全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

被災地支援を通して見えた地域の力と魅力

【 熊本県西原村出身の寺本わかばさんによる寄稿文 】



私の地元は熊本県西原村、2016年の熊本地震で14日に震度6弱、16日に震度7の揺れに襲われた場所です。熊本地震が発生した時、私は神戸で一人暮らししている家におり、テレビで地震のことを知りました。自分の家族や近所の知り合いの方々、愛着や思い出のある風景が目に浮かびました。自分の知った人や場所が大変な状況にあるのに、自分がそこから離れて、別のことをやっていることに違和感を感じました。すでに西原村で支援活動をしている方と縁があり、西原村に戻って活動することにしました。


西原村での活動



 西原村に戻ってからは、災害ボランティアセンターの運営のお手伝いをしました。発災直後の災害ボランティアセンターは混乱していて、みんなが忙しく動いていました。被災地の中に初めて入った私は、なにをどうしたらいいかわかりませんでした。経験も知識もない私が、どうやったら役に立てるだろうと考えました。災害ボランティアセンターの運営には当時、外部からの支援者が大多数を占めていました。そんな中で私は、他の人より土地勘があり、方言がわかり、住んでいる人の顔がわかる、ということに気づきました。そこから地域をまわって住民の方のお話を聞き、その声を災害ボランティアセンターに伝える活動を始めました。

 顔を知っていたり、知らない人でも「万徳(私が住んでいる地区)の寺本です。」というと、たいてい「あそこの娘さんね!」と言ってくださったりして、そうすると距離がぐっと縮まり、いろんなお話を聞かせていただきました。おしゃべりの中で、住民の方々がボランティアの人手では解決できない様々な問題を抱えていることに気づきました。このような問題をどうにか解決できないかと考えました。

 また地域をまわってお話を聞く中で、住民の方の中に「自分も西原村のために何かしたい」と思っている方がいることが分かりました。そんな住民の方と一緒に、自分たちの困っていることや周囲の気になる声に対して自分たちができることをやりたいと思い、住民の方を中心としたグループ「わかばmeeting」を5月の半ばに作りました。西原村の復興への芽生えとなる活動をしようという思いを込めて、名前を付けました。

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 わかばmeetingの最初の活動は「炊き出しマルシェ」というイベントの開催でした。避難所に多くの方が避難されていた当時、庭いじりや家事など、お母さんたちの生活の一部だったことができなくなり、彼女たちの生活の張りがなくなっていました。そこでお母さんたちが作り手となって炊き出しをし、ボランティアの方々や住民の方々にふるまうイベントを開催しました。

 また地震後、さまざまなボランティアや利用できる機関など、被災された方の役に立つサービスの情報が住民の方に十分届いていないことから、住民の方向けのフリーペーパーを発行しました。お役立ち情報やイベント等のお知らせ、各地区での動きなどをまとめ、なるべく住民の方に手渡しで配布しています。配布する際に聞こえてきた声などをもとに次の活動を考えたりもします。
 そのほか、地震後集まる機会が減った地区で、みんなが集まれるような場づくりをしたり、西原村の加工品を県外のイベントや大学の学園祭で販売する仲介をしたり、地震で多くの食器が割れた方に、全国の方から未使用の食器を集めて無料食器市を開催したりとさまざまな活動をしています。

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活動を通して見えたこと



 今振り返ってみると、私が西原村ではなく都会で生まれ育ったなら、地元が被災しても、休学して帰郷しここまで活動していなかっただろうと思います。西原村でたくさんの人や環境からいろんな恩恵を受けて育ってきたから、大切にしたい、守りたいという思いを強く持ったのだと思います。
 それはきっと私だけではないと思います。西原村では発災直後、倒壊家屋に閉じ込められた人を自らチェーンソーやジャッキを使って助け出す住民の方々や、孤立した集落の道を重機であける住民の方々の姿がありました。地域をまわってニーズを収集して災害ボランティアセンターに報告しに来る方もいらっしゃいました。地域の人が家族か親戚のような存在で、地域の風景の中に自分の暮らしがあるから、大切にしたいし動くのだと思います。

 西原村での活動の中で出会った住民の方とおしゃべりしていると、「あんた寺本さんとこの娘さんね~!私はあんたが赤ちゃんのときから知っとるばい。抱っこもしたし、子守もしよった。なんね、もうこんなに大きくなったとね。私も年とるはずね~」などと言われることがあります。私の父が西原村で農産物の直売所をやっていることもあって、たくさんの人が私のことや私の家族のことをよく知っています。これまで私は知らなかったけれど、私や家族のことを知っている人、お世話していた人に出会えて、感動するような気恥ずかしいような…。
 地域の人々から育てられ、見守られ、助けられ、今の自分がいることを実感します。そんなたくさんの人々が織りなし、まわっていく地域、この西原村をあらためていいなと感じます。

(産直コペルvol.22  「田舎で働く若者」より)


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