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全国直売所訪問記 試食の充実、非安売り、ブランドで勝負!とんとん市場

615ヵ所の直場所があると言われる新潟県。その中で、新発田店(新発田市)、松崎店(新潟市東区)、白根店(新潟市南区)の3店舗を展開し、3店舗合計で330人の生産者と11億円の売上げを誇るのが、(株)せいだが運営する農家の直売所とんとん市場だ。埼玉県にフランチャイズの深谷店もある。
 「地域社会への貢献」「働く農家応援団」「生産者と消費者の橋渡し」を目指し、合理的な経営手法とユニークなアイデアで地域農業を元気にする清田雅人社長と磯部智洋マネージャーに話を聞いた。  (文・毛賀澤明宏)


食べてみなけりゃ、味はわからない



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とんとん市場(取材したのは新発田店)の店内に一歩足を踏み入れると、他所の直売所ではほとんど見かけない光景が目に飛び込んでくる。―「試食」だ。
 果物はもちろん、野菜、漬物、加工品などなど、ほとんどの商品の棚に試食品が用意されており、お客さんは、ニコニコしながらそれを賞味し、「美味い!」とか「甘い!」とか言って、目当ての品を買い物かごに入れる。なんとも楽しそうな光景だ。「生産者の方に『試食も出して』といつも声をかけています。自信のある方は当たり前のように出してくれるし、そういう方の商品は間違いなく売れます」と、磯部智洋マネージャーは話す。
 「試食」付の対面販売は売上げを伸ばし、生産者と消費者の間の会話を増やす特効薬。そのことは直売事業関係者の多くが知るところだが、常設店舗の中で、これほど多くの「試食」が行われているところは、あまり例がないと思われる。


安売りをせず、ブランド化目指す



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 「試食」を重視するのは、味・品質で勝負しようという運営理念があるからだ。
 価格面でも、安易な安売り、特に出荷者相互の安売り競争を排し、農家の所得向上につながり再生産意欲が湧く「適正価格」での販売を目指している。このため同店では販売品目ごとに基準価格が設定されている。
 全国各地に、出荷者が自分の商品の値段設定の際に参考になるようにと、市場価格などを「標準価格」として掲示している直売所は多いが、とんとん市場の場合はこれとは異なり、最低価格限度を示している。「これより安く売ってはダメ」という数字だ。
 「農産物価格の長期低迷が続く中、いくら野菜を作っても系統出荷や市場出荷では農家の手取り収入が上がらない。そこで中間マージンを取られず、物流費もかからない直売所で、農家の手取り収入を上げる。そのために直売所を始めたのです」と清田雅人社長は話す。この基本精神に則れば、自ら値引き競争を始めるなどはもっての外であり、再生産可能な価格設定を堅持することが不可欠というわけだ。



肥料点として創業、専業農家重視の伝統



 それだけではない。とんとん市場ではそもそも、「農業でご飯を食べられる」専業農家を重視し、いわゆる「小遣い稼ぎ」の「庭先農家」は、出荷者組合の会員にしないという方針をとっている。会員の80%が専業農家と第一種兼業農家。平均年齢は60代で、働き盛りが大半だという。こうした大型農家に、かつてのような大面積作付・大量販売・農協出荷・市場出荷ではなく、作付分散・小口直売・個人で消費者にアプローチをキーワードにした、直売所型農業を推奨しているのだ。
 そもそも(株)せいだは、明治の頃に肥料商として創業。以来、大型農家と共に歩みを進め、農業資材業・米穀販売業へ、そして直売事業へと進んだ経歴を持つ。こうした伝統を継承して、また、米を中心とした大型農家が多いという地域的特性も背景にして、専業農家中心の直売所運営という大きな特質が生み出されたのであろう。



売上げデータの分析・活用に注力



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 店舗スタッフの確保・育成にも力を入れ、毎年のように大学卒業生を新卒採用している。各店舗の店長も30~40代と若く、直売所に若い力が溢れている。もちろん運営する(株)せいだが、農業資材や米穀商を同時に営む事業体だから可能となっているという面もないわけではないが、これだけ人材豊富な直売所は、他に例が少ないことも確かだろう。
 こうした若いスタッフが、先述の磯部マネージャーを先頭に、ポスレジに眠るデータを分析し、直売所運営に活用している。そこにかなりの力を入れていることも、同店の成長の大きな根拠になっている。
 例えば毎週月曜日に開かれる新潟県内3店舗の店長会議では、週ごと、また月ごとの売上げ報告が義務付けられており、売上げ額の推移、売れ筋商品の変動、生産者ごとの販売額などが報告される。これらは、すべて前年度と対比されて掌握されており、違いが出たとすれば、その根拠の分析が求められているという。そして、次週・次々週の売上げ予測が立てられ、その実現のために、必要な対策が練られていくのだそうだ。
 このような直売運営者の経営力の高さによって、専業農家中心の大型直売所が成り立っているというわけだ。
 規模や出荷者組合の構成の違いは各種あるかもしれないが、これからの直売所経営にとっては、大きなヒントを持つ直売所だと言えよう。

(産直コペルvol.19掲載「全国直売所訪問記」より)


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