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土から育てる vol.4 土耕で年間14回転のベビーリーフ栽培

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 土中微生物の活性を高めることを柱にしとした「土づくり」からの農業。そのトップランナーを訪ねる本シリーズは、連載開始以降、読者に大きな反響を呼んでいる。
 4回目の本号では、熊本県肥後平野で野菜栽培を進める小原弘一さんを訪ねた。小原さんは、「合計8町2反の施設圃場でベビーリーフ、トマト、レタス、ミツバを栽培し、年間9億円を売上げる。栽培品目や販路などとの関係で、もともとの農業生産法人(有)ベジタブル・ユーのほか、(株)小原農園、(株)ベジタブル・ウエルの3社を経営し、総勢48人のスタッフで、周年で栽培・出荷している。スタッフのうち10人は障害を持つ若者たちだ。
 小原さんの農業を象徴するのは、年間14回転させている土耕のベビーリーフ栽培。出荷されるベビーリーフは、常にみずみずしく、しゃきっとして、「甘い」「味がある」と評判。大量生産されるベビーリーフにありがちな育て過ぎのゴワゴワ感がない。
 「ベビーリーフだけでなく、野菜栽培のカギを握るのは土づくり」。こう言い切る小原さんに話を聞いた。


良質で値が付くものをきちんと作る



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 小原さんが栽培し販売するのはベビーリーフ、トマト、レタス、ミツバの4種類。中でも6町2反の圃場でつくるベビーリーフが主力商品だ。
 「土耕で、一区画ごとの生育状況がこれだけ均一なのは、そうざらにはないと思います。これはちょっと自慢したいですね」。圃場で小原さんはこう語り出した。
 先にも触れたようにベビーリーフは年14回転、播種から収穫までを繰りかえす。圃場は広大で、区画ごとに作業が進められるが、その区画の中に、育ちすぎたものや、色が異なるものなどが混在せずに、均一・均質に育てられている。水耕栽培ではなく、連作障害を起さずに土耕栽培でこれをするのは高い技術が必要と言われる。
 「菌や微生物がたくさん居り、活発に動いている土にミネラルなどの微量要素を必要なだけしっかり入れてあげることが肝心。あとは日差しや温度などをきちんと管理することが重要」と話す。化学肥料は一切使わない。農薬も夏場の一時期を除いて基本的に使用しない。
 甘く・味がのっているほか、薄い黄緑色で柔らかいのが特徴。化学肥料を使ったり、水耕栽培で育てたものの多くが、出荷時に緑が濃くやや大振りになったり、或いは軟弱で日持ちの悪いものになっている。それは、それらのベビーリーフが、〝ベビー〟=若葉のウチではまだ葉や茎が軟弱なため、ある程度の大きさまで栽培しなければならないからだ。「あれではベビーリーフを作る意味がない」と小原さん。小原さんのベビーリーフは、土の力に支えられて若葉のうちからでもしっかり育つ。だから口当たりの柔らかいうちに出荷できるのだ。このことにより他所よりも早く収穫できる。これが、通常は8~9回転と言われるベビーリーフの栽培を、実に年間14回転させている秘訣にもなっているという。
 1町5反作るトマトの栽培方法も極めて特徴的。特殊な配合で作った土を20リットルずつパックに詰め、そこに2本の苗を植え、一本から二つの枝を出して4株見当に増やす。それに有機質の液肥を含む溶液を与える土耕溶液栽培だ。
 甘みも強く、酸味も強い、実に味の濃いトマトになる。実際食べてみたが、まさにそう表現するべき味だ。不思議なことに、このトマトも、明るい黄緑色の柔らかい葉をつけている。一般的には、味ののるトマトは、葉が濃い緑色のゴワゴワしたものになるが、これとは正反対なのである。「いろいろ挑戦してみて、このように作るのが一番おいしくなる」と小原さん。
 消毒は通常の7割減。ボルドーは使わない。殺菌もあまりしない。有機質の液肥を混ぜ込んでいるため、通常ならば水が腐るが、パック内の土に多くの優良微生物が棲んでおり、その活躍で水は清浄なまま循環している。
 これをさらに進化させたのが、レタスやミツバの水耕栽培。栽培面積は5反ある。「土からつくる」と銘打ちながら水耕栽培に触れることに疑問を持つ方もおられるかもしれない。
 しかし、障害者や高齢者の就労先確保のためにも農業の作業強度(作業のやさしさや苦しさの度合い)の低下を図り、なおかつ土耕と同程度の品質を確保するために水耕栽培にも有機質液肥を使用していると聞けば、ここで水耕栽培に触れることも十分に納得していただけることだろう。もちろん、この水耕栽培の溶液にも優良微生物が混ぜられており、その力で有機質の酸化腐敗を防いでいる。レタスもミツバもしっかりした歯ごたえがあり、香りも土耕並みに強い。
 小原さんが、このような独自のこだわった栽培法を用いて野菜を作るのは、「普通に作っていたのでは差別化されません。高品質で良い値段が付くものを、丁寧に作ることが自分のモット―だからです」という。


