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土から育てる vol.3 世界に誇る高品質ブドウを生む「土づくり」

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 長野県上田市、塩田平と呼ばれる古くからの農業地帯に、日本中の青果商・フルーツショップ・ブドウ栽培関係者で「知らない人はいない」と言われるブドウ農家・飯塚芳幸さんがいる。栽培方法などの視察研修で、全国各地、いや世界中から訪問客が絶えない飯塚さんもまた、完全発酵肥料を使った土づくりの第一人者。まさに「土から育てる高品質ブドウ」を地で行く人だ。
 NPO法人「土と人の健康つくり隊」の伊藤勝彦理事長のアテンドで、全国の土づくりにこだわる農家を訪ねる本シリーズは、連載開始直後から、直売所や出荷農家に「やっぱり土づくりから力を入れなければダメだ」という大きな反響を呼んでいる。連載3回目の本号では、日本のブドウ栽培を牽引する飯塚さんにお話をうかがった。


〝日本にこの人あり〟のブドウ農家



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 飯塚芳幸さん。ブドウの季節になると、東京の高級フルーツ店に飯塚さんの名前を前面に出した特別の陳列棚が登場したり、各種の大手通販サイトで特選品として取り扱われたり、この人が栽培したブドウは最高級品として引く手あまたの人気商品となる。一房で1万円以上の値がつくこともザラ。日本農業コンクール(毎日新聞社主催)優秀賞、長野県知事賞6回受賞をはじめとする数々の受賞歴もある。
 ブドウの栽培面積は1ヘクタール。施設栽培が約6割で、残りは露地。化学肥料不使用・化学農薬極少量使用の栽培に徹する。全量、農水省のガイドラインに従った「特別栽培農産物」だ。JAS認証制度と同じ審査員が毎年圃場巡回などをして認証しているという。
 栽培する品種は極めて多種類。列挙してもらうと―巨峰(種あり)、ピオーネ、ナガノパープル、シャインマスカット、紅環(べにたまき)、ロザリオビアンコ、ティアーズレッド、プリモアモーレ、翠峰(すいほう)、アウローラ21、アリサ、ルーベルマスカット、安芸クイーン、信濃スマイル、クィーンニーナ、きらめき、オリエンタルスター、和香(のどか)、マスカットビオーレ、バイオレットキング…と20種類を超えた。
 品種数もさることながら、どの品種も専門店に出荷できる形で栽培していることが自慢。これは全国でも類例がないそうだ。栽培するブドウの内、商品として出荷できる率を示す秀品率は9割だというから驚きだ。もう一つの驚きは、ブドウの実の糖度。目の前で測定してくれたが、シャインマスカットは20・2度、巨峰は20度。紅環はなんと27度にもおよんだ。
 「人間にも個性があるように、ブドウにも品種ごと、もっと言えば樹ごとに特性があります。その特性を発揮できるように育ててやれば、それぞれの味の深みが出てきます」と飯塚さんは話す。
 ちなみに販路は、生産量の3分2が、飯塚さん自身が取締役を務める株式会社マルタ(発酵肥料等農業資材の販売と農産物の流通を担う会社)を通じて全国の専門店・デパート・大手通販会社に出荷され、残りの3分の1が、昔からの固定客に向けて宅急便で発送されるのだという。


ブドウ栽培と土づくり



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 では、「ブドウの品種ごとの特性を発揮できるように育てる」とはいかにしてか? 
 ブドウ全般については、ツルにできる節の間をできるだけ狭くし、葉は可能な限り小さく、かつ厚くなるように育てるのがカギだという。たしかに、飯塚さんのブドウ園は、他のブドウ園に比べて、葉がかなり小さく、その分、ブドウ棚の下が非常に明るい。巨峰などは、明るい方が、実の色の乗りもよくなり、糖度も高くなるという。
 また例えば、種なし品種の場合などは、ツル先を短めに剪定することが味の乗りを良くするのだそうだ。
 「種ありの場合は、種にDNAを集中するためだと思うが、実の方に養分を引き込む力が強い。種なしは、比較的その力が弱いので、こまめにツル先を切ってやることが大切だ」と飯塚さんは話す。
 摘果、剪定、房の伸ばし方、袋や日よけのかけ方…様々なノウハウがあるそうだが、こと土づくりに関しては、意外なことに「どの品種も同じ」だと言う。
 先にも触れたように、飯塚さんは株式会社マルタの取締役。この会社は、菌など土中の微生物を活性化させることを第一義におく「モグラ堆肥」と名付けた有機発酵の肥料・堆肥を製造販売しており、飯塚さんも当然それを使用している。しかし、それだけでなく、今回もアテンドしてくれたNPO法人「土と人の健康つくり隊」の伊藤勝彦理事長とめぐり会って以降は、伊藤さんが奨める「バイオ酵素」も「モグラ堆肥」とともに使用している。堆肥に混ぜたり、圃場に播いたり、場合によっては葉面散布もする。
 「土づくりは秋のうちにしっかり行う。その時にこの酵素を使うと、堆肥を酸化・腐敗の方向ではなく、合成・発酵の方向に向かわせる力を発揮してくれる。これは私の考えだが、おそらく、発酵を司る微生物のリレーが起きるのだと思う。堆肥などの養分は様々な無機物に分解され、その樹が必要としている成分を充分に供給してくれる。そのことが、品種ごとの、樹ごとの特性を引き出すことにつながっていると思う」と話す。


