全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

鳥獣害対策その1 鳥獣害対策の現状とこれから

タイトルなし

 信州大学(長野県)でニホンジカの食害や軽労的捕獲方法を研究する竹田謙一准教授に、鳥獣害の現状や、被害が大きくなった背景、今後の対策について、幅広くお話をうかがった。

編集部 農水省の統計によると、平成26年度の野生鳥獣による農業被害額は191億円。ここ数年でゆるやかな減少傾向にあるように見えますが。

竹田先生(以下敬称略) 一時より被害が減少しているのは事実です。鳥獣被害防止特別措置法により、広域的な対策の取り組みに補助金が出るようになったことが要因としてあるでしょう。これにより集落全体をフェンスで覆う、などの対策が各地でとられるようになりました。この対策が功を奏した結果が数字に表れているのでないでしょうか。
 ただ、減少したと言ってもいまだ年間200億円近い被害額があるのは事実。いくらか前進はしたけれど、本当に減る、というところまではきていません。
 加えて、この数字には林業被害は含まれていない。農業被害は現場をフェンスで囲えばある程度は減少させられますが、林業被害は難しい。被害者の声の大きい農業被害よりも自然環境の被害は対応が後手になっている面もあります。

タイトルなし

編 そもそもこれだけ鳥獣害が拡大してしまった背景について教えてください。

竹田 狩猟がさかんだった明治の頃は、獣の数が非常に少なくなった時代でした。もちろん当時は獣害もほとんどありません。野生動物が絶滅しないようにと、狩猟を規制する「鳥獣猟規則」という法律が作られたのもこの頃です。
 ところが、その後の里山利用の減少、耕作放棄地の増加にともない、動物の住環境が広がり、一方で捕る人は少なくなった。これらの両要因から、動物の数は爆発的に増加しました。気づいたときには今のような状況になっていたのです。

編 猟師の減少・高齢化も課題としてよく耳にしますが。

竹田 猟師は年々減少していましたが、ここ最近下げ止まっているんです。その一番の要員は、わな免許取得者の増加です。「防護柵だけじゃだめなんだ」という認識のもとで、農家が主体的に免許を取得しているケースが増えているようです。
 一方で銃免許に関しては、猟銃は殺傷能力が非常に高いので、所持するのに多くの規制があり、毎年検査もあります。事故が起きるたびに年々規制が厳しくなり、いくら被害が多くても規制がゆるむことはありませんね。これらの手続きが面倒で免許を手放す人もいます。

編 捕獲した獣を使って「ジビエで地域振興を」、という声も多く聞くようになりましたね。世間の関心も高いように感じます。

竹田 はい。捕獲数は年々増えていますし、食肉加工施設を作る際にも補助金が適応されるため、このような施設の数も増えています。ただ、現在は被害が大きいために通年捕獲が許可されている地域も多いのですが、本来の狩猟期間は基本的には秋から冬にかけて、と鳥獣保護管理法によって定められています。
 それが何年先になるかはわかりませんが、対策等によって被害が減少し、個体数調整の必要がなくなった時のことを考えると、「ジビエで地域振興」がどこまで持続性のある取り組みになるのかについては疑問もあります。

編 作った施設が活用し切れなくなってしまう可能性もあるということですね。

竹田 また流通面での課題もあります。一番は、「食品としての安全の担保がどこまでされているのか」という点でしょう。これに対しては、北海道のエゾシカ協会や長野県の信州ジビエ研究会が、独自の認証制度を作ることで肉の安全を担保する、という方法をとっています。
 加えて、捕獲方法においても、食肉流通を目的とした場合には、食べ物を捕るという認識で猟をしないと扱いがぞんざいになってしまいます。食資源化を目的とした猟と、個体数調整としての猟とをわけて考える必要があるでしょう。

タイトルなし

編 鳥獣害への対策としてはやはり、地域住民の主体的な行動がカギを握るのでしょうか?

竹田 最終的には住民が自主的に対策を講じるのが一番です。ただ、高齢化や過疎化の進む地域ではそれも難しい。例えば猿の群れが来たなら「追い払う」というのが最初の対策ですが、そういった地域ではそれをできる人がいないんです。こうしたケースでの技術はまだ進んでいないと言わざるを得ません。
 鳥獣害対策の現場においては、総合的に被害の現状をとらえ、自らの知識と経験から対策を立案するリーダーの存在が求められます。捕獲の現場においても、何が大変でどんな不具合があってどう解決できるのかは、実際にその場に足を運んでみないとわかりませんよね。杓子定規に物事をとらえるのではなく自分で状況を判断し考えられる人でないと、問題解決には至らないんです。

編 そういった役割を担えるのはどんな立場の人間だと考えますか?

竹田 やはり積み重ねた経験がものを言う世界なので、数年ごとに移動のある市町村の担当者レベルではなかなか難しいと思います。
 行政は農家からの相談を受け、それを猟友会に丸投げする、というのがこれまでの一般的なやり方でしたがそれでは限界があります。これだけ被害が拡大した以上、ある程度の科学的知識を持った専門家グループが自治体から認定され、その役割を担っていくのではないでしょうか。

編 竹田先生、貴重なお話をありがとうございました!


〈プロフィール〉



信州大学学術研究院農学系 竹田謙一准教授
研究分野は応用動物行動学・家畜管理学・アニマルウェルフェア(家畜福祉)・放牧管理・ニホンジカ食害・捕獲利活用等。現在、野生ニホンジカの軽労的捕獲方法を研究開発中。
産直コペルとは

全国の直売所や地域おこしの先進事例が盛りだくさん!「農と暮らしの新たな視点を探る」をテーマに、日本各地で地域おこしに奮闘する人々を取材した隔月発行の全国誌です。購読のお申し込みはこちら! 年間6冊3,300円(税・送料込み)です。

別冊産直コペル

手づくりラベルで農産物&加工品の魅力UP大作戦!
商品のラベルづくりにお悩みの農産物直売所、生産者、農産加工所の皆さま、必見の1冊!

バックナンバー

産直コペルのバックナンバーはこちら!

記事一覧