全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

地域の期待に応え、地域とともに歩みながら

 社会福祉法人よさのうみ福祉会(京都府与謝野町)では、京都市北部の2市(宮津市・京丹後市)2町(伊根町・与謝野町)を事業対象地とし、障害者支援施設や生活介護事業所、就労移行支援事業所など、21カ所の事業所で、700人以上の利用者を対象に福祉事業を展開している。
 その中の1つ、2011年に開設した「リフレかやの里」では、農家レストランと宿泊サービス、農産加工とパン・ケーキ製造で、地域と密接につながり合いながら、就労継続支援事業を実施している。
 施設管理者の藤原さゆりさんに、リフレかやの里の活動や、地域とのつながりについてお話をお聞きした。   


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地元の人に喜んでもらえる施設でありたい



 リフレかやの里本体施設は、述べ面積622平方メートルの広大さを誇る。ランチビュッフェを提供する「森のレストラン」と物品販売スペースのあるメイン棟、宿泊棟、浴場棟があるほか、敷地内にはハーブ園や庭などもある。
 本体施設と道路を挟んで反対側には、地元の農産物を活用する農産加工所とパン・ケーキ工房がある。ここで作ったジュースやジャム等は、「森のレストラン」で提供するほか、施設でも販売している。
 藤原さんによると、ここへやってくるのはほとんどがリピーター客だという。「地元の野菜を使っていること、できるだけ添加物を使用しないものを提供すること、障害のある人が頑張って作っている、ということ。そんな私たちのやり方を理解してくれている地域の皆さんにご利用いただいています」
 市販の業務用カット野菜なども一切使わず、地元で採れた農産物を使って、素材の味が活きるようなやさしい味つけにこだわっている。

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 リフレかやの里のある京丹後地域でも、多くの地方と同様に若者の流出、人口減少が進んでいると藤原さんは話す。個人営業の飲食店が減り、全国どこでも見られる類のチェーン店ばかりが増えている状況だという。このように飲食店経営が厳しい中で、「地元の方たちの理解と応援のおかげで営業を続けていられます」と、感謝の言葉を口にする。「地元の人に喜んでもらえる施設でありたい、というのは、開所当時から変わらない、私たちの共通の思いです」

   

住民からの応援の声に助けられ



 よさのうみ福祉会がリフレかやの里の運営に携わったのは2011年のこと。もともとこの施設は、1998年に旧加悦町が9億円を投じて建設したもので、当初は別の第3セクターによる運営が行われていた。しかし、経営がうまくいかず、施設の運営は一時ストップ。改めて指定管理者の公募が行われた際によさのうみ福祉会で手を挙げたのが、現在につながる発端の話だ。

 だが、すんなりと決定したわけではなかった。指定管理者候補として選出されるも、その提案は一度は「賛成少数で議会で否決されてしまった」と藤原さん。これにより施設再稼働の話も一時中断となった。
 だがそんな中で、地域の住民から「リフレかやの里の運営をよさのうみ福祉会に任せよう」という要望書が町に提出されたのだという。こうした住民の声が推進力となり、2度目の提案が承認され、2011年4月に指定管理を受け、同年10月にリニューアルオープンにこぎつけた。
 「これまで私たちが事業所を増やしていく際には、その都度地域の理解と協力を広げながらやってきました。そんな私たちに対し、地域が信頼を寄せてくれた、ということだと思います」と、うれしそうに教えてくれた。
 「地元の方らの、『なんとかよさのうみ福祉会を盛り上げてやりたい』という、そんな気持ちを感じながら私たちも日々活動しています。加工所の設備には町からの補助金もいただいているので、そうした期待に応えなくてはと、大きな責任も感じます」
 現在、京都府全体でも、「農福連携」に力を入れる動きが進んでいるが、リフレかやの里は、府の農福連携北部拠点として選ばれている。



