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農福連携その5 地域の課題に向き合う「農福連携」の推進

 現在、「農業と福祉の連携」推進に向け、農林水産省と厚生労働省が互いに連携し、情報交換や調査活動を進め、関心のある事業者への情報提供や支援事業を強化しているという。近年、第1次産業への障害者の就職件数に大幅な増加もみられる。ハローワークを通じた農林漁業への障害者就職件数は、2,728件(平成25年度)、この5年間で265%増と全業種のそれ(75%増)を大きく上回って伸びているのだ。また、農業活動に取組む福祉事業者も近年増加傾向にあるという。
 とはいえ、障害者施設で行われる「農業」は、まだまだ作業の下請け程度という形態も多い。経営面においても安定的な収入を得られる状況になるには課題もある。事業を展開するには、「農福連携」に関わる領域の政策や制度の活用も想定されるだろう。
 今回は、障害者や生活困窮者、高齢者福祉を中心に、「農福連携」に関する現在の支援事業や方向性について、農林水産省食料産業局・外食産業室長(取材当時)山口 靖さんと、厚生労働省社会援護局・生活困窮者自立支援室長(取材当時)熊木正人さんに話を聞いた。


農業と福祉を基軸にした産業づくりを



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 近年、地域資源を活かした「コミュニティビジネスの先進事例や、分野を越え、地域が一体となった社会的事業が報告されています。
 中でも、「食と農と福祉」が地域の中で一体となり展開することで、分野をまたいだ行政的課題を検討していくことができます。また、食と農の「福祉的価値」に着目することで、高齢者の暮らしを支える生きがいづくりや農業活動を通じた心のケア、障害者雇用等を促しつつ、「農」と「福祉」が一体となった地域ビジネスを育て、地方での新たな仕事の創出につなげていくことが期待できます。
 もともと、農村では、「食と農と福祉」は暮らしの中で一体となり存在していました。その暮らしを評価し直すと共に、単なる回帰ではなく、コミュニティの中で、総合的に地域の課題に向き合う枠組みづくりの検討も必要でしょう。「儲かる農業」とは別の基軸で進む農業の形もあると考えています。
 しかし、「農福連携」を進めるには、地域で共通の意識を醸成し、皆で取組もうという場づくり、すなわち農業・福祉関係者だけでなく、企業や行政なども含めた横のつながりを築き、「食と農と福祉の連携」におけるマネジメントを担う組織づくりが不可欠です。その中で「農業と福祉」を基軸にした産業づくりを促していく。そこには、必ずしも補助金を活用した事業の継続ではなく、「小規模な成功」を支援するためのスキームの構築も必要です。
 加えて、6次産業化や高齢者介護、生活困窮者や障害者の支援、地方創生に係わる施策など、取組みに関わる領域の政策・制度についての周知を図り、それらを活用した具体的な「食・農・福祉」の連携事業を推進させていくことが求められていると感じています。そして、地方における事業者の連携をもとに業種をまたいだ人材育成を進めていくことも重要です。
 「農福連携」は「まち・ひと・しごと創生」へ向けた、ひとつの重要な要素となると期待しています。


農業で生活困窮者の自立を支援



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 2015年4月、「生活困窮者自立支援法」が施行されました。生活保護に至る前の段階である引きこもりやニートなど生活困窮者の自立支援を強化するための法律です。
 特徴的なのは、福祉事務所を設置する各自治体に、生活困窮者に対する「自立相談支援事業」の実施と「住居確保給付金」の支給が必須事業として義務付けられたこと。自治体は、各人の就労や自立に関する相談支援、事業利用のためのプラン作成等のきめ細やかな支援を行うことが定められました。また、「就労準備支援事業」(就労に必要な訓練を日常生活自立、社会生活自立段階から有期で実施する事業)の実施も促しており、これらには、自治体に対して(委託も可)、公費が支払われます。
 この新制度は、困窮者を救済することに加え、担い手不足が深刻化する農林水産業と結びつけることにより、「地域で支えられていた人」が「支える人」に回るための仕組みづくりに活用されることも想定しています。
 例えば、「農業」を「就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」の場として位置づける。第1次産業には、各人の特性に応じた作業の多様性があり、また自然とのふれあいによる情緒の安定、一般就労に向けた体力・精神面での訓練などが期待でき、生活困窮者の自立促進に有効だと考えられます。実際、農業体験により、引きこもっていた人が外に出ていくきっかけになったという事例もあります。現在、「生活困窮者の就農訓練事業」も検討しており、地域農業の担い手確保の面でも期待があります。
 しかし、こうした取組みは福祉分野だけではうまくいきません。農林水産業と連携し、高齢者支援、障害者支援等も含め、包括的に地域課題の解決を図ることが求められます。
 「農福連携」は、とりわけ人口減少、高齢化が進む地方において、特に重要度を増していくと考えられます。今後、先進事例の蓄積・普及を図りつつ、農水省ともタイアップしながら助成などの支援を強化していく予定でいます。農業・福祉分野双方がWINWINとなるような取組みを官民協同で進めることで、「相互に支え合う」地域づくりが実現していくことを期待しています。


支援事業紹介



◆農地の利用/農園の整備
福祉目的での農園の整備に以下の事業が活用可能。専門家の派遣、研修会の
開催等に加え、農機具の洗い場、トイレ、駐車場等の付帯施設も助成対象。
○都市農村共生・対流総合対策交付金
 ソフト事業定額(1地区当り上限800万円)
 ハード事業1/2以内(1地区当り上限概ね2,000万円)
 実施主体:地域協議会、農業法人、NPO等
○都市農業機能発揮対策事業
 ソフト事業定額(1地区当り上限150万円)
 ハード事業1/2以内(1地区当り上限概ね1,000万円)
 実施主体:民間団体、NPO、市町村、社会福祉法人等

◆高齢者の生きがい活動・健康づくり
○高齢者生きがい活動促進事業
 高齢者が生産した農産物を用いて行う配食サービス活動、高齢者による有償
 ボランティア活動の立ち上げに活用可能。
 補助率:1カ所あたり100万円
 実施主体:市町村

◆障害者雇用等の支援策
障害者の雇用や職場環境の整備、職場定着に関する支援などがある。
○障害者作業施設設置等助成金
 障害者が作業を容易に行うことができるよう配慮された作業施設等の設置
 等を行った事業主に支給(例:障害者1人につき上限450万円 等)
○特定求職者雇用開発助成金、発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金 
 ハローワーク等の紹介により障害者等を雇用した事業主に対し助成金を支給
 (例:中小企業が雇用した場合、最大240万円など)

参考:福祉分野に農作業を~支援制度などのご案内~(厚労省・農水省発行パンフレット)

(平成27.11.13 産直コペルvol.14より)
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