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信州全域で歴史的大雪直売所のネットワークで雪害を乗り越えよう!〜その1〜

大雪による被害と今後の対策について直売所と生産者に聞く



あさつゆの生産者のハウス。すさまじさを物語っている
あさつゆの生産者のハウス。すさまじさを物語っている

 今冬は、関東甲信地域を中心に歴史的な大雪に見舞われ、各県で大きな被害が出た。農業への被害は甚大で、4月21日付けの県農政部の集計によると、被害額は記録が残る1975年以降最大の92億5627万円。2月8、9日と14日〜16日の2度の大雪による農業被害額を合算した金額だ。

 被害は、雪の重みによるパイプハウスの倒壊に集中しており、生産施設被害だけで被害額は全体の95・3%にあたる85億6242万円に達する。復旧用農業資材が不足する事態も生じており、農家に与えた被害の大きさが改めて浮き彫りになっている。

 また、ハウスの倒壊に伴う内部の野菜や花キなど農作物の被害は25.58haで発生し、被害額は3億9812万円。樹体への被害は9.1haで2441万円、畜産物・水産物への被害は1229万円だったとまとめた。
 県内の69市町村全てで被害が出ており、最も被害額が大きかったのは、佐久地域で23億9949万円。次いで諏訪15億1811万円、上小12億9288万円、長野11億9381万円と続いている。

 市町村別では、佐久市8億5673万円、諏訪郡富士見町6億6574万円、中野市6億3415万円となっている。被害額が1億円を超えた地域は、22市町村にものぼった。
 県下直売所の生産者も被害を受けており、春夏野菜の種まきシーズンを目前に栽培計画の見直しなども必要な状態だ。
 大雪による被害と今後の対策について直売所と生産者に聞いた。


辛い時こそ助け合う生産者の絆で雪害を乗り越える



上田市丸子農産物直売 加工センターあさつゆ 伊藤良夫組合長



 上田市全体の被害額は、6億円を超えており、1335棟の生産施設が損壊した。あさつゆの生産者のハウスも多く損壊しており、面積は、4076平方メートルにのぼった。

伊藤組合長
伊藤組合長

 伊藤良夫組合長は、「想定外の雪に、多くのハウスが潰された。大雪に対する脆さが明るみになった。道の不通や天気予報の狂いなど、様々な要因が重なって、今回のような結果になってしまった」と話す。

 予報では、15日の朝9時には、雪が雨に変わるという予報が出ていた。この予報により、「雨に変われば大丈夫だろう」と考えた農家も多かった。しかし実際には、15日の10時が降雪量のピークになっており、全くの予報ハズレという結果になった。

タイトルなし

「ハウスのパイプを守るには、ハウスのビニールを切るという方法がある。しかし、農家としては、極力切りたくない。雨予報がこのビニールを切るという判断を遅らせた」と伊藤さんは振り返る。
 更に、道は雪で不通になり、ハウスまで歩いていくしか方法がなかった。ハウスが分散している人は、全てのハウスの雪かきをするということは、諦めるしかなかった。

タイトルなし

 しかし、「甘さもあったのかもしれない。大雪という予報に対して適切な判断、対応をしていれば、結果はもう少し違っていたかもしれない」と伊藤さん。
 経験がなかったという難しさはあるが、大雪に備えて、ハウスの中に支柱を立てることを生産者に呼びかけるなどの方法はあったのではないか、と悔しさを覗かせる。

 あさつゆは、大雪のあとにすぐに理事を集めて、緊急会議を開いた。そこで、生産者に対して、見舞金と貸し付けを行なう事を決めた。「落ち込んでいる生産者に少しでもやる気になってもらいたいと考えた」と話す。見舞金は53人を対象に計108万2000円が支払われた。

 この他にも、あさつゆでは、倒壊したビニールハウスの撤去なども生産者の有志を募って行なった。「20人くらいいれば十分」と呼びかけたが、30人程集まることもしばしば。同直売所の生産者同士の強い絆が感じられる。
 「何故、こういう結果になったかを皆で考え来年以降に生かしていきたい。忘れてはいけない災害だ」と伊藤組合長は前を向く。


知恵を出してハウスを強化



あさつゆ生産者竹花友一(81)さん



竹花さん
竹花さん

 ハウスの損壊被害が相次いでいる中、損壊を防いだ人もいる。あさつゆの生産者である竹花友一さん(上田市荻窪)もその1人だ。竹花さんは、30aほどの畑で、トマトやキュウリ、レタスなどの野菜を栽培している。ハウスは全部で4棟。大雪当時は、ハウスでレタスなどの葉物を栽培していた。

 「2月14日の夜10時から12時位まで1回目の雪かきをしました。息子も手伝ってくれて、助かりました」と竹花さんは話す。明け方には、2回目の雪かきを行い、竹花さんのハウスは4棟とも持ちこたえた。雪かきはもちろんだが、竹花さんのハウスが倒れなかったのは、雪対策に行なっている支柱の効果が大きかったという。

太い木材を使って支柱を作った
太い木材を使って支柱を作った

 竹花さんのハウスには、短い間隔で支柱が入っている。「この間隔を狭くしたことで、より上からの力に対して強くなった」と語る。
 竹花さんは、使わなくなった木材などを支柱として活用しており、お金はほとんどかけていない。「工夫次第で、ハウスの強度はあげられると思います」と胸をはる。
 大雪に対しては、「事前にしっかりと準備をすることで、雪国用の太いパイプじゃなくても、強度を上げ、損壊を防ぐことが出来る」と話してくれた。


冬場に生産施設を使わないという災害対策ゆらり市



塚原昌城組合長



塚原組合長
塚原組合長

 大雪に見舞われながら、被災農家が少なかった直売所もある。東御市の直売所「ゆらり市」だ。
 「東御市は、ぶどうを始めとする果樹地帯。ハウスで果樹を作っている生産者も少なく、野菜のハウス栽培を少ない。そのため、ハウスを潰された農家は少なかった」と同直売所の塚原昌城組合長は話す。

 今回の大雪による被害は、殆どが、生産施設の損壊やそれに付随するものだった。いくら大雪が降ったとしてもビニールハウスのような生産施設を持たない農家は、ほとんど影響を受けていないという。果樹の枝が折れるという被害もあるが、全体から見るとほんの一部。塚原さんは「果樹は枝をしならせて、自分で雪から回避することが出来るので、大きな被害には繋がっていない」と話す。

 「人は、自然の力の前では無力。農業も自然の一部としてやることが大事。自然がもつ脅威を想定して、しっかりとした準備をすることが大事だと感じた」と語った。

(平成26.4.25 産直新聞第87号)
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