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鳥獣害対策その2 モンキードッグが担う自然との共生

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 「犬猿の仲」という慣用句を、そのまま実現した取り組みがある。それが、実際に被害を受けている農家等の飼い犬に、サルの追い払いの役目を担ってもらおうというものだ。その追い払い犬のことを「モンキードッグ」と呼び、現在、日本各地で約350頭(平成26年度農水省調べ)が活動している。その発祥の地が長野県大町市だ。
 平成17年に大町市で始まったモンキードッグの育成も、11年が経過した。山間の地域が模索した自然との共生が、どのように実を結んだのか、また今後の方針を、市の鳥獣被害担当者と、初代モンキードッグ「クロ」の飼い主、降旗正さん(85)に聞いた。


深刻な「猿害」からのモンキードッグの誕生



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 大町市は周囲を山々に囲まれ、長野県内でも鳥獣被害が深刻な地域のひとつだ。特に、大町市ではニホンザルの被害が最も多く、全体の約2割を占め、多くの農家を悩ませていた。
 そうした中、実際に被害に遭っていた農家から、「飼い犬がサルを追い払ってくれる」という声が市に寄せられた。これが、モンキードッグ誕生のきっかけになった。
 平成17年、まずは3頭の犬がモンキードッグとしての訓練を受けることになった。訓練を担ったのは、隣接する安曇野市で長年犬のトレーニングを行ってきた「安曇野ドッグスクール」だ。 
 モンキードッグの育成で特に留意されるのは以下の3点。

1、人や他の犬などに危害を加えない
2、サルを見たら追い払う
3、サルの追い払いが終了、または呼んだら戻ってくる

 サルの追い払いのため、係留を解き一時的に放し飼い状態となることから、上記の条件は必須だ。これらを徹底的に犬に教え込む。
 3匹のうちの1匹、初代モンキードッグ「クロ」の飼い主が降旗正さんだ。降旗さんが住むのは山間の泉地区。鳥獣被害が深刻で、苦労して防護ネットを張っても効果はなく、「ネットを張ってこれで大丈夫だと思ったのに、それでもやられた時は切なかった」と当時を振り返る。
 そうした中、訓練を終えて家に戻ったクロが、早速サルの追い払いを実施すると、約2か月でその周辺地域は被害が激減。実際、発信機調査でも、里沿いに生息していたサルが、犬を配置した後は奥の山に生息域を移しており、追い払いの効果が非常に高いことが実証された。


モンキードッグになるには



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 地域の理解を得ながら取り組みを進め、平成19年、法律では警察犬などにしか認められていなかった犬の放し飼いが、野生鳥獣の追い払いのためであれば特例的に認められることが明記されたことも活動の後押しとなった。
 現在、大町市では27頭のモンキードッグが活動している。初代のクロも未だに現役だ。毎年3、4頭、新たなモンキードッグを迎えて活動しており、いずれも農業者をはじめとした、山間地域に住む市民の飼い犬だ。被害地域の住民で「モンキードッグを育成したい」という意思があり、また中型犬以上であれば、概ね4か月の基礎訓練、1か月の現地訓練が受けられる。そのうち、基礎訓練費用については市が負担。万一、第3者への被害を与えてしまった場合に備え、保険加入も徹底しており、情報交換や飼い主同士の連携などを推進するため、「大町市モンキードッグ育成サポートクラブ」を結成、そこへの加入も義務付けている。


対策の複合化は必要



 しかし、モンキードッグを全ての地域に配置できている訳ではないため、被害抑制が局地的になってしまったり、また、飼い主がいなければ係留を解けず結局被害に遭ってしまったりすることもある。様々な課題もあるが、それでも、降旗さんは「被害が減ったのもクロのおかげ。クロの存在は大きかった」と心からの感謝の言葉をクロへ向ける。この地で農業を続ける上での大きな心の支えでもあるのだ。
 現在、市民によるモンキードッグで補えない部分は、専門家と共にテレメトリー(発信機による調査)を利用した追い払いも行っている。サルに発信機を付け、群れの動向や里への出没を随時監視、これにより追い払いの精度を上げると共に、サルの生態もより明らかになってきた。さらに猟友会による捕獲、森林整備など複合的に対策を進めている。また、近年では電気柵の設置が特に効果を示しており、設置箇所も広がっている。
 市の担当者は「モンキードッグの育成継続と共に、電気柵など様々な方法を活用しながら被害を抑えていきたい」と話す。こうした取り組みが功を奏し、平成17年以降、全体で約4000万円前後を推移していた被害額が、平成25年には約1600万円にまで大幅に減少し、それからは年々減少傾向にあるという。


これからも続くモンキードッグの挑戦



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 複合的な対策が効果を上げていることは確かだが、電気柵などの設置が進むようになったのはここ4、5年の間。降旗さんは「サルは賢い生き物。どこで抜け道を見つけてくるか分からない。犬による追い払いはやめられない」という。クロも14歳になり、昔に比べて動作も遅くなった。しかし、初めてクロがサルを追い払ってくれた時のことを、「それはもう、うれしかった」と、ついこの間のことのように笑顔で話してくれた。
 犬に追い立てられることで、「里は嫌な場所、行く場所ではない」とサルに思わせることが、モンキードッグの役割のひとつ。時代と共に曖昧になってしまっていた山と里との境界を、もう一度緩やかに生み出してくれる存在でもある。人と動物との共生を目指す山間の地で、モンキードッグの挑戦は、これからも続いていくことだろう。
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