地元、信州の農・食・暮らしを発信 ―さんちょく新聞より―

農の歳時記コラム 田の神さまへのお供え

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 今、日々の暮らしの中で、「神さま」を意識することがどれくらいあるだろう。
 かつては、田植えの際に1年の豊作を願って田の神さまにお供えする、という風習は各地で見られたという。今よりも田植えが遅かったため、5月下旬から6月中旬が田植えの最盛期。供えるもの、供え方は地域や家によっていろいろで、お膳や箕を用いて、神棚や田んぼの水の取口、畔などにおむすびやお神酒、苗などをお供えしたそうだ。
 田植えのはじまる日に供える地域もあれば、田植えが終わったあとに、手伝ってくれた人達と一緒に宴会も兼ね、お供えをした地域もあった。田植えが終わった後のお供えと宴会を、「おさなぶり(早苗饗)」と呼ぶ地域もあったという。今でいう「打ち上げ」だ。現在、お供えの風習が残る家や地域は少ないが、一仕事終えた後、これから始まる本格的な農繁期に向け、英気を養ったというかつての暮らしを聞くと、今も昔も、感覚的なところは変わらない。
 近所や親戚中で一斉に田植えを行うことが多かったため、この田植えが各家々で一段落すると、「農休み(田植え休み)」の触れを出して、お祝いにお餅などを配ったり、里帰りしたりしていたそうだ。農繁期の間の、束の間のお休みだった。


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 さぁ、田植えを済ませ、農休みが終わると、いよいよ信州にも夏が来る。「今年も豊作を」と田の神さまに願った思いを抱きながら、日々の農作業に励む。山に囲まれた信州の暮らしは、神さま達が、とても近い存在だったのかもしれない。
 信州の自然や人々の暮らしのふとした中に、神さまに願った先人達の思いが宿っていると思うと、現在の日々の暮らしや食の大切さが、より感じられるような気がする。
(参考文献:聞き書 長野の食事)

(平成28.7.4 産直新聞第93号より)
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