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特集IPM  食の安心安全をIPMで

長野県長野市松代町で農業を営む関川晃さん(54)。6年前に実家のある長野市松代町で就農し、現在は「IPM」の考え方を率先して取り入れた、減農薬、減化学肥料でトマト、キュウリなどを中心に多品種の野菜を栽培している。
「IPM」の実際の効果と、関川さんの農業に対する考えを聞いた。

「総合的防除」のあり方



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 関川さんの農業は、トマトやキュウリ、葉野菜等の施設栽培が中心。約10a、約8a、約12a、約2aのハウス4棟と、新しく借りた約7aのハウス1棟がある。その他、水田が43a、季節野菜など、多品種多品目を栽培する圃場があり、年間を通して栽培が行えるよう計画しているという。近隣の直売所をはじめ、加工品原料としても出荷している。
 「いろいろな考え方がありますが、私の場合、化学合成農薬を完全に否定はしません。でも多くは使いたくない。 JAS有機の規格でも使用が許可されるような、天然由来の農薬を予防的に使っています。特効薬的な効果は無いけど、いろいろな防除方法を組み合わせることで、施設栽培であっても、化学合成農薬を大幅に減らすことができます」
 現在、関川さんが実践している防除方法は、ざっと20近くにのぼる。
 


予防的防除で 労働負担も軽減



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 実際のトマトハウスを案内してもらった。
 ハウスの周りには、赤色の防虫ネットが張り巡らされ、ハウスを覆うビニールは、 UVカットフィルムだ。「赤色」のネットを用いることで、トマトやキュウリの大敵となるアザミウマの忌避効果がより高まるという。 UVカットフィルムは、紫外線による作物の肌や葉の痛みを抑えると共に、虫の飛来を抑え(※虫は紫外線で方向感覚を掴むといわれている)、病害虫の発生を予防する効果があるそうだ。
 中に入ると黄色の粘着シートがずらりとぶら下がる。8aのハウスに約150枚、これで害虫の発生状況を観察すると共に、物理的な捕虫用としても効果を発揮する。また、循環扇を4台入れ、温度・湿度のムラを無くしている。これにより、トマトに発生し易い灰色カビを大幅に減らすことができたそうだ。
 さらに、土壌には、嫌気性堆肥と微生物資材を投入している。以前は父親の農業に倣い、土壌消毒を行っていたそうだが、検査をしたところ、こうした土づくりにより微生物の多様性が増していることを発見。土壌消毒を止めてから3年目、トマト栽培で大敵の青枯病は、ただの一度も出ていない。品種も耐病性品種を選定、キュウリやトマトには病気に強くするため台木を用い、さらに耐病性を高めている。
 「5年前に比べて、農薬代(農薬といっても、 JAS有機の規格でも認められた生物由来のものが多い)は7割位にはなったんじゃないかな。自分自身の技術が向上してきたこともあると思うけど、収量も品質も上がっています。バランスよく、総合的に農業を捉えることが大事なんだなと実感しています。経済的にも労力的にも、大分負担が減りました」
 


安全安心を求めて 実践する「IPM」



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 「IPM」の考え方を知ったのは長野県が主催する新規就農者向けに開催された「ニューファーマー講座」がきっかけだったそうだ。県の専門技術員から様々な防除方法を学び、自身の圃場で実践していった。
 もともと、就農するきっかけは7年前、専業農家だった父・哲男さんが急逝したことだったという。「清野は千曲川が作ってくれた肥沃な土地、いのちが育つ場所だ」と口癖のように話していたという哲男さん。その思いを受け継いで、翌年、会社員を辞め、農業を継いだ。農業歴50年の母・はつ子さんと、奥さまである民枝さんと一緒に、試行錯誤で始まった農業だったという。
 「もともと安全安心な農産物を届けたいという思いはありましたが、ニューファーマー講座で『IPM』の考え方を知ってから、方向性が定まりました」
 もともと、会社員時代は、健康食品や医薬品を扱う企業の品質保証部にいたという関川さん。日々、製品の安全性や品質を見定め、それを担保するために必要な事柄と向き合ってきた。「IPM」は、その頃学んだ考え方に「通じるものがあった」そうだ。



環境に配慮した農業を



 現在、ナガイモ、水稲、キュウリ、トマトで長野県の特別栽培の認証制度である「信州の環境にやさしい農産物認証」を取得。慣行栽培に比べ50%以上、化学合成農薬・化学肥料を減らした農産物として販売している。
 「施設栽培という特性と今の私の技術では化学合成農薬をゼロにはできません。でも、いろいろな防除方法を総合的に実践していくことで、化学合成農薬や化学肥料を極力減らしていくことができる。だから、日々、圃場の観察は欠かせません」と関川さん。
 「食の安全安心」は、生産者の日々の努力と工夫の中で作られる。「IPM」は、農業経営と食の安心安全を両立させていくための、ひとつの有効な考え方だといえるだろう。




(産直コペルvol.22掲載  特集IPMより)

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