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特集 農産加工の原点その1 地域の農家を元気にしたい

 長野県喬木村にある「小池手造り農産加工所」。ここでは、小規模農家から大規模農家まで、全国の様々な農家から集まった農産物を加工して農家へと返す「農産受託加工」を行っている。自分の所で加工所を持たない農家でも、ここで作られた加工品を自身のところで売ることができるような仕組みを、今から25年も前に始めた。
 小池加工所の加工技術は全国的にも有名で、毎年多くの視察・研修者がそのノウハウを学ぼうとここを訪れる。設立者である小池芳子さんは、「加工のカリスマ」と呼ばれ、全国からの講演依頼がひっきりなしにくるほどの有名人だ。 
 同社の設立以降25年、それ以前も入れれば40年もの長きに渡り、「地域農業を元気にしたい」という思いで農産加工を続けてきた小池さんに、小池手造り農産加工所の現在の事業内容、加工技術、その歴史などを、幅広くうかがった。
(編集長・鹿野なつ樹)

小さな農家を支える受託加工



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 小池手造り農産加工所で作っている商品は、ジュース、ジャム、ソース、ケチャップ、漬物、酢、おこわなど、多岐にわたる。従業員はパート含め30名。年商3億5千万円を売り上げる。
 前述した受託加工のほか、自社製品の加工販売や、そのための農産物の栽培、また商社との発注に基づくOEM生産なども手掛ける。
 受託加工に関しては、これまで全国3,000件もの農家からの加工を受け入れてきたという。特筆すべきは、その受け入れ規模だ。加工する量が小さければそれだけ手間がかかるため利益は上がらない。それでも小池さんのところでは加工受け入れに際し、その量を問わないというから驚く。
 「コンテナ2杯くらいから加工することもあるよ」。これは出来上がりにしてジュース100本以下程度。当然のこと儲けが出るような契約ではない。
 それでも、「赤字も覚悟でやってる。うちで作ってやることによって農家が元気になりゃいい」ときっぱりと語る。こんなにも小さい規模から加工を受け付けるところは、「全国でもまず他にない」そうだ。
 こうした利益率の低い「小さな加工」を実施しながらも、事業を継続してこられたのは、先に述べた、自社製品の販売や、商社などから受ける大規模加工があるからだ。利益率の高いこれらの事業があることで、小規模な受託加工の受け入れも可能となるのだそうだ。 
 「大量のものを作れば利益が生まれるから、大抵は儲かるものの方に流れる。それが業界というもの」と小池さん。それでも、「地域の農家を元気にしたい」という思いからブレることなく、経営バランスをとりながら、小さな農家を支え続けてきたのが、小池手造り農産加工所の凄さだ。
 また、出来上がる商品の質にもこだわり、儲けを出すために素材の味を薄めて余計な添加物を加えるようなことは決してしない。「私たちは『本物』からブレない」という言葉からは、小池さんが加工に込める信念が伝わる。



加工技術の習得と継承



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 「一人だけが技術を習得してもその人がいなくなったら終わり。企業として継続するために、加工技術を学問的に定式化し、スタッフに教え込んでいる」
 ここでいう加工技術とは、例えばPH(酸度)の適正値や、殺菌温度、農作物ごとに発生しやすいカビの見分け方やその対策方法など。見た目や味を見て個人のさじ加減で判断するのではなく、同加工所が持つありとあらゆる技術を定式化し、正確に数値化することによって、その技術を維持しながら、商品の完成度を高めているという。
 なお、こうした加工技術は、もともと本に書かれていた知識ではなく、これまで小池さんらが実践を重ねる中で培ってきたものだ。
 「昔から農村で伝承されてきた保存技術」であり、それを定式化するために「失敗と背中合わせの実践の積み重ね」によって完成されたものだと教えてくれた。
 「漬物なら、砂糖をたくさん入れたらもちろん保存は効くようになるけど、それによって味が損なわれてはいけない。個人の農家がそういうことをするのはいいけど、私たちが作るのは売り物だから」と小池さん。「旨味が残り、かつ保存可能な最適な量」を探り、導き出した加工方法を実践しているという。
 例えば、シマウリの漬物。塩漬けする際には、その時間は18〜20時間と決めている。(一般的な農家では塩抜きを行うが、それだと素材そのものの味も一緒に抜けてしまうため、塩抜きをしなくても済む程度の塩漬けをすることがミソ)。そして塩漬け後はすぐに全体量の3%の砂糖で漬けて、カビが発生しないようにシマウリの中から水分を出す。その後、みりんやアルコールを配合した粕の中に4日間漬ける、という手順を経て商品が完成すると教えてくれた。
 「売れる味を出しながら、保存できるものを作る。そこに私たちの技術が活きてくる」と誇らしげに話す。