『土づくり』と出会い、本気になった



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 では、小原さんの土づくりはどういうものであり、いかに進化してきたのか?
 「農業の根幹は土づくりだと思います。効果の高い菌や有用微生物を自分で独自に培養することは困難です。しかし、自然の山は肥料も農薬も入れないのに、蓄積した枯葉が発酵分解して良い栄養分になり、それで大木が育っている。そういう自然の山の土の原理を、自分の農地に活かしたいと思うのです」。これが、まだまだ発展途上だとはいえ、一応現在の到達点だと言えるのだそうだ。
 そして、その具体的方法として、

(1)魚のガラの粉末100キログラム、米ぬか30キログラムに特殊な複合菌850g、糖蜜5ℓを混ぜあわせ、水分が50~60%位になるようにお湯を加え、50℃位になるようにして毎日一回切り返し2週間発酵させる。
(2)発酵した(1)を堆肥50㎥に加え、全体を発酵させる。黒砂糖を加えても良い。堆肥の原料は、茶ガラ5割、タケノコの皮3割、コーンコブの粉2割。
(3)十分に発酵した(2)を年に1回、6月か10月に畑に入れる。この際バイオ酵素をあわせて散布する。この時期は麹が発酵しやすい時で、ほぼ、その地域で味噌づくりがピークを迎える時と同じだという。一晩で畑が真っ白になるほど有用菌が増殖する
―こういう仕込みを4~5年繰り返すと、とても良い土ができると小原さんは教えてくれた。

 もちろん、こうした土づくりにたどり着くには、長い試行錯誤があった。小原さんが先代の下で農業の道に入ったのは21歳の時。大玉トマトとメロンを作っていた。「でも、仕方なく就農した感じで、あまり、というか、ほとんど熱心じゃなかったですよ」と笑う。
 すぐに壁にぶつかった。見よう見まねで作物を作るが、皆、連作障害で枯れてしまう。土壌消毒剤で殺菌して再挑戦。その年は何とかなっても、次の年には同じことの繰り返し。こういうことを5年程続けた。
 「どこかが根本的に間違っているのではないか?」こう思い始めた頃に、島本微生物農法に出会ったことが大きな転機になったという。島本微生物農法とは、日本で初めて木材クズを発酵させて堆肥にして使用したと言われる島本覚也氏が提唱した、土中の微生物を活性化させることで地力を上げることを柱にした農法のこと。この農法に出会い、小原さんは、それまでの自分の農法が、土中の微生物を増やすどころか、それを殲滅してしまうものだと知り、自然の山の土の原理を実行することを目指して、減化学農薬・減化学肥料へとかじを切る決意をしたのだ。
 それから約40日間、作物を上手につくる人がいると聞けば教えを乞いに行き、土づくりの上手い人がいると聞けばそこを訪ねて、徹底して研究した。そして、この40日間を手始めにして、先に見たように、「自然素材を原料にし、特殊な複合菌を利用して、土中の有用微生物の活性をはかる」、小原さん独自の土づくりの基本部分を確立していったのだそうだ。このプロセスでは、自身の息子さんに難病が発生し、大きなショックを受けたことも関係しているという。
 この土づくりにより、先代から引き継いだメロン栽培では、一般の反収の1.5倍を収穫するようにもなった。味も良くなった。トマトも同様だ。
さらにバブル経済の破綻をきっかけにメロン栽培に見切りをつけ、新たに着手したベビーリーフ栽培でも、良質の品を出荷する農家として、その名を全国に知られるようになっていった。 

