地元、信州の農・食・暮らしを発信 ―さんちょく新聞より―

梅しごと、あれやこれや。

タイトルなし

梅が採れたら「梅しごと」。梅漬け、梅酢、梅干し、梅酒……農家にとって、初夏に採れる梅は、夏場の暑い農作業を乗り切るための栄養源であり、冬の寒い頃まで食べられる貴重な保存食でもありました。かりかりとした食感を楽しみたいなら青梅を、梅干などぽってりとした甘みと酸味を楽しみたいなら黄色く完熟した梅を。小梅、中梅、大梅とサイズもさまざま。昔から日本人は、初夏から夏にかけて、せっせと梅を仕込んできたものでした。
 〝何年もの〟の梅酒や梅干がある家も、今では少なくなってしまったかもしれません。それでも、現代の生活に残していきたい「梅しごと」が、農産物直売所ならきっとあるはず。各地を巡り、「梅しごと」の思い出や、レシピについて、あれやこれやと聞いてきました。


梅漬け



教えてくれた人 みたけグルメ工房(木曽町) 西尾礼子さん
タイトルなし
塩を使わない乳酸菌発酵の漬物、すんき漬をはじめとする独特の漬物文化が残る木曽地方は「米を貸しても塩は貸せるな」という言葉があるほど、塩が貴重な地域だったといいます。そのなかで「梅漬け」は、ごはんのおかずや、体調が悪い時の簡易的な薬代わりとして重宝され、「昔は梅を漬けない家はなかった」というほど、一般的な梅仕事だったそう。そのため、木曽の梅漬けは塩で漬けたものが多く、あとから砂糖漬けが出てきたそうです。西尾さんにとって、梅といえば、旧三岳村(現木曽町)の日向地区で、300年の歴史があるという在来品種「三尾紅梅」。塩漬けに適した品種でもあるそうです。
 「漬けたときに塩が足りないのか、たまに梅が溶けちゃうことがあってね。不幸の前触れだとか言われるから、漬けるのが怖くなっちゃったよ」と西尾さんは笑います。傷がつくのをいとわず、ギリギリと塩で強く揉むことがポイントだそうです。

タイトルなし

 「漬けた梅はカビも生えず、何年たっても腐らず食べられるよ」と西尾さん。昔は、味噌蔵に毎年10~20キログラムの梅を漬けていたといいます。「食べきれるわけないよね。10年経っても食べきれなかった」と懐かしそうに話してくれました。地域から出た人たちに送ったり、お土産に持たせたり、木曽地方の農家にとって、梅を塩で漬けるという「梅しごと」は、毎年欠かすことのできないものだったそうです。
 「三尾紅梅」は、実も真っ赤になる梅。小ぶりな実に対して種が大きく、味が濃いのが特徴です。昭和32年頃、木曽地域ではこの「三尾紅梅」の栽培が盛んになり、一時米の価格を上回るほどの一大産業に。木曽地域の農家の生活を支えてくれた梅でもありました。しかし、その後他の品種に押され、今では旧三岳村の日向地区でしかほとんど栽培されていないそうです。西尾さんはこの「三尾紅梅」を加工し販売することで、今でも「三尾紅梅」を大切に守り伝えています。

―梅漬けの作り方―


材料
●梅 ●塩 ●水

作り方
梅漬けの梅はもいですぐの物を。基本的には熟したものより硬い物を使う。

(1)梅はさっと水へ入れてザルへあげる。この時に浮いた余分なゴミを捨てる。
(2)水からあげた梅を2%の塩で力強くギリギリともむ。
(3)たっぷりの水に梅を入れあくをとって、水からあげる。
(4)再び2%の塩でギリギリと強く揉む。強く揉むことで塩が中に入っていく。
(5)清潔な容器に入れ重しをおく。
(6)シソの葉を入れて色を付ける。
(7)漬けて1週間程で食べられる。

