全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

第14回全国農産物直売サミット

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 全国の直売所関係者が一堂に会する第14回全国農産物直売サミットが10月22―23日、秋田県を舞台に開催され、総数400名が参加して直売・加工事業の課題と展望について熱い議論を繰り広げた。今回のテーマは「新たなニーズに応え、地域の未来をつくる直売所」。一日目の全体シンポジウムと分科会、秋田の食と地酒を満喫した交流会、二日目の4コースに分かれた直売所視察などを通じて、直売所・加工所の情報や意見の交換と相互交流の人脈づくりに大きな成果があった。
 品揃え・冬場対策・高齢化対策・加工や農家レストランへの展開など、論点は多義に及んだが、「あきたびじん」のお国柄、陽気で元気で美しい母ちゃんたちの活躍とその工夫と苦労に焦点を当てた活動報告と議論がなされたことが最大の特徴だった。
 現在、全国で直売所の全体としての数的増加の半面で、大型店舗と古くからの中小型店舗との売上額などの格差が広がっている。その中で、どの店舗も売上げのアップが問われているは当然だが、それを売上げ至上主義の視点ではなく、あくまでも「人と人との繋がり」を重視し、農家や販売員の「人間力」の向上につながるかたちで目指すことが重要であることが浮き彫りになったサミットだった。


陽気な母さんたちの挑戦



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 秋田県大館市にある「陽気な母さんの店」は、平成13年に女性農業者13名で事業を開始した。
 「父さんたちは、作るの(栽培)頑張ってるけど、売るのは農協任せ。これでは儲からないと思った」。同店の代表を務める石垣一子さんはかつての心境を語る。
 「母さんたちの得意なのは、売ること、交流すること。顔と顔をつき合わせて直売活動がしたい!」石垣さんらは平成9年に常設直売所を要望する会を設立した。
 しかし、農村の女性たちの声は簡単には父さんたちに届かなかった。大勢の女性が訴えた自分達の店を持ちたいという思いは軽視され、その夢はすぐには叶わなかったという。それでも「ここで諦めたらだめだ、次世代の女性のためにもどうにかして一歩進みたい!」と、彼女らはリース店舗を使っての直売所事業を平成13年に開始した。
 年間の作物計画を作り、1年目の売上げ目標として掲げた金額は1億円。
 「父さんたちには『バカ』と言われました。『100円そこらの物を売って毎月のリース料なんて払えない』とも。でも、1年目で1億4000万を売りました」。母さんらが得意な売ること、交流することに最大限力を発揮した結果だった。
 その後も、研修会の開催や、モニター会員を募っての新商品開発等、様々な挑戦を続けてきた陽気な母さんの面々。店舗のリース契約は15年。契約が終わる15年目の今年、陽気な母さんの店は株式会社として法人化し、新たな挑戦を始めようとしている。


道の駅を地域みんなの元気の拠点に



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 ふれあい直売十文字は、秋田県内直売所の中でも会員数・売り上げともにトップを誇る、道の駅十文字内の直売所だ。その前身は、直売所「安新鮮果」。平成10年に活動を開始した。
 そもそも直売を始めたのは、「子育ても一段落し、1日中家族以外と話さない日々が続く農村の女性たちの孤独を危惧したのがきっかけだった」と会長の鷹田芳子さんは語る。
 営業は週に1回土曜の午前中のみ、駐車場スペースを借りて30名でスタートした直売だったが、予想以上の人気を受け、その後、毎日の営業へと移行。「午前中だけ営業し、午後は畑仕事という日々でした」と当時を振り返る。
 そんな彼女らの頑張りが認められ、平成19年に横手市に新しい道の駅が設立されるのに際し、安新鮮果は「ふれあい直売十文字」へと名称を変更し、道の駅内で販売をすることとなった。
 現在、同駅では出張販売を強化したり、地域住民の習い事の発表の場を提供するなど、様々な取り組みを行う。平成21年には、その活動が評価され、秋田県農林水産大賞(地域活性化部門)を受賞した。地域活性化のために農業者だけでなく、住民や商業者が一体となって行ってきた活動が認められたのだ。
 「道の駅を、地域みんなの元気の拠点にしたいというのが、会社と私たち共通の願いです」と鷹田さんは力を込める。


直売所レストラン 成功のレシピ



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 「おうみんち」のお母さんと称される今西昌子さん。滋賀県のJAおうみ富士が運営する直売所「おうみんち」に併設するバイキングレストランで、スタッフ34人の先頭に立って切盛りしている、まさしくお母さん的存在だ。
 オープン当初は、「お料理が好き!」というだけの農家の女性5人で実務を任され不安と失敗の繰り返しだったが、今では地元の野菜を使用したオリジナルメニューで年間8,580万円を売上げるまでに成長し、地域住民にも健康と元気を与えている。キッチンの外でも、若手の育成や子供達に向けた食育イベントを率先して行い、忙しい毎日を送っている。
 朝8時、直売所に並んだ地元朝どり野菜を選び、その日のサラダや蒸し物などメニューを考え、客数を想定して買い出しを行う。今西さんの経験値が生きる仕事だ。
 「お客さんからキッチンの様子がよく見えるので、ばたばたとしている必死感が伝わって恥ずかしい一方、その頑張りに応援してくれるのかも」と今西さん。徹底しているのは、地域の食材を使って100%手造りすること。「日々のおかず」をコンセプトに常時70~80品のおかずが並ぶ。時には「余ったこの野菜、何かにできない?」という生産者からの依頼に応えて、一品を作ることも。料理を作ることが何よりも楽しいという。「1粒の種から育てる六次産業化」を推進している。