一般事業所へのステップアップを目指して



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 ここで働くのは、比較的障害の軽度な方が多い。「就労継続支援事業」という事業形態の中で、ここでの仕事をステップとして、他の一般事業所での就職が最終目標として据えられている。
 「施設の運営には、福祉事業に対する国からの公費が出ています。そのため、ただ経営を回すだけではなく、障害者一人ひとりの成長のために支援計画を作り、彼らのステップアップをサポートしていくことも重要な仕事です」と藤原さん。加工業務や調理業務、清掃など様々な仕事を、障害を持つ利用者が担当している。
 「他のところでうまくいかずに怒られてばかりだった人でも、その人の障害を理解したうえで、信頼関係を作りながら仕事を任せることで、伸びてくれる方がたくさんいます。それが『福祉』という部分の良さですよね」
 昨年は1人、一昨年には3人がこの施設から一般就労の場へと移っていったと、誇らしげに教えてくれた。



移動販売が地域に果たす役割



 加工所で作ったお惣菜やパンを、地域の高齢者や買い物難民の方のために移動販売するサービスも3年前から実施している。これには「地域への貢献と、私たちの商品の宣伝、2つの目的があります」と藤原さん。こんなエピソードを教えてくれた。
 それまで地域にこうした移動販売のサービスがなかったこともあり、ある日、パンを買いに来たおばあさんが、「3年ぶりに自分の財布から物を買えた」と喜んだという。
 「なんだか、その言葉を聞いただけでジーンときてしまいますよね」
 人に頼んで買ってきてもらうことばかりだったおばあさんが、再び自分で物を買えるようになったその喜びはいかばかりだろう。こう続けた。
 「例えそこで何も買わなくても、『何曜日の何時に販売車が来る』と予定するだけでも、大事なことだと思うんです。先の予定が何もない1週間よりも、決まった予定があることで、その方の楽しみの1つになるし、コミュニケーションの場にもなる」
 自由に行動が叶わない高齢者が増える地域の中で、移動販売が果たす役割は大きい。
  


加工を通して地域連携も進む



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 農産加工所では、ドレッシングやジュース、ジャムなどの自社商品の開発・製造の他に、農家からの委託加工も請け負っている。県内外から加工依頼があり、「正直自社商品の開発に十分に手が回らないほどの状況です」。小ロット委託加工の需要は高い。
 最近では、農家からの委託加工だけでなく、食品業者などから、材料調達段階から加工までを一括で依頼されるケースも増えているという。「そうしたケースは地元の農産物の消費につながるので、地域にとっても良いことですね」
 りんごの絞りカスは地域の農業生産法人に堆肥用に提供するなど、加工を通した地域内連携も進んでいる。



地域農業を応援しながら



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 こうした活動の中で、今藤原さんが最も感じている課題は「農業の担い手不足」だ。
 いくら「地元の農産物を使って加工をする、調理をする」と言っても原材料を生産する側がいなくなってしまったら元も子もない。地域の農家の高齢化が進む中で、担い手不足の問題は大きな壁として立ちはだかる。「守っていきたい」と真剣なまなざしで語る。
 リフレかやの里では、そうした思いから、地元の農業生産法人での「援農(農作業の手伝い)」を、4月よりスタートした。職員と作業者でチームを組んで、日頃農産物を加工所やレストランへ届けてくれる地域の農業生産法人に手伝いに行ってきたという。
 「担い手が少ない中で、自分たちが少しでもお手伝いすることで『まだまだやれるぞ』という気持ちになってもらいたい」と、その思いを話す。始まったばかりの取り組みで、まだスムーズにいかない点もあるが、今後回数を重ねて更に良いものにしていきたい、と力を込めて語った。
 開設より一貫して「地域に喜ばれる施設に」という理念のもと、活動を続けてきたリフレかやの里。農業が抱える課題に直面しながらも、今後、地域との連携協力によってどのような発展を遂げていくのか、その活動を応援していきたい。



(産直コペルvol.24 「特集農福連携」より」)


産直コペルとは

全国の直売所や地域おこしの先進事例が盛りだくさん!「農と暮らしの新たな視点を探る」をテーマに、日本各地で地域おこしに奮闘する人々を取材した隔月発行の全国誌です。購読のお申し込みはこちら! 年間6冊3,300円(税・送料込み)です。

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