全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―
WORLD REPORT in EUROPE vol.3
わたしは産直新聞社の大家で、キャリコという小さなIT会社を経営している。わたしの会社の2階が産直新聞の編集室という間柄だ。8月に独仏のオーディオ仲間を訪ねる旅をしたついでに、ちょっとだけ野菜などについて見聞きしたことを寄稿させていただく。今回はフランス旅行第2弾だ。
プロバンスの村
プロバンスの大地は一見乾燥しているようだが、じつは水が豊富で、コレンの農地も澄み切った小川がいたる所に流れていた。小川は自然のままで日本のようにU字溝などのコンクリートになっておらず、水辺の草には琥珀色の羽の小ぶりな川トンボがいて絵になる風景だった。村の中心部にはやや大きな川が流れていて、野菜を洗ったり洗濯したりするための共同の水場があった。川の水は少しヒスイ色がかっていて、ミネラルがかなり豊富な印象を受けた。大地もミネラルが豊富で、おそらく日本とはかなり栽培条件が異なるのだろう。
フランスは原子力発電を推進していて、福島の原発事故を機に脱原発を決めたドイツ人たちから「フランスはドイツ国境に原発を作ってけしからん」と非難されている。ドイツ人はアルカイダなどが原子炉を攻撃することを真剣に恐れているからだ。そんなフランスなので自然エネルギーへの関心は低く、ドイツでは林立していた風力発電機もソーラーパネルもわずかしか見なかったが、コレン村の酪農組合のプラントは屋根全面が太陽電池パネルで覆われていて、おとぎの国のような古い村の佇まいと奇妙なコントラストをなしていた。村の中心部も道行く人はわずかで、観光案内所も閉まっていた。どうも平日のコレンでは農産物はおろか、小さなカフェの飲み物以外は買い物ができないようだ。
にぎやかなニースへ
閑散としていて食事に入るレストランも見つからなかったので、プロバンスのドライブは早めに終わってしまった。そこで、昼飯抜きで南東へ100キロほど足を伸ばし、ニースまで行ってから昼夜兼ねての食事をとることにした。産油国から来たと思われるアラビア文字のナンバーを付けた超高級車に気を使いながら高速を飛ばしてニースに着くと、大変な渋滞の中での駐車場探しとなってしまった。
それでも、東京に慣れている日本人にとっては大した混雑ではなく、美術館の地下に駐車して海へ向かって歩いた。コートダジュールと呼ばれる地帯の海は、たしかに紺碧で青のグラディエーションが美しいのだが、のどかなプロバンスとは大違いの騒がしさで、みやげ物店がひしめく旧市街の狭い通りは観光客でごった返していた。ビーチで見つけた気持ちよさそうなレストランは高級だったが、メニューにはコートダジュール名物のブイヤベースがなかったので、シンプルに魚を焼いた料理をパラソルの下で食べた。ビーチは丸い石ころだらけで砂がなく、日光浴をする人やビーチバレーに興ずる人などでにぎやかだった。
男性にもらったトマトはとても大きく、色も赤が少し浅かったので味はそれほど期待していなかったが、翌朝ホテルで食べてみると、意外な食味で関心させられてしまった。なんというか、マッシュポテトのような少しザラッとした舌触りがして、フルーツティーな日本で流行りのトマトとはまったく逆の方向性で、「これは米やイモの代わりに主食として食べられる」と思った。
日本のトマトは甘くて好きだが、ちょっと青臭いのと酸味が強くて味が濃すぎるので、たくさん食べるのは苦手なのだが、コレンのトマトは腹いっぱい食べても平気で、味にも香りにもまったく不快なところがなかった。野菜不足の旅行者には最高の朝食だ。このトマトとミントをビニール袋に入れ、バッグに押し込んで数日持ち歩いたが、日本のトマトよりはるかに丈夫でほとんど傷まなかった。もっとも、それは一緒にもらったミントの効果だったのかもしれない。
自家製のラタトゥーユ
フランスは料理大国でレストランは豊富なのだが、それでも圧倒的に肉料理が多く、野菜料理が少ない。このことは世界中の外食に共通している。メニューにある野菜料理といえば断然サラダが多いのも共通点だ。だから、日本の外食で野菜の煮物を探すのが大変なように、フランスでも旅行者が家庭風の野菜料理を食べるのは難しい。そこでパリ在住のオーディオ愛好家ジョンシェリー氏のお宅を訪問させていただいたとき、奥様に伝統的なレシピによるラタトゥーユを作っていただいた。ラタトゥーユはたっぷりの夏野菜を炒め煮したもので、ローストしたラム肉といっしょにいただいた。
じつは、日本のフレンチ・レストランでは案外ラタトゥーユがポピュラーでメニューに載っていることが少なくないのだが、大振りの野菜がゴロゴロした見栄えの良い外食風のレシピで、写真のように家庭で作られる伝統的なレシピとはかなり異なる。このように外食と家庭で同じ料理が別物のようになるというのも、洋の東西を問わない共通点である。いただいたラタトゥーユはやさしい味で、これとパンだけで十分だと思いつつ、1ビットのデジタルオーディオについての議論に花を咲かせた。
(文・有限会社キャリコ 代表取締役 小林 正信)
(平成26.3.11 産直コペルvol.4より)