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やたらと旨い「ぼたんこしょう」

 ある人は牡丹の花のようだと言い、ある人は獅子の面のようだと言う。また、ある人は辛いと驚き、ある人は甘いと微笑む。
 何のことかというと、とあるトウガラシ在来品種の話なのである。長野県の北信地方、中野市(旧豊田村)や信濃町には、古くから栽培利用されている「ぼたんこしょう/ぼたごしょう」(以降、本稿では「ぼたんこしょう」と表記)という品種があり、長野県の「信州の伝統野菜」にも選定されている。



丹の花のような姿から



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 この品種は、一般にイメージされる細長いトウガラシの果実型ではなく、むしろピーマンやパプリカに似たずんぐりした型をしている。果実表面には深い皺というか溝があり、その皺が果実の先端に向けて折り重なる様になっていることから、その姿が「牡丹の花」のように見える、ということで、中野市では「ぼたんこしょう」と呼ばれ、お隣の信濃町では少し変わって「ぼたごしょう」と呼ばれているのだ。
 非常に似た品種に新潟県中越地方在来の「かぐらなんばん」がある。この品種もぼたんこしょうと同じような形の果実ではあるが、中越の皆さんは、その果実先端を牡丹の花とは見ずに、お神楽の獅子のお面に似ているということで「かぐらなんばん」と呼ぶようになったとのことだ。



特徴は〝辛味〟



 さて、先ほど、ピーマンやパプリカに似た形と書いたが、この品種はピーマンやパプリカとは異なり辛味を持っていることが特徴的だ。この形にしてこの大きさのトウガラシで辛味を持っている品種は日本では長野県と新潟県の他にはない。おそらく、初めて見る人はピーマンやパプリカの仲間と思って、辛味があるなどとはみじんも思わないだろう。
 辛味があるといっても、実際に果実全体を乾燥粉砕して辛味成分カプサイシンの機器分析をしてみても、一味や七味に使う三鷹などの品種に比べ、4分の1程度かそれ以下しか含まれていないことが分かる。しかし、辛くないと油断して食べたときに辛かったという心理的な影響や、果実の食べる部分によっては実際に辛味が強いことから、かなり辛味の強い品種だと誤解されている方もいるようだ。
 トウガラシの辛味成分であるカプサイシンは果実内の空洞を分けている壁のような組織「隔壁」で作られ蓄積されているので、ぼたんこしょうのように大きな果実だと、辛い部分(隔壁)と辛くない部分(果皮、ピーマン、パプリカなどで通常食べる部分)がはっきり分かれていることになる。そのため、食べる部分によっては果実全体で測った実際の辛味成分含量よりも激辛に感じてしまうのだ。逆に調理するときにその隔壁の辛い部分を取り除けば辛味をある程度は調節できる品種でもある。



辛味と旨味を兼ね備えた 美味しい品種



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 見かけによらず辛味を持っているぼたんこしょうではあるが、辛味があると同時に甘味、旨味も備え持っている美味しい品種である。我々の研究室で、ぼたんこしょうの味に関連する成分であるブドウ糖や果糖といった糖分、グルタミン酸などの含量を計測してみたところ、一般的なピーマンより高い傾向にあることが分かった。その美味しさは科学的にも証明されている訳である。この辛味と甘味を活かして、ぼたんこしょうの栽培地域では様々な伝統的な郷土料理が作られてきた。例えば「やたら」。



切って混ぜるだけ  郷土食「やたら」



 「やたら」とは夏野菜のみじん切りをご飯にかけて食べる、言わばフレッシュなふりかけである。地域や家によって使う材料は異なるが、中野市の「斑尾ぼたんこしょう保存会」の皆様にお教え頂いたのは、ぼたんこしょう、みょうが、丸なす、大根の味噌漬けを使った「やたら」で、これらをみじん切りにして混ぜるだけで出来上がりの料理なのである。全く調味料は入れない。塩気は大根の味噌漬けだけで付けてあり、あとはぼたんこしょうをはじめ野菜そのものの豊かな味と香りのみで美味しく頂けるのだ。さらには、ぼたんこしょうの辛味も相まって、夏の食欲のないときでもご飯が進む逸品だ。

 しかし、この料理、一つ困ったことに、生野菜そのもののお料理なので、現地で食べて頂くことはできても、お土産としてお持ち帰り頂くことが難しい。そこで、中野市のぼたんこしょうファーム有限責任事業組合さんでは、「やたら味噌漬け」という「やたら」全体を漬け物で作った商品も製造、販売されている。
 ちなみに、この「ぼたんこしょうファーム有限責任事業組合」は先に紹介した生産組織「斑尾ぼたんこしょう保存会」を母体として結成された、ぼたんこしょうの加工販売のための組合である。地域の伝統野菜を使った6次産業化を進める組合として注目されており、県内外から見学や問い合わせが来ているそうだ。私はぼたんこしょうファーム有限責任事業組合はもとより、斑尾ぼたんこしょう保存会の設立前からいろいろとお付き合い頂いているが、何よりも、皆さんがぼたんこしょうを愛されていることや、いつも明るく楽しく作業されている姿を見ていると、そのあたりに持続的に活動できている秘訣があるように思える。
 ぼたんこしょうは、やたらの他に、そのまま中に味噌を入れて丸焼きにしたり、なすと味噌で炒めた「あぶら味噌」にしたり、刻んで味噌に入れ「こしょう味噌」にしたり、甘辛く煮て「佃煮」にしたりと、様々な郷土料理に調理されて愛されている。北信濃のぴりっと辛い伝統野菜、やたらと旨いぼたんこしょう、これからも保存会と事業組合の皆さんの活躍に注目しつつ、食べていきたい。



**松島憲一先生 プロフィール**
信州大学学術研究院農学系准教授。博士(農学)。専門は植物遺伝育種学でトウガラシやソバなどの遺伝資源探索、遺伝解析、品種改良および民族植物学的な研究を実施している。また、それら研究を通して地域活性化についての支援もして
いる。信州伝統野菜認定委員。

(産直コペルvol.25 「地域野菜あまから訪問記」より)


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