 

その土地の地場菌・微生物の力を借りて



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 「そんな小原さんの噂、熊本に土づくりにこだわっている農家がいるという噂を聞いて、ぜひ会ってみたくなり、訪ねたのが10年前。あれが最初の出合いだったのでしたかね?」今回の訪問もアテンドしてくれたNPO法人「土と人の健康つくり隊」(長野県宮田村)の伊藤勝彦理事長が話し始めた。
 伊藤さんは、小原さんの圃場で土を見せてもらった時に、その土づくりの見事さに驚嘆しながらも、「土中に埋めた資材が完全に分解され切っていないような感じ」を受けたという。「匂いがちょっと違う」ことでそう思ったのだそうだ。
 そこで伊藤さんが持参したバイオ酵素を提供し、使用を促した。小原さんは、それを自分の圃場に散布してからほどなくして、圃場の土が動き出し、山の土の匂いになっていると感じ、伊藤さんが提供したバイオ酵素の効力を感じ取ったという。
 そんな出会い以降、小原さんと伊藤さんは、土づくりの「同志」として親交を重ねてきた。取材の日に、二人が交わした土づくりに関する意見交換のうちから、核心部分と思われることをまとめておこう。

(1)一般に作物の栄養分になると言われている有機素材は、低分子まで分解されないと植物は吸収することはできない。有機素材が分解されるプロセスには、腐敗と発酵の二つがあり、主に悪玉菌が主導する腐敗プロセスでは、有機物が完全には分解されず吸収されにくい。一方、善玉菌が主導する発酵プロセスだと、分解は十分に進み、更にビタミンや有機酸等有効成分と共に植物はそれを十分に吸収できるようになる。
(2)この発酵プロセスで善玉菌が良く働くと、空気中の窒素を土中に取り込むことも進み、窒素系の化学合成肥料の使用を軽減できる。
(3)発酵プロセスを主導する乳酸菌や酵母、放線菌等の善玉菌の活性化を図ることが土づくりのカギである。この善玉菌のうち代表的な数種類の菌を独自に培養して堆肥づくり・土づくりに利用しようとしているのが一般に「〇〇菌」などの商品名の菌資材。また菌・微生物の活性を上げる触媒のようなものとして酵素を活用しているのが酵素素材。
(4)世に出されているこうした資材は、どれも効果があり、有用なのだが、一番、効率的でかつ効果があるのは地場に住み着いている地場菌を使うこと。この地場菌を発酵プロセスに引き込み活性化させるのがバイオ酵素。
―などであったが、紙幅の関係上、紹介はここまでにする。

 さて、最後に、小原さんに今後の抱負と夢を聞いた。もちろん、「自然の山の土の原理」を活かした土づくりで、美味しい野菜を世に送り出し続けることが最大のテーマだが、そのプロセスで「農家が農業に魅力を感じられること。障害を持つ人たちも農業で充実した生活が送られるようになること」も大きな目標の一つだという。「自然の山の土の原理」は人々に美味しく健康な食をもたらす。そして、それを活用する農業は、人々に本来あるがままの人と人の結びつきをもたらす。そういうことを目指して農業に打ち込んでいくという決意が込められているように思えた。
 農業は人と社会を変える大きな可能性を持っている。


● (有)ベジタブル・ユー
〒861-4127
熊本県熊本市南区内田町2614-1
TEL:096-223-3577 
FAX:096-223-3578

(平成28.1.4 産直コペルvol.15より)
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