「福島」に来てほしい! 魅力伝える商品開発



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 「何もしなければ潰れてしまう。それが大前提でした」。道の駅こぶしの里を運営する穂積俊一さんは、これまでの取組みを振り返りながらそう切り出した。
 同店が道の駅としての営業を始めたのは平成18年から。福島空港沿線の振興拠点として位置付けられており、道の駅としては珍しい「県道」に面している。
 しかし、交通量の多い地域ではなく、もともと観光資源に乏しい上、特別産地化が図られた作物もなく、特徴的な商品もなかった。そこで、穂積さんが店長となってからは、大型資本と競合せず、玉川村という中山間地であっても戦える方向性を探っていったという。
 「さるなし」がそのひとつだ。キウイフルーツの原種ともいわれるさるなしを、玉川村の特産に位置づけ、ジュースなどの加工品を次々開発。そして、トマト、空芯菜など、柱となる農産物の産地化を図り、他には無い商品開発を行っていった。
 また、消費規模の小さな地元だけでなく、都市住民への販路を念頭に置き、出張販売なども進んで行っている。地産「他」消を実践する穂積さんだが、その根底には、「福島県玉川村の魅力を広く伝え、福島に来てほしい」という思いがある。震災後は特に、その思いを強くし、現在も精力的な活動を続けている。


伝統の「石川そば」を中心とした村づくり



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 農産物直売所「おらほの館」は、平成10年に開設し、56名の会員が農産物の直売だけでなく、加工体験などの事業も行っている。商品の中心として位置付けているのが、同店が建つ秋田県八峰町石川地区の伝わる「石川そば」だ。その歴史は300年を越えるという。その特徴は、そばのつなぎに「豆乳」を使うこと。全国的にも珍しい伝統的な製法で、ほんのりとした甘味を感じられるという。
 しかし、この「石川そば」を食べられる場所は地域内に少なく、「多くの人が石川そばを食べられる場所をつくろう」と、同店で食堂の設置を進め、平成14年に、石川そばが手軽に食べられる食堂を開設した。
 それに伴い、石川地区でのそば生産も進み、そばを中心とした「そばおやき」「そばサブレ」といった商品開発も進んだ。伝統的な石川そばを中心としたむらづくりが、様々な形で花開いていったという。また、それだけでなく、同店は、小学生に「石川そば」を伝える取組みも行っている。
 「伝統食の商品化は、難しさもある。しかし、伝統は単純に続くものではなく、続けるための行動の結果が『伝統』となる。未来に伝えることで、その価値を創造していくことができると考えています」と福士さんは語った。


「産品」を「商品」に!
―栽培技術の特化と店頭での情報発信



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 産直新聞社は、エプソンと共同して、ラベルやPOPの改善による売上げ向上について3年間にわたり研究してきた。本年からは、長野県はじめ全国各地の直売所加工所の賛同を得て、その研究成果を報告し、販売力を強化するためのラベル講習会を県単位で開催している(長野県・山梨県・群馬県・福岡県。11月以降滋賀県、秋田県、広島県で予定)。
 カラーラベルを商品に添付することは、消費者の注目を引き、販売力を上げることに顕著な効果がある。しかし、(1)ラベルを貼る農産物や加工品自体が、品質が良く、栽培方法や加工方法にこだわりがあること(特化・個性化)、(2)販売する場所の客層の分析を踏まえて、どういう客層を購買者として設定するかが明確であること(ターゲティング)、(3)自分のこだわりや農産物・加工品の特徴・ウリが、ネーミング・キャッチコピー・デザイン・説明文などで平易に・かつ確実に伝わるようになっていること―などが大切で、これなしには、いくらラベルを貼っても効果は望めない。
 また、直売所などでのラベルやPOP講習会も、単に作り方教室としてではなく、生産者自身が客層を分析し、自分の商品力を分析する力を付けるマーケティング教室として実施することが大切だ。直売所の販売力は、結局、そこに集う「人」の力に尽きる。


直売所=「顔が見える場所」のネットワーク的つながりを



 今会の秋田サミットでの議論の特徴は、活動報告した秋田県大館市の「陽気な母さんの店」、同じく横手市の「ふれあい直売十文字」を先頭に、秋田県内の多くの直売所が、女性を中心にして、地域の農業の活性化・人と人との繋がりの核となって発展し、今も確固としてその位置を占めていることが浮き彫りになったことである。
 特徴ある農家レストランの取り組みを紹介した滋賀県のJA「おうみんち」、加工品開発と地産「他」消で実績を上げる福島県の「こぶしの里」からの他県からの取組み紹介、また分科会での「石川そば」での村づくりを進める秋田県八峰町の「おらほの里」、さらには、ラベルなどによる商品力アップを論じた産直新聞社の報告も、直売所は地域づくり・人づくりの拠点であるべきだ―という考えた方が基本線であり、「陽気な母さんの店」「ふれあい十文字」の問題提起をそれぞれの立場から受け止めて議論が展開された。報告だけでなく、全体の議論もそれが基調となった。
 全国的に直売所のみならず、スーパー・量販店・デパートなどで「地場産野菜」「産直野菜」が人気を博している現在、そもそも直売所とは何か?その社会的役割は何か?を深く考察し、自覚的にその役割を果たしていくことに存在意義をかけている直売所が多くなっていることの表れであると言えよう。そうした直売所が各地域で、また全国で、ネットワークを拡げ、強化していくことが、転機に立つ日本農業の明日を切り拓くに違いない。

(平成27.12.22 産直コペルvol.15より)
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