酵素を活用した土中微生物の活性化



 「植物が物を生産する。その生産物を消費するのが動物。その消費されたもの(糞尿・死骸・残さなど)を分解するのが微生物だ」と話す飯塚さん。土づくりのカギを握るのは土中微生物の活性化だと考えている。
 例えば「完熟堆肥」と名付けられた堆肥がよく販売されているが、「完熟」という定義はどういうものなのかは「はなはだ曖昧だ」と指摘する。糞尿や落ち葉・枯草などが良く分解されていれば「完熟」なのか? そういうものは「栄養源」にはなるけれど、それだけでは作物が元気になる「エネルギー源」にはならないものが多いと言う。
 「栄養源をエネルギー源に変えるのが、微生物。微生物はものを分解するが、その活性が高いほど、分解された栄養素を作物が吸い上げるのを応援する。この力が、栄養源をエネルギー源に変える。そういう堆肥が『完熟堆肥』だと思う」と力を込めた。
 そして、この微生物の活性が高いのは、酸化・腐敗の過程ではなく、合成・発酵の過程であり、この後者への道筋をより鮮明につけるのが「バイオ酵素」だと解説してくれた。
 飯塚さんが、伊藤勝彦さんと出会い、バイオ酵素の存在を知ったのは13年前。伊藤さんが勤務していたスーパーのギフト商品にしたいと飯塚さんを訪ねたことがきっかけだった。しかし、その時点で既に「モグラ堆肥」による土づくりの威力を実感していた飯塚さんは、易々とバイオ酵素の使用に踏み込みはしなかった。
 しかし、どうしても元気にならず、枯れるに任せるしかないと踏んでいた一本の甲斐路(ぶどうの品種名)の木に、まだ雪があるころバイオ酵素を施したところ、見る間に元気になった。驚くべきことに、その年の秋には最盛期の7割の収穫があった。奥さんの悦子さんが感激して、バイオ酵素を使い続けたところ、次の年には100%復活、その次の年には120%と増収に転じた。
 「あの枯れそうだった甲斐路が…」。飯塚さんがバイオ酵素の本格的導入に踏み切ったのは10年前。存在を知ってから3年の月日が過ぎていた。


土づくりと人間関係づくり



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 「それまでの自分の土づくりに自信と自負があった」と飯塚さん。
 飯塚さんは1949年、同地の農家の6代目として生まれた。高校卒業後は長野県農業技術大学園(現在の長野県農業大学校)に学び、JAの営農指導員として長野県山形村に赴任した。25歳で農業を継ぐため実家に戻るが、これが土との格闘の始まり。
 実家では飯塚さんが中学生のころにブドウ栽培を始めていたが、開始当時は同じ自治会で30軒程度あったブドウ農家が、飯塚さんが実家に戻った時点ではたったの3軒に減少していた。ブドウ専業農家は飯塚さん宅だけだった。
 ネックは土。飯塚果樹園周辺はもともと水田地帯で、水はけが悪く、ブドウ栽培には不向きと言われた。その地で、土中に排水路を巡らせ、有機物を施し、まさに、「土づくりからのブドウ栽培」を進めてきたのだ。有機栽培や微生物について学ぶ機会にも恵まれ、株式会社マルタに集まる「モグラ堆肥」の仲間たちとも協力して、おいしいブドウづくりを目指してきた。
 「自分だけでなく、親父や色々な仲間の力で進めてきた土づくりだったから、新しいものに手を出すことはかなり躊躇した」と振り返る。
 それでもバイオ酵素使用に踏み切ったのは、「もっと良い物を作ろう」という熱い思いのゆえ。モグラ堆肥と併用でき、さらに威力を引き出すことができること、また、酵素としては類例のないほどお手軽価格であること―なども利点として働いたという。
 実際に使ってみると、それまでの土づくりで蓄えられていた地力を一挙に引き出すかのように効力を発揮し、見る見るうちに、ブドウ畑は元気に、きれいになっていったと言う。
 「今度はね、そのブドウ畑を見たい、土づくりを教えてほしいと、全国各地から、ブドウ農家が仲間を連れて訪ねて来るようになった。それで人間関係も拡がり、土づくりや栽培技術のこと、人気品種や販路形成に関わること―などを自由に意見交換できる人の繋がりも大きくなってきています」と飯塚さん。
 まさに、「土づくり」が「人間関係づくり」と同時に進んできたというわけだ。
 飯塚さんの希望は「美味しいブドウを栽培し続ける」こと。そのために、飯塚さんは、今日も、土づくりと人間関係づくりに励んでいる。

(平成27.11.20 産直コペルvol.14より)
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