梅酒


教えてくれた人 みたけグルメ工房(木曽町) 西尾礼子さん

タイトルなし


西尾さんによれば、梅酒は梅漬けよりも簡単に作れるといいます。「お嫁に来たばかりの時は、梅漬けの塩揉みが難しくて。梅を傷つけそうでやだって思ったらうまくできなかったの。その代わりに梅酒は私の担当だった」。そう話す西尾さんは、毎年一斗もの量(一升瓶10本分)の梅酒を漬けていたそう。当時はお砂糖も高価で梅酒を作る家は少なく、近隣の人が西尾さんのお家へ梅酒を飲みに来ていたといいます。
 「10年、蔵で寝かせた梅酒はべっこう色になってね、本当に美味しくて忘れられない」と西尾さん。漬けた梅酒は、アルコール度数の高い焼酎と梅のおかげか不思議と腐らず、カビも生えず、虫も入らず保管できるそうです。
 甘さはお好みで。ちなみに西尾さんのおすすめは500g。「いろいろ試したけど砂糖500gが一番おいしい」そうです。お酒が好きな人は、お砂糖を少し控えて、300~400gにしてみてもいいとのこと。梅は2カ月くらいで取り出す人もいるそうです。「大きな青梅で作るのが一般的だけど、三尾紅梅で作った梅酒は味も濃くて美味しいよ」と西尾さん。梅の品種を変えて作ってみるのも、手作りならでは。今年漬けたものが、来年、再来年の自分へ美味しい梅酒を届けてくれると思うと、時間をかけてみるのも楽しいかもしれません。

―西尾さんの梅酒の作り方―


材料
●梅1kg ●焼酎(35度)1升
●砂糖500g(氷砂糖ならなお良い)

作り方
(1)梅は洗ってへたをとる。
(2)清潔な剣山や包丁で表面に傷をつける。(味が出やすくなる)
(3)清潔な密閉できる瓶に梅1kg、35度の焼酎1升、砂糖500gを入れて漬ける。
(4)漬けた梅は1年くらいで取り出す。
(5)おいしく飲めるのは1~2年置いてから。(早い人は半年くらいで飲むそうです)

梅酢


教えてくれた人 JAみなみ信州農産物直売所
JAみなみ信州女性部(飯田市)西塚洋子さん・池本せつ子さん


タイトルなし

「竜峡小梅」と「飯田小梅」が有名な飯田市。梅の時期には、飯田の梅を求めてお取り寄せの電話がくるそうです。そんな梅の産地・飯田市にあるJAみなみ信州女性部の方達に教えてもらったのが「梅酢」。一度作っておけば、調味料としていろいろな料理に使えます。そのまま酢の物や煮物の隠し味に使ったり、煮魚に使ったりすると魚が柔らかくなって美味しいそうです。水や炭酸水と割ってジュースにしたり、醤油と割ってドレッシングにも。
 梅酢を作る場合は、大玉の青梅を使うと苦みが出るそうなので、小梅を使うのがおすすめだそう。割ってジュースにもする場合は、「あまり酸っぱい酢を使うと飲めなくなっちゃう」と西塚さん。酸味の少ないお酢を使った方がいろいろな楽しみ方ができるといいます。ちなみに、酢の作用でシソを入れても色がつかないので、シソは入れません。
 JAみなみ信州農産物直売所およりてふぁーむでは、5月の終わりに梅漬け講習会を開催することが毎年の定番になっているそうです。講習会では、JAみなみ信州女性部の方が作った梅レシピを教えてくれます。今回講習会で配られた資料には、カリカリ漬けやぽったり漬け、梅味噌などさまざまな梅しごとが紹介されていました。JAみなみ信州女性部の方は毎年試行錯誤を重ねながら美味しいレシピを考案しているそうです。また来年の梅漬け講習会にはどんなレシピが増えているのか楽しみですね!