「農村女性の自立」を掛けた加工事業



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 そもそも小池さんがこの加工所を設立したのは、平成5年、彼女が60歳の時のことだ。
 それまでは自身が中心になり仲間と立ち上げた「富田農産組合」(事業内容はりんごジュースの加工と、農協への少量多品目野菜の出荷・無人販売所における直売)で活動していたが、同組合が設立から10年経った後、次世代へと経営を任せたという。
 同組合が運営する富田農産加工所は、果樹の雹害をきっかけに作られた、りんごジュースの加工のための加工所だったが、「りんごジュースだけ作っていたのではだめだと思った。もっといろんなバリエーションに対応する受託加工の施設を作ろうと思った」と、小池加工所設立当初の意図を話す。「農家の手取りを増やしたい」という思いから始めた受託加工だった。
 この、「農家のため」という思いは、もともと彼女自身が農家だったということが深く影響している。こんなことを話してくれた。
 かつて飯田下伊那地域の生活改善グループの長として活動してきたという小池さん。
 昭和50年代、生活改善グループで行った調査によると、農村女性の一ヶ月の女性の小遣いは平均五千円程度だったという。「自分の口座もなく、我慢を強いられてきた農村の女性の生活を向上させたい」。そうした思いで、農家の主婦らを集めてグループを作り、野菜の栽培に取り組んだり、無人販売所を作って野菜を売ったりと、女性の地位向上のために働いてきた。
 「一生懸命働いても、そのお金が家族口座に振り込まれて、満足に自分の小遣いも持てなかった女性。それじゃあ農業の魅力もわからない。女性に個人口座をもたせて、働く喜びを通帳の数字でも見られるようにしてあげたかった」。当時の思いを明かす。「自分が農家だから、通帳を持って、その数字を目で追う喜びを知っていたわけですよ。そのうれしさを周りにも知ってもらいたかったんだね」。そう言って微笑んだ。



経営責任を自覚し、加工を事業化する



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 現在、全国のあちこちに、大部分を村や町の補助によって建てられた加工所がいくつもある。昨今、6次産業化の流れの中でその数も増えつつある。だが、これについても小池さんは、「自分たちで出資しないでスタートしても、結局それなりにしか頑張らない。自分たちが手を濡らさずに他から面倒見てもらって始めても、そんなんじゃ伸びないよ」と指摘する。笑顔だが、中身は手厳しい。
 小池手造り農産加工所では、設立時、出資金は全て自分らでまかない、かつその出資金は初年度に全て返済したという。「人の目のつかないところに視点を当ててやれば儲かる。つまりはやり方次第」。そう力強く話す。
 「赤字になってもなんとかしてもらえばいいという考えではだめ。経営の目標を決めて、方針を定めていかないとだめ」。60歳を期に、定年リタイアするのではなく、新会社設立にチャレンジした人の経験に基づく確信だ。
 言いたいことの核心は、農産加工を趣味の延長で行うのではなく、事業として進めようと考えるならば、まずは経営の視点を持たなければいけないということ。
 「女性は一般的に細かいことに気づくけれど、大きな理想はなかなか持てない。だから加工所が伸びないんだよ。大きな目標を立て、そこにたどり着く道筋を論理的に考える男性的な視点が必要だよ」
 敢えてこう言い切る背後には、女性が自ら事業を起こし、それを継続していくことへの限りない夢と希望が込められている気がした。

(産直コペルvol.20掲載「特集 農産加工の原点」より)


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