、木の風合いを楽しめる寄木細工を使ったり、和紙の原料の表皮部分を剥いだ後の楮の木を柄に使ったり、漆塗りにしたりと新しい試みにも挑戦。長野県内の木工家や藍染職人とタッグを組み、クラフトとしても価値のある商品を数多く開発している。
 高めたのはデザイン性ばかりではない。松本ほうきの長ぼうきは通常4つ玉(4つの束)から作られるが、昨今の住宅事情を考慮し、3つ玉で作るスリムタイプの中ぼうきや、女性の身長に合わせ柄を短くした長ぼうきも考案した。腰を伸ばしたまま掃け、塵取りを使うときも柄が邪魔にならない。手ぼうきと同じような感覚で使えると好評だ。
 「女性が言う『かわいい』の感覚は、正直今でも全然わからない(笑)。ほうきである以上、あくまで実用性が第一です。でも、女性の反応は重視しています。お掃除をするのは、やっぱり女性が多いですから」




資修さんが描くこれからの「松本ほうき」


  
 「米澤ほうき工房」は、今や若者に人気のアパレルブランドやショッピングモール、ニューヨークでの展示会からも注目を集めている。その一方で、資修さんは地元での活動に一層力を入れている。仕事の合間を縫い市内の小学校に出かけてワークショップを行うこともある。ほうき作りの面白さを知った子どもたちは、作業台を取り合うほどの熱中ぶりだ。松本の商店街と若手工芸家が協同で行う「商店と工芸」には企画段階から参加し、伝統工芸、民芸、クラフトのジャンルを超えて作り手や地域との交流の場を設け、裾野を広げる活動を続けている。
 「僕は、ほうきを作ることも、ほうきの良さを広めることも仕事だと思っています。できることなら、お客さん一人一人の用途や要望に合わせたほうき作りをしていきたい。編む糸の色や、柄の材質、身長、家の構造などを伺って1本ずつオーダーメイドで作っていくのが僕の理想なんです」。そう語る資修さんだが、苦しい現状も明かす。
 「ありがたいことでもあるのですが、今は生産が追いついていない状況です。私たち3人も日々頑張っていますが、完全に人手不足。畑をお任せできる方がいらっしゃればいいのですが、見つかりません」
 「ほうきを作りたい」と志願する人も時折現れるというが、想像していた以上に「畑作業に手がかかる」と、辞めてしまうのだという。
 「うちで人を育てる資金や体力がないのも正直なところです。どうしてもほうき作りばかりに注目されることが多いですが、畑と材料の選別が私たちの仕事の7割を占めます。とても地味で大変な仕事ですが…。ここで手を抜いてしまうと、ほうき作りはできません」

 一次産業や伝統工芸に立ちはだかる「人手不足」「後継者不足」の壁。もどかしい気持ちを抱えつつも、もの作りに対する情熱やこだわりは曲げられない。
 「先のことはわかりません。でも、『これで食っていく』と腹をくくらないと、やっていけませんからね」
 ほうきを製作する手を止めることなく、お話を聞かせてくれた資修さんの横顔には決意が滲んでいた。



(産直コペルVOL.22 特集「伝統工芸とそれを支える一次産業」より)


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