タイトルなし
JAみなみ信州女性部による梅漬け講習会。この日も大勢の参加者が熱心に講習を受けていました

―梅酢の作り方―


材料
●小梅……………1kg
●米酢……………1.8L
●氷砂糖…………1kg

作り方
(1)小梅は洗って水に3~4時間漬ける。
(2)ざるにあげて水気をきる。
(3)広口瓶に小梅・米酢・氷砂糖を全部入れる。
(4)3カ月くらいしたら出来上がり。


梅干し


教えてくれた人 企業組合 農の花(小川村)金木政子さん

タイトルなし

「日本で最も美しい村」連合に加盟し、日本の里100選にも選ばれている小川村は、長野県北部 長野市と白馬村のほぼ中間に位置する村です。小川村の梅栽培は、村の産業を支える果樹として麦畑の転作により増加し、今も生活に欠かせない果樹として大切に守られています。
 金木さんに梅干しについての思い出を伺うと「20年くらい前かな、気候のせいかカリカリ梅が上手にできなかったことがあって、なんとかして梅を美味しく長持ちさせたいと思って梅干しを作るようになったの」と話します。食材を無駄にせず気候や時代の変化に合わせ知恵と工夫を重ねながら今も小川村の「梅しごと」を守っています。
 さらに、「梅干しに使う梅はすべてこの近辺、西山地域で採れた白加賀を使用しています」と金木さん。白加賀の実は大きく肉厚で繊維が少ないので、梅干しに適しているのだとか。また、梅干しに使うシソの葉も小川村産。始めたころは加工する梅1トンに対して100キログラムという大量のシソの葉を集めるのが大変で苦労したそう。「シソの葉は70代の人が頑張って一人で作ってくれているの。本当にみんなの協力で出来ている」と生産者への感謝の思いも語ってくれました。
 「農の花」では、生産者が大切に育てた農産物を、手間暇をかけて丁寧に調理しています。地元産の食材にこだわった身体に優しい手作りの加工品は40種類を超え、その中でも金木さんらが造る梅干しは毎年生産量を増やしても品切れになってしまうほど、人気の商品だといいます。
 「減塩でも消費者が喜ぶ味をと思っています。塩分を取り過ぎちゃうと思うとたくさん食べられない。でもこれはしょっぱ過ぎず、大勢のファンがいます」小川村の人の温かさまで味わってほしい、そんな梅干しです。

―梅干しの作り方―


材料
●梅………5kg ●水………1L
●塩………700g(梅の14%)
●酢………………………750cc
●砂糖……………………500g
●シソ……500g(梅の10%)
※シソは少々の塩で軽くもむとアクが出るので、水気を絞って捨てる。もう一度塩少々で揉むときれいな色がでる。好みで刻んでも◎

作り方
(1)梅に塩をよくもみこみ水をいれて、重しをする(3日以上)しばらく毎日底の方からかき回す。
(2)お天気の続きそうなタイミングをみて、梅を取り出し、1週間程度天日に干す。梅のどの面もまんべんなく日に当たるよう重ならないように干し、毎日かきまわす。
(3)ひたひたの熱湯に2時間いれて、塩抜きをする。ザルに上げて冷ます。
(4)シソの葉と砂糖を、梅と層になるようにして桶にいれ、酢を入れる。約3週間ほどで美味しく頂ける。

さらに!いろいろな梅しごとに使えるシソの入れ方も教えてもらいました!



●赤シソ……
 梅1kgに対して100g~1 300g(お好みで)
●塩……
 赤シソの5~20%くらい


(1) 赤シソを洗ってボウルに入れ  塩で揉む。
(2) しんなりしたらアクのでた汁  を絞って捨てる。
(3) (2)に漬けた梅から出た汁を少  し加えて揉むと色がでる。出  た赤い水と共に梅の中へ入れ  る。シソ をたっぷり使い梅の  間と上にいれるのがコツ!

(平成30.6さんちょく新聞第98号より)

さんちょく新聞とは

長野県内の直売所情報に特化した季刊(年4回)のフリーペーパーです。直売所や道の駅で見かけたら、ぜひ手に取ってみて下さい。「産直コペル」をご購読いただくと「さんちょく新聞」が同封されます。併せてお楽しみ下さい。

記事一覧