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特集 農産加工の今 その2 伝統の発酵食、木曽すんきの機能性を強みに

長野県木曽地域に昔から伝わる伝統食、「すんき」。食塩や砂糖を一切使わず(!)、赤カブの茎と葉を植物由来の乳酸菌のみで発酵させた、世にも珍しいお漬物だ。
 食品の栄養や機能性への注目が高まっている昨今、すんきの「無塩」、かつ「乳酸菌発酵」という特徴は、メディアでも多く取り上げられるなど、健康効果が期待できる食品として、近年脚光を浴びている。農水省が進めるGI (地理的表示保護制度)にも登録申請し、1月中旬に「公示」されている。
 そんな、「すんき」に含まれる乳酸菌の中から、アレルギーを予防・軽減する効果があると発見されたのが、 SN26株という菌。木曽町開田高原の、おんたけ有機合同会社では、この菌を使って作った発酵豆乳、「SN26」を昨年3月に商品化した。同社の代表、松井淳一さんにその開発経緯や農産加工にかける思いを聞いた。

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冬の木曽を代表する食文化 すんき



朝がた積もった雪で真っ白くなった木曽路の中、車を走らせた。左右の木々に積もった雪が太陽の光に反射してキラキラと美しい。
 木曽町の中でも、ここ開田高原は雪深い地域だ。すんきは、昔から冬になるとこの地域の各家庭で作られてきた、冬の木曽を代表する郷土食だ。
 前述した通り、使うのは赤カブと、発酵のもととなる〝タネ〟と呼ばれる、完成したすんきのみ。昨年作ったすんきを、翌年までとっておいて(中には干しておいてから使うという人も)、それをその年新たに作るすんきのタネとして使う。
 「赤カブしか使っていなくても、各家庭で微妙に味が違ったりする。だから、どこそこの家のすんきがおいしいと思ったらそこから分けてもらってきて、自分の家の物に入れたりして作るんだよ」と、松井さんはこの地域に伝わる、すんきの作り方を教えてくれた。

 松井さんが代表を務めるおんたけ有機合同会社は、地域でとれた農産物の加工と、直売所「彩菜館」の運営に加え、自社で大豆やとうもろこしなども栽培している。
 昨年開発した発酵豆乳「SN26」は、同地域にある、「木曽地域資源研究所」がすんきから培養した乳酸菌SN26株を、同社で作った豆乳と混ぜ、発酵させて作った新商品である。



機能性をアピールできる実験データがあったから



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 SN26株は、昨年まで木曽地域資源研究所の所長を務めていた、元信州大学教授の保井久子先生の研究により発見された乳酸菌で、臨床試験により、アレルギーの予防・改善効果が報告されている。
 「幸いなことに、 SN26株は、臨床試験の実験データがたくさんあったから、お客さんにその魅力を伝えやすかった」と松井さんは話す。
 松井さんによると、すんきの中に含まれる植物性乳酸菌は250〜300種類ほどあると言う。実は、発酵豆乳を作るだけなら、 SN26株以外の別の乳酸菌を使って作ることも可能とのこと。ただ、消費者に機能性をアピールするという意味を重要視して、同社ではSN26株に限定して商品を製造しているという。
 「今、健康志向の人が増えて、『健康』とか『ヘルシー』っていうキーワードは人を惹きつける。なんでこれを作ったかっていったら、そこに市場のニーズがあったからだね。機能性を確かめるということは、本来ものすごく時間もお金も手間もかかって、普通ではできないこと。その点、試験結果があるというのはとても大きな意味があることだと思う」
 商品を買っていくのはそうした効果に期待する観光客が主とのこと。とにかくリピーターが多いため「効果を実感してくれてるんじゃないかな」と松井さん。松井さん自身、これを飲んで、毎年悩まされていた花粉症の症状がおさまったことに驚いているそうだ。
 販売は、同社が運営する直売所「彩菜館」と、オンラインショップでのみ行っている。商品の温度管理がしっかりされていないと、発酵が進み、味が変わってしまうためだという。



