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学校給食その4 食育に直売所が果たす役割

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 生産者直売所アルプス市場は、長野県中部の松本市に店を構える完全民間の直売所だ。約10年前から近隣の塩尻市の学校給食に食材を納入している。農産物直売所だからこそできる、食育との関わり方、また学校給食を事業として成り立たせる仕組みを聞いた。


学校給食納入のきっかけ



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 もともと、アルプス市場が食材納入を始めたきっかけは、交流のあった愛媛県宇和島のミカン農家の低農薬ミカンを、社長の犬飼浩一さんの母校だという塩尻市の広丘小学校に紹介したことだったという。
 現在でも交流が続くそのミカン農家との出会いは、今から18年程前。「売ってあげたい」との思いで学校へ紹介した。するとスタッフのひとりが顔を出していた塩尻市、近隣の松本市などの栄養教諭らでつくる「食育ネットワーク」で評判になりさらに広がっていったという。
 その後、約10年前に塩尻市が地産地消に関する取組みを強化したのと同時に、アルプス市場でも、広丘小学校一校から始まった食材納入が徐々に広がり、品目もミカンだけでなく野菜やキノコ類などに拡大。食材の納入が本格的に始まっていった。
 当初、学校給食の食材納入は想定していなかったという犬飼さん。しかし、きっかけを作ったミカン農家に限らず、犬飼さんの信条は、「生産者のものを売り切る」ということ。民間の経営である同店は、開店当初、生産者の農産物を集めることに非常に苦労した経験があった。犬飼さんは、その経験から「せっかく出荷してもらった農産物を売り切らなければ」という思いを事業の柱に据えてきた。学校給食への食材納入は、「生産者の農産物の販路拡大につながれば」という思いが原点だったという。


事業としての形



 現在は塩尻市内の10校(保育園4・小中学校6)へ食材納入をしている。その全てが自校給食だ。小中学校なら1校600食~800食。学校給食の食材納入の売上は、年間2,500万円程だ。決して利益の出ない事業ではないという。
 納品までの流れはこうだ。

(1)1.5か月前に、月ごとの見積書を発行する。
(2)各学校から発注書が来る。
(3)生産者もしくは市場に発注。
(4)配達日の朝(もしくは配達日の前日)に入荷。
(5)配達日前日の午後に準備し、次の日の朝に納品。

 冬場など食材が生産者のものだけでまかないきれない場合は、市場から仕入れて納品する場合もあるが、生産者からの出荷物を優先するのが基本だ。同店が生産現場や栽培方法を確認し、「この人なら」と思える塩尻市内の生産者約10人のほか、市内でまかないきれない場合は、近隣市町村の農産物を納品する。価格もアルプス市場に出荷する価格以下にはせず、生産者の手取りも確保する。
 また、極力生産者の農産物を納品するために欠かせないのが「情報提供」だ。これまでの実績から、市場仕入れをせざるを得ない時期を示し、この時期にこんな需要がある、という情報を提供することで、栽培指針の目安としてもらっているという。
 しかし、それでも生産した農産物が学校給食だけでは使い切れずに、残ってしまうこともある。そうした時は「直売所だからこそのメリットがある」という。販売する場所を持つ直売所であれば、そうした農産物を店に回すこともできる。ロスを極力小さくすることができるのだ。


情報提供は直売所だからこその強み



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 犬飼さんは、生産者だけでなく、学校への情報提供にも力を入れている。「若い先生や農業をやっていない先生は、旬を知らない人も少なくない」という。
 例えば、旬の時期を知らせるカレンダーを作り学校側に配付、献立に活かしてもらうようにしている。実際の生産者との距離が近い直売所だからこそ、より生きた情報を把握することができる。ほかにも、直接納品に行く際のコミュニケーションを活発にするなど、相互のつながりを強化していくことで、直売所だからこそのメリットが生まれてくるという。「学校給食の食材納入には、他の直売所や業者、 JAなど良きライバルがいますから、この『情報提供』を強みにしていきたい」と犬飼さん。
 また、学校給食に納品するようになって、生産者が学校に招待され、子供達と交流したこともあったそうだ。「いつもありがとう、なんて子供達に言われたら、生産者も嬉しいよね。生産者も報われる」と笑顔で話す。
 そうした交流や店からの情報提供を通し、生産者も学校給食の状況やニーズを把握し、極力形をそろえたり、より良いものを作ろうという努力は惜しまない。それでも、規格の面は、学校側とある程度折り合いを付けていくことが必要だ。自校給食だからこそ可能な面もあるというが、コミュニケーションと情報交換の強化によって、乗り越えられることも多い。


食育に農産物直売所が果たせること



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 「給食費を安く抑える方法は、旬のものを使うことです。旬の時期の農産物は、最も美味しく、最も安い。それを先生に理解してもらい、同じ目標に向かっていければ、地産地消率はもっと上がる。決して難しいことではないと思います」
 栄養教諭達が畑に視察に来て、案内したこともあったという。「今後は、農業についての勉強会や、旬の農産物を使った献立提案までできたら」と犬飼さんは意欲をみせた。
 地産地消の学校給食を進めていくためには、生産現場に近い直売所がリードしていくことも時には必要となる。生産者と学校側の間に立ち、分かり易く相互に情報を伝え、つながりを生み出す。地域農業の拠点である直売所だからこその役割だといえるだろう。
 「食は全てにつながっていると思います。旬の味を知らなければ旬の料理は作れないし、農産物も売れない。たくさん食べ方があるのに家庭でそれができなくなっているのなら、学校がやらなければならないと思います。地域農業のためにも、これは大事な仕事だと思っています」
 「学校給食を通じた食育」は、地域農業の未来の鍵を握るものだといっても過言ではないかもしれない。

(平成28.6.8 産直コペルvol.17より)
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