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農福連携その3 地元生産者と歩んだ10年間

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 京都府綾部市にあるうえすぎ松寿苑デイサービスセンターが開設したのは2006年。その翌年には松寿苑に併設する形で、グループホームうえすぎが開設した。両者は、社会福祉法人松寿苑が運営する認知症高齢者のための介護福祉施設だ。グループホームでは5名が生活し、松寿苑では1日最大10名がデイサービスを利用する。両施設では、開設当初から地元東八田地区の食材を使った料理を提供することにこだわっており、施設関係者と地元生産者とのつながりも強い。
 施設の管理者田中良樹さんと、地元生産者団体八田芽グループの組合長四方克代さん、副組合長の吉崎節子さんに、両者の連携のあり方について取材した。


直接野菜を買うことで生まれる交流



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 「提供する食事には、できるだけ地元の食材を使いたいと、施設がスタートする時に地元の団体にお願いに行きました」。そう話すのは、施設の管理者を務める田中良樹さん。八田芽グループとは、その頃からの付き合いで、今年で10年目になる。
 両者の連携は、ただ、施設が八田芽グループから地元野菜を毎月一定量仕入れるということだけではない。グループホームうえすぎの入居者が、施設スタッフと共に、八田芽グループの生産者の所へ週に3回直接野菜を買いに行くのだ。
 具体的にはこうだ。八田芽グループでは、自分たち独自の店舗は持たずに、週に4回野菜を集荷してトラックに乗せ、スーパーの直売コーナーへと出荷している。そして出荷の前には、集荷場で地元の人を対象とした朝市を開催する。
 グループホームの入居者と施設スタッフは、この朝市を週に3回訪れ、トラックに乗せられた野菜の中から自分たちで好きなものを選んで購入するのだ。2日に1度の頻度で野菜を買いに行くため、施設で出される食材はどれも新鮮そのものだ。
 「その時その時で出ている野菜が違うから、そこに来てもらうことで、季節にともなって野菜が移り変わっていくのを楽しんでもらっているんです」と、四方さん。「外に出かけて、野菜を見て、季節を感じる。いいことやな」。そう言って笑う。
 生産者らが、施設の入居者とスタッフにその場でレシピを教えて、その日の献立にメニューが組み込まれることもあるのだという。
 「レシピを教えたり、『元気かー?』と声をかけたり、なんともいえん雰囲気で自然に交流してます」と四方さんは微笑んだ。 


小さな畑で育てるたくさんの野菜



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 また朝市での交流以外にも、施設で持っている菜園の手入れを、八田芽グループが引き受けている。土をおこして種をまき、マルチをひいて、肥料をまく。そしてその畑に実った野菜を、入居者やデイサービスの利用者が収穫するのだという。小さな畑に何十種類もの野菜を育て、季節ごとにいろんな野菜を収穫できるようにしている。
 「昔農業をやっていた方なんかは、農作業が体にしみついている人もいて、収穫をすることでその頃のことを思い出す方もいますよ」と、田中さん。農作業の話をしても反応しなかった人が、体にしみついた農作業を実体験することで「採る喜び」を思い出すのだという。
 「農作業自体は難しくても、収穫だけならできる人もいる。皆さん楽しんで収穫していますよ」とその様子を教えてくれた。


3日間かけてこうじから作る味噌



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 また、四方さんが中心となり、年に1回施設利用者と一緒に味噌作りも行っている。原料となる米や大豆等すべて八田芽グループが用意して、施設で利用する1年分の味噌を3日間かけて作るのだ。こうじから手作りするという味噌は、「味が全然違いますよ」と、田中さん。「買ったものとはやわらかさが違います」と、吉崎さんもその味噌の出来に太鼓判を押す。
 毎年原料の準備から、味噌作りの講師をし、豆から一斗もの味噌を作るのは決して楽な仕事ではない。「もうやめたいやめたいって言ってるんやけど、皆が『おいしいおいしい』って言ってくれるからなかなかやめられんのです。それに、みんな楽しそうに味噌作ってますしね」。四方さんは笑顔で話してくれた。
 施設で提供される毎日の味噌汁は、自分達がこうじから作った味噌で作られる。使われる野菜も自分らで収穫したり、生産者から直接購入したもの。とても楽しくて贅沢なご飯の時間だ。


交流のために悩んだ時期もあった



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 松寿苑の利用者らと、八田芽グループがはじめから今のような関係性だったわけではない。
 「認知症の方との関わり方に悩んだ時期もあったんです」。四方さんと吉崎さんは当時を振り返る。
 「どのように接したらいいのかわからない」というメンバーからの声を受け、八田芽グループでは、松寿苑の方と共に、認知症の方への接し方についての勉強会を開いた。何がだめで何が良いのか学んだことで、戸惑いや不安も小さくなったという。
 「(利用者に対し)『こないして食べたらいいで』と、1言2言声をかけるだけで、交流になって良いんだってことを、私たちが勉強できた」と四方さん。「今は不安もなんもあらへん。ただ自然に接するだけ」。そう話す。
 今では、朝市に野菜を買いにきた利用者に生産者らが声をかけるのが当たり前の状態になっているそうだ。


辞める時がないからどうしよう



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 また、四方さんは9年前から施設の運営委員の役員となり、2ヵ月に一度の運営会議にも参加している。どの人がどんな状況なのか、そこで話を聞いて理解するのだと言う。
 朝市での販売にとどまらず、畑の世話や、味噌作り、運営委員会への出席など、無償で行うこれだけの活動を、なぜ続けてこられたのだろうか。そう尋ねると、四方さんは次のように語った。
 「私たちも年だし、もうエラいんやけどね。『これが食べたい』言うて買いに来て、美味しいって喜んでくれる。やっぱそれがうれしいから。辞める時ないなー、どうしよう言うてるんですよ」。
 今から20年ほど前に結成したという八田芽グループの面々の平均年齢は70歳を越え、メンバーも16人と、少なくなった。それでも自分たちにできることで喜んでくれるのならと、施設と積極的に交流を深めてきた。
 「『この先、年とって動けなくなったらここに入れて』って頼んでありますしね」。そう言って笑う。


地域の高齢者の暮らしは地域で支える



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 「高齢者福祉は、『地産地消』の考え方と通じるところがあると思うんです」と、田中さんは語る。「地域の高齢者の方の暮らしは、その地域が支えるということ。顔が見える関係性でつながることが大切だと思っています。そしてそれを実践してくれているのは八田芽グループさんなんです」。
 それに対し四方さんは、「ほんとにたいしたことしてるわけでもないし、私たちはささいなことしかしていない。ただ長い付き合いの中で、良い方へ良い方へ考えながら、やっと形が見えてきた感じかな」と、これまでの交流に思いを巡らせた。
 地域とのつながりを大切にする田中さんらのもとには、「どこどこの誰それさんが、こんな症状だけど大丈夫だろうか」と言うような、高齢者に関する相談が寄せられることもあると言う。
 「そうやって支え合いながら、お互いがウィンウィンの関係で認知症の人らを地域で支えていけたら」と、田中さんは今後への期待を語る。 
 お互いが構えず、ムリせず、自然な形で交流してきた松寿苑と八田芽グループの関係性のあり方に、高齢者福祉と地域農業の連携の可能性の広がりを感じた。


うえすぎ松寿苑
〒623-0102 京都府綾部市上杉町花ノ木2番地3
TEL:0773-44-8100
FAX:0773-44-8105

(平成27.10.29 産直コペルvol.14より)
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