全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

新規就農その2 イチゴイチエのおもてなし

タイトルなし

 長野県富士見町で、飲み水として利用されている綺麗な湧き水を使用し、夏秋イチゴを栽培する「いちえや」。若き代表の中山陽介さん(31才)が、お客さんとの一期一会の出会いを大切にしたいとの思いを込めそう名付けた。
 農業に関心のある若者は多けれど、実際に就農への一歩を踏み出す人はごくまれだ。そんな中、富士見町の新規就農支援の取り組みが、中山さんにどんな影響をもたらしたのかに焦点を当てた。


飛び込めなかった農業への道



 農業系の大学を出たものの、とりあえずサラリーマンになる道を選んだという中山さん。就農への具体的な道筋や、就農後の将来が描けない不安があり、あと一歩が踏み出せなかったという。
 神奈川でディスプレイ業に6年間従事した。初めての社会人経験。それを通じてわかったことは、「どんな仕事でも楽に勤まるものはない」ということだった。
 苦労するならもっとやり甲斐を求めたい、との思いが強くなり、かつて躊躇した就農への道も視野に入れ、転職を考え始めた。そんなある日、池袋で開催された新農業人フェアにおいて将来を決定づける出会いを果たす。


役場職員の熱意に打たれて



 会場で目に止まった富士見町役場のブース。中山さんにとって祖母が暮らす馴染み深い地だ。
 当時はまだ青年就農給付金などの制度がなく、積極的に就農支援に取り組む自治体も少なかったこともあり、興味を引いた。
 話を聞くと、標高の高い富士見町での栽培に向いている作物の種類や、得られる年収の目安、また2年間の研修期間が設けられていること、さらには独立するまでの補助金や支援内容など、詳細な説明を熱心にしてくれたという。
 「やる気に満ち溢れていた」。中山さんがこの役場職員に抱いた印象だ。念のため他の自治体の支援内容も調べてはみたものの、すでに心は決まっていたという。真剣に就農支援に取り組む富士見町の姿勢と担当者の熱意が、中山さんの背中を後押しした。


難しいからこそやる価値がある



タイトルなし

 心を決めたら実行あるのみ。3ヶ月後には富士見町に移住し、研修を開始することになった。
 最初にお世話になったのは花の苗の農家。そこで1年ほど研修する間、たまたま近所にいた富士見町で初のイチゴ農家と知り合ったことがきっかけでイチゴ栽培に興味を持つ。その後、茅野市でイチゴ栽培を営む生産法人を紹介してもらうことができ1年半の研修を受けた。
 「まだ栽培技術が確立されていないし、イチゴは難しいよ」。
 そう言われたことが、中山さんのハートに火を着けたという。栽培が難しく生産者数も少ない、それをチャンスと考えたのだ。
 「イチゴに決めた」その決心の裏には、国産夏秋イチゴの需要に対して圧倒的に供給が不足しているという冷静な分析もあってのことだった。


親身になってくれた就農支援



 農家の高齢化が進み、後継者不足が深刻な問題となっている現在でも、良い農地はなかなか貸してもらえないものだという。ご先祖様が開拓し代々守り続けてきた土地を、簡単に赤の他人に委ねるわけにはいかないという気持ちからだ。信頼の置ける人間だと認められてはじめて任せてもらえる。
 しかし、中山さんは最初からイチゴ栽培に最適の場所でスタートを切ることが出来た。飲み水にもなる綺麗な湧き水と、もともと田んぼだった平坦な農地はイチゴのハウス栽培にうってつけだ。「担当の役場職員が親身になってくれたことが大きい」と当時を語る。


味のないイチゴ



 カリフォルニア産が9割。日本で消費されている夏秋イチゴの割合だ。つまり、国産はたった1割。食べてみるとその違いはすぐにわかると中山さんは言う。
 「酸味も甘みも乏しく、味がない」。そんな外国産イチゴが大多数を占める中で、少しでも国産イチゴの美味しさを知ってもらい、広めていきたい。中山さんのささやかな夢だ。
 栽培品種は「すずあかね」と、長野県内でしか栽培できない「サマープリンセス」。出荷先は主に洋菓子店のため、実際にケーキを買って食べてくれたお客さんの反応を教えてもらえることもある。
 「イチゴおいしかったよ」。その声が聞きたくてやっている、と中山さんは目を輝かせた。


もうかるかどうかよりも
農業自体を楽しみたい



タイトルなし

 ある程度栽培技術が確立できたとしても、去年と今年では土の状態は違う。毎年まったく同じやり方が通用するわけではない。だからこそ工夫のしがいがあるし、思い通りにイチゴが成長したときの喜びは何ものにも代えがたいものがある。
 「サラリーマン時代に比べ、休みも少ないし、気も休まらない。でも農業は楽しい」。そう語る中山さんの表情は明るい。
 その土地で暮らし、地域の役割を背負いながら、自分の出来る範囲でいいものを作る。もうかる農業よりも楽しむ農業を実践する先輩として、「新規就農者の見本になれればいいな」。照れくさそうに笑った。

(平成28.3.2 産直コペルvol.16より)
産直コペルとは

全国の直売所や地域おこしの先進事例が盛りだくさん!「農と暮らしの新たな視点を探る」をテーマに、日本各地で地域おこしに奮闘する人々を取材した隔月発行の全国誌です。購読のお申し込みはこちら! 年間6冊3,300円(税・送料込み)です。

別冊産直コペル

手づくりラベルで農産物&加工品の魅力UP大作戦!
商品のラベルづくりにお悩みの農産物直売所、生産者、農産加工所の皆さま、必見の1冊!

バックナンバー

産直コペルのバックナンバーはこちら!

記事一覧