〝すんきマジック〟に魅せられて



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 「以前は、すんきは僕の口には合わないと思ってた。でも人に教えられて、お味噌汁に入れてみたら、そのとたんにとんでもなくいい味になってびっくりしたんだ。〝すんきマジック〟って呼んでるんだけど」
 松井さんはすんきに興味を持ち始めたきっかけをこう話す。そして、8年前「スローフード木曽」という団体を仲間と共に立ち上げ、「なんとかすんきをもっと世に出そう」と、自らすんきについて学びながら、販路拡大の活動を長年続けてきたという。
 そうした中、メディアで取り上げられた影響もあり、一昨年くらいから、爆発的にすんきが売れるようになった。これを受け、松井さんのいるおんたけ有機合同会社でも、すんき菌を使った新たな派生商品を作ろうと、本格的に商品開発に乗り出し、発酵豆乳「SN26」は生まれた。
 自社で大豆も生産していたため、豆乳を作る環境も整っていたとのこと。原料となる大豆は、発酵が進みやすいようにと、たんぱく質が少なめで糖分の多い品種を選んで作っているそうだ。
 現状の商品は豆乳が苦手な人には、飲みづらい味のため、近いうちに、みかん味や抹茶味など、バリエーション展開して「機能性だけでなく、おいしいと言われる商品に変えていきたい」と、力をこめて話す。

 さらに、松井さんのすんき派生商品開発構想は、発酵豆乳だけにおさまらない。
 「すんきは漬物の匂いがするからそのままじゃ使えないんだけど、この匂いの発生源である『ジアセチル』っていう成分を取り除いたら、酸性液だから、化粧品の基材になるんじゃないかなと思ってるんだ。やりようは色々あると思うよ」
 新たなるビジョンを楽しそうに教えてくれた。



工場の中は化学であふれている



 「継代培養といって、長年同じ菌だけですんきを作り続けていると、ある時突然変異を起こして活力を失ってしまう菌もある。発酵がうまくいかなくなったりもするから気をつけないといけない。すんきの奥深さだね」
 松井さんのお話には、普段聞かない化学的な専門用語がぽんぽん出てくる。思わず「お詳しいですね」と声をかけると、
 「物を作る時に、理屈を知っておかないと製造はできないと思う。これは、僕の主義」と松井さん。
 「乳酸菌は糖を分解して乳酸を作る。だからカブの糖度が少ないとすんきはうまくいかない。それに、40度前後で活躍する菌もあれば、30度前後で活躍する菌もある。工場の中は化学で溢れてる。そういうことを勉強して、しっかり工程を管理していないと、失敗してもどこで失敗したのかがわからないでしょ」
 今回の新商品についても、 SN26株の反応条件がわからなかった最初は失敗もしたと言うが、反応温度や増殖スピードを確かめてからは失敗していないとのこと。
 大学で、合成化学を学び、かつて医薬品会社にいたこともあるという松井さんには、「化学的な見地から考える」という基本姿勢がしっかりと身についている。
 「もともと、化学や、新しいものを作ったりするのが好きなんだよ」



良い商品を作って 地道に少しずつ



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 「こんな中山間地で農業だけで食おうっていっても難しい」と松井さんは地域への思いを語る。同社のある木曽町は、その約9割を森林が占める地域だ。
 「だからこの地域がどうやって生き残っていくかを考えたら、新しい価値を生み出さなければ存続していけない。それは、難しさはあるけれど楽しいチャレンジだね」と微笑んだ。
 「一攫千金を狙うのではなく、良い商品を作って、地道に少しずつ売り上げを伸ばしていくしかないと思っているよ」
 地域への思いと、柔軟な発想力、そして化学的な視点を持ち合わせ、これまで様々なチャレンジを重ねてきた松井さんが、次に見せてくれるのはどんな挑戦か、すんきの広がりと、この地域のこれからが楽しみだ。
 
(産直コペルvol.22掲載 特集「農産加工の